メンバー:M藤L、H田

昨年12月、三叉峰ルンゼと勘違いして無名峰ルンゼを登ってしまった時に左手にあるルンゼに目が留まった。
3月に摩利支天沢を詰めて阿弥陀岳へ登攀した際に北西稜からはそのルンゼが一望できた。岸壁を深く抉り一直線に突き上げている。上部は傾斜が強く黒い岩肌を晒し氷雪の付着がない。この部分は厳しそうだ。来シーズンはあいつを登ることにその場で話はまとまった。
 
小同心ルンゼ。ネット上では夏冬ともに記録は見当たらない。小同心左岩峰と右岩峰に挟まれたチムニー滝は、大系ではチムニールート40m(Ⅳ+A1)とあり「2段にハングしており難しい。上部はチムニー左側から巻くがここも悪い」と紹介されている。たった40メートルで登攀時間が2時間とあるのも気になった。
出発直前にネット検索したところ、三叉峰ルンゼと間違えて小同心ルンゼを登った記録が出ているではないか。「やられた!」と思ったが、チムニー滝は無理と判断して高巻いて抜けており、一安心。「アルパインアイス(ミックス)で高巻いたら完登とは言わない」は、単なる独断だが、そんなくだらない拘りが重要だ。
 
 
 
 
12/10(土)
赤岳鉱泉から裏同心ルンゼ経由で偵察に向かう。ロープを出すことなく1時間足らずで大同心へ到着。天気は快晴で暖かい。
小同心ルンゼ取り付きを回り込んだところがチムニー滝の取付き。見上げるチムニー滝はトポどおり2段にハングしており、上部チムニーは手強そうだ。
岩混じりの砂岩は極めて脆くバイルで叩くをボロボロと崩れる。A1ピッチの筈だがボルト類は欠損しているようで見渡す限りビレイ点すら無い。
リードが飛んだらビレイヤーごと背後のルンゼに飲み込まれてしまいそうだ。
 
 
 
 
12/11(日)
8時赤岳鉱泉発。稜線はガスに覆われている。登山道から分岐し、1本目の浅いルンゼを進む。暫く登るも、どうも景色が違うように感じる。更に進むと所々ベルグラが貼りついた大滝が見えた。やはり小同心ルンゼでは無いようだ。1本左のルンゼに居ると予想し、右手の尾根を乗っ越すと小同心ルンゼに出た。
しかし、眼下のルンゼにはトレースが。「やられた!」と思い、稜線を見上げると、ルンゼ中間部に先行者がいる。猛然と追い上げる。
ルンゼはすぐに急峻となり、両岸が切り立った細い樋状になる。中間部にある3メートル程の小滝で先行者に追いついた。聞けば三叉峰ルンゼが大渋滞で転進したらしい。上部は登らずに大同心稜を下るとの事。「危ねえ0。鳶に油揚げさらわれるとこだったよ~。」と内心思いつつ、親切に大同心稜までの道案内をしておく。
 
 
 
 
1ピッチ(H田)
先行者がロープを出していたので、我々もロープを出すことにする。フリーでも越えらるレベルであるが、万一、墜ちたら樋を転がり赤岳鉱泉行きである。
60メートル延ばして、2つ目の小滝で切る。眼前にチムニー滝が聳える。取り付きから見るより、上部が高く威圧的だ。チョックストーンも2箇所あることが分かった。

2ピッチ(M藤)
小滝を越えてチムニー滝取付きまで。前日の打合せ通り、右手後方15メートルほどにある立木から終了点までロープを延ばし、核心ピッチで墜落しても谷底には吸い込まれないようにバックアップとする。取付きの浅いリスにハーケン1本打つも気休め程度の効きだ。打ちつける風が強く冷たくなり、寒気が入り込んだことを感じる。
 
 
 
 
3ピッチ(M藤)
チムニー滝。先ずは下部ハング帯だ。大系にはルンゼ左右からアブミで乗っ越すとある。確かに右側は易しそうだが、「アルパインアイス(ミックス)ではルンゼを直上したと堂々と言えないようなラインは選択しない」は、単なる独断だが、拘りに従いルンゼ中央の貧弱な雪氷にバイルを撃ち込み越える。前爪を乗せた砂岩が崩れる。
一つ目のチョックストーンを潜り抜けて上部ハング帯へ。下からは左壁は少しは傾斜が緩ように見えたが、苔、氷、雪に覆われた垂壁で突破不可能。中央のチムニーをワイド登りで擦り上がり2つ目のチョックストーンへ。ここは単なるチョックストーンではなく、岩と岩が重なり合い2メートルほどのルーフを形成しており焦る。ルーフ先端からプロテクションを探るがどこも取れない。狭苦しいチムニー内で 獅ォながらやっとセットできたのは、ルーフ最奥部に片効きのキャメとトライカム。
このまま突っ込めばルーフ出口でロープがスタックするのが確実。伸ばせば下のチョックストーンに激突しかねない。敗退の文字が頭をよぎる。究極の選択だ。
一呼吸おき「頼むよ!」とH田さんに声掛けし、ルーフの外へ身体を出す。高度感が凄まじい。アルパインでは絶対やらないようなムーブを数手こなしルーフ上部にバイルを撃ち込む。マントリングに必要な最小限のロープを手繰りルーフを越えた。
H田さんにはスタックしたロープを最終プロテクションまでアッセンダーで登ってもらった。そこからロープスタックを解除し、通常のセカンドビレイシステムに変更してルーフを越える。
 
 
 
 
4ピッチ(H田)
傾斜の落ちた樋状を進むと、雪原が広がる。その先に聳える岸壁基部のバンドを左上する。

5ピッチ(M藤)
浅いルンゼ地形を詰め上げると、小同心左岩峰ピークの横へ抜けた。14時50分。
 
 
 
 
(コメント)
自ら見定めたルートを他人の情報に左右されることなく、初見でトライする。そのルートがあまり登られていないルートで、自分達の実力を許容してもらえるギリギリのレベルだったら最高だ。今回はそんな理想に近い素敵な登攀が出来た。
賞味期限切れの大系ルートにありがちなボロ壁をジリジリと攀ずる渋い昭和的なルートかと思いきや、下部こそ渋いものの、上部は氷の張ったチムニーからルーフ越えと現代的なルートでした。風雪の中、悪いプロテクションと露出感に堪えてルーフを越えていくのはかなり痺れた。
※ルーフ越えでの墜落はチョックストーンに激突する可能性があり大変危険。