鹿島槍ヶ岳 荒沢尾根 2017/3/18-20

アルパイン(雪山)

メンバー:A久L、S津

1日目(快晴)
スキー場Pに車を停め出発。大谷原で東尾根を見送り荒沢へ向かう。
好天予報の3連休とあり、多数のパーティが入山しているが鹿島槍北壁狙いのよう。
トレースは全て天狗尾根に続いていて、荒沢へ向かうは我々だけ。
沢を詰めるアプローチだが、今回は雪崩れの心配もなくラッセルもほとんど無かった。

**

荒沢尾根にはルンゼ状の雪壁から取り付いた。
この頃には雪も緩み、ザラメ状の膝ラッセル。200m程高度をあげ稜にのると、天狗尾根、東尾根上の登山者の姿が蟻の様に点々と見える。
休憩を兼ねて立ち木でセルフビレイをとり、ここからロープを出した。

1ピッチ目は少しヤブを分ける様に凹角状を抜け、雪壁を直上。
傾斜はきつく、少しグラニュー糖のような雪質なので潅木などのビレイ点が欲しいが、付近にそんな都合の良いものはない。
雪壁を踏み固めビレイステーションをつくり、デッドマンでセルフビレイをとってスタンディングアックスビレイでフォローを向かえる。
2ピッチ目はS津さんがサラサラの雪に苦戦しながら雪壁にロープをのばす。ビレイヤーは終始スノーシャワーを浴び続ける。
小雪庇を越えて雪の割れ目から顔を出している木でビレイ。
その後も傾斜が少し落ちるが念のためロープを出し小ピークまで50m。
ここをテン場にと思ったが、小ピークはかさを広げたようなキノコ雪でどこまでが地面か不明。
手前のナイフリッジ側面を切り崩しテラスを作ってツエルトを張った。
夜は強風となりツエルト内は出入り自由の風と雪。起きてても辛いのでさっさと寝た。

2日目(曇り時々雪)
朝、風はやんでいたが新雪が10cm。ガスも出ていて両隣の尾根は見えない。
日が昇り気温が上がると晴れるだろうと気にせず出発。
すぐに雪壁でロープを1ピッチ。
続くプラトーはホワイトアウト気味で、下り傾斜部分を慎重に進むと、3段のキノコ雪が前方を塞ぐ。
1段目と2段目のギャップはスカ雪で落とし穴にはまると危険。
足元切れてて怖いけど1段目はトラバースでかわし、
2段目側面の雪壁から稜にあがって、3段目の頭でスタンディングアックスビレイでフォローを迎えた。

ここで天狗尾根のH本Pと無線交信。
この頃はガスが晴れていて向こうからは荒沢尾根が良く見えるらしく、上部にはキノコ雪が連なっているとの事。
下から見上げる分には先のことは良く見えず、あと3ピッチくらいかと考えていたがあまかった。

**

いよいよ核心部に突入。上部を見上げるとキノコの山。恐竜のようにカマクビをもたげていて
その前衛には両側100m以上のキレキレナイフリッジがクライマーを威嚇している。
むむむ、これはエグイ。意を決してロープを結び、まさに綱渡りのようなリッジにそっと足を乗せる。
10mの綱渡りのあと、リッジはその幅をキープしたまま10m胸を突く急傾斜でせり上がる。ここにランナーが欲しいが、幼木の一本も生えていない。
傾斜の変わり目の雪はザラメ気味。ここの一歩の勇気が中々でないが、ここにとどまっている状況の方がよっぽど怖い。
意を決してソロリソロリとなるべく刺激をあたえないようにスタンスをつくり体を上げていく。手持ちのスノーバー4本もこの雪では信用おけない。
ゼイ、ハア、ゼイ、ハア、自分の呼吸が上がるのがわかる。やっとの思いで抜けたと思うと、キノコの山はもう一段。しかも今度は少しだけ岩が顔を出している。

**

d峰はプラトーとなっていて、頂上はほぼ平行移動。途中の小さなナイフリッジとキノコをS津さんにリードしてもらい。
いよいよ東尾根との合流点が近づくが、d峰からのギャップの通過とブッ立った雪壁が待っている。
時計を見ると16時前。微妙な時間。d峰テッペンはそこそこ広く、ツエルトは張れるけど、翌日ガスったら雪壁のルーファイどころかギャップへの下降も危うい。
d峰は立派なカサを広げたキノコに成長していて、ルーフ下のコルの位置が良く見えない。
土嚢を埋め、フリクションノットのバックアップをとり、空中懸垂で痩せたコルへ降りる。
もう登り返しは出来ないし、このコルも安心してビバークはできない。
最終ピッチは16時半にスタート。小指の太さの潅木がうるさい草付斜面だが、ブッ立っている上に雪がザラザラで悪い。
ダブルアックスで草付を叩くが、点在する石と枝がピッケル振るのを邪魔して手が決まらない。
潅木帯を過ぎ、いよいよザラメ雪だけの斜面に突入したところでピッケルが決まらずフォール。潅木で取ったランナーで事なきを得るが10mの登り返し。
決まらないスタンスホールドに腕はパンプ気味。なんとかルートに復帰し、安定した雪壁に到達。ここから15m登った小雪庇の下でピッチをきった。18時。

真っ暗闇の中、フォローのS津さんを迎えたのが恐らく19時頃。
雪庇の上に上がれば傾斜が緩むと思われたが、もう、ルーファイも出来ないし安全に行動することは出来ない。
スノーバー、ピッケルでセルフビレイをとって雪壁を切り崩し、ツエルトを貼るスペースを確保。
それから水作って、メシをかき込んで、寝たのが23時半頃。

3日目(快晴)
ツエルトから顔を出すと天狗尾根がくっきり見える。今日は天気が良さそうだ。
日が昇るにつれ、昨日の厳しかった登攀の緊張が解けて心に余裕が出てくる。

**
思えばS津、A久ペアでの雪稜は敗退が多い。その時々の実力に対しチャレンジングなルートに挑戦してきたからだけど、
今回は2人ともこれまでの経験以上の力を出し切ったと思う。
苦しい登攀だっただけに、お互いがどこまで耐えられるか知っていたからこそ
最後まで力を出せた。充実の一本となった。

※雪の量やつき方で時間やルートの取り方、テン場、スピード等変わってくると思いますので
次回行かれる方は、この情報を鵜呑みにせず、自身で研究した上で取り付くことをおすすめします。(記:A久/抜粋)
—————————
18日
7:00 鹿島槍スキー場P 大谷原 8:30 荒沢出合 1130 荒沢尾根取付 17:00 C1
19日
6:00 出発 15:40三峰d峰 19:00 登攀終了C2 21:00 ツエルトIN
20日
7:00 出発 7:15 終了点 7:40 二ノ沢の頭 11:00 大谷原 鹿島槍スキー場P

関連記事

特集記事

アーカイブ
TOP