[メンバー]

M藤(記)、T田

[報告]

4月28日 廻り目平キャンプ場
「シーズン始めだし、クレイジージャムでも」と提案するも、パートナーに「クレイジージャムって5.10+の? 弱気だね〜、私はスーパーイムジンがやりたい!」と却下される。
冬の間はバイルしか握ってなく、半年振りの花崗岩がトラッドの12bcとは怖すぎだろ…。

とはいえ、昨シーズンにイムジン河をRPしたときから心に引っかかるものがあった。
小川山で最も格調高いクラックと言われるイムジン河。多くのクラッカーが目標とする、日本を代表する名クラシックである。
だが、このクラックには続きがある。お殿様岩へ真っすぐに突き上げるスーパーイムジンだ。83年 池田功初登、当時の日本最難関ルート。
イムジン河が右端の棚へ右上する「逃げたライン」になっているのに対し、スーパーイムジンは壁を直上する「攻めたライン」。素人目には、どう見てもお殿様岩の主役はスーパーイムジンに見える。

 

更に加えれば名前が良くない。
「蜘蛛の糸」に「スーパー蜘蛛の糸」は無い。
アストロドームの頭上には、お昼寝テラスまで続くエアウェイがあるが「スーパーアストロドーム」とは言わない。
「春うらら」は、1ピッチ(11b)、2ピッチ(12a)で構成されるが、2ピッチ目を「スーパー春うらら」とは言わない。
「直上イムジン」や「イムジンダイレクト」くらいのネーミングならまだしも「スーパー」の冠がつく。
そうなるとイムジン河は「ノーマルイムジン」、「並みイムジン」、「梅イムジン」って感じがしてしまう。

とどめは、ロクスノや魅惑のトラッド等に掲載された杉野保さんのコメントだ。

「その持ちどころのない乾いたホールドの感覚が蘇り、またそこに身を置きたくなる」
「池田功の不朽の名作ここにあり。クライマーを自称するならこれは登っておかなければならない」
「個人的には、これが小川山のベストワン。風格、規模、ロケーション、すべてが完璧」

こんなルートが、登ったラインの延長線上にあるのだからやらない手はない。

イムジン河は徐々に傾斜を増し、最後は薄被りとなり右のガバで終了となる。
スーパーパートは、ガバ上の大フレークを掴むところから始まる。
ここから先の壁は反り返ったハングがレッジまで続く。私のムーブで13手。僅か13手で3グレードアップすることから想像出来るように、明確なレストポイントがない強度の高いフェースムーブとなる。

大フレーク先にナッツをセットしアンダーホールドをトラバース気味にこなすと、最初で最後のボルトが現れる。池田功がグランドアップでナッツにテンション掛けながら手打ちしたボルト(老朽化のため同位置にリボルトされている)は甘く無い。

オンサイトトライでは、クリップの難しさに面喰らうことになる。足下のナッツを意識するころには、心臓バクバクだ。ヒール、トゥフックを駆使したボルダームーブでアンダートラバースをこなすと、縦フレークで身体を返す。ここから数手は、チョークアップもままならない花崗岩チックなカチが数手。
最後は薄カチクリンプからレッジに乗り上がる。
フィンガークラック〜ボルダー〜花崗岩カチ、そしてプロテクションと、クライミングの総合力が必要な躍動感溢れる素晴らしい内容だ。
クジラ岩で穴社長を落とす若者なら13のフェースは簡単に登るだろうが、ここには門番としてイムジン河が立ちはだかり、チャラいボルダーを一蹴してくれる。渋い大人ためのトラッドだ。

 

13を軽くこなすクライマーならともかく、限界グレードでスーパーイムジンに挑むなら、最大関門となるのはイムジン河をいかに楽に登るかである。ここでヨレては話にならない。1年振りのファーストトライでは大フレークから全く手が出なかった。

それでも、ゴールデンウィークから始めたトライは試行錯誤を重ねつつ、6月初旬にはあと0.5手というところまで来た。
しかし、ここからが長かった。記録的な長雨で週末は悪天ばかり。それでも取付でタープを張り、雨を凌いで天候が回復するのを待った。

誰もいない小川山で、雨の間隙を縫って繰り出した強引なトライは、心の焦りを嘲笑うかのように、途中で雨が降り出しフォールを繰り返した。ムーブの練度は向上するも、コンディションの低下によって最高到達点は変わらず。その度に、20キロ軽いパートナーが吹っ飛んでイムジン河終了点の下までドカ落ちするものだから益々煮詰まる。

悪コンディションをさっさと見限り、秋に再トライも考えたが、「コンディション良くないと登れないのか」と反骨心が囁き出しトライを続けた。
因みにスーパーイムジンは小川山で1番乾きの良いルートとも言えるほどで、遮る物は何もなく、少しでも陽が当たると岩はホカホカ、気温はアツアツになる。夏にトライする輩は「強強の本物」か「単なる馬鹿」しか居ない筈だ。

後者の私は7月末まで粘るも、最後のカチからゴムのような柔い感触しか得られなくなり、ついに中断。

9月にトライを再開。10月になり、それまで苦手としていたイムジンパートの核心のハイステップも完全に克服。イムジンパートでは絶対に落ちないと断言出来る自信がついた。

 

10月14日
台風で通行止め多発する中、6時間以上かけて小川山へ。その時が近いことは身体が理解していた。
晴れ予報は一転し、今にも降り出しそうな状況でトライ。イムジンパートは完璧。大フレークでレスト、過去最高に余力がある。トラバースも何の問題もない。が、あまりの余力に何時もより腰を入れてレストしようと欲を出した瞬間にスリップフォール! 超凹む。各1便出したところで土砂降りとなる。

10月20日、この週は宮崎遠征の予定にしていたものをすべてキャンセルして小川山へ向かう。前夜はまた豪雨で、秋だと言うのに壁はビッショリだ。夕方まで乾きを待ち、トライ。前回のミスがあるだけに慎重にカチパートまで。あと数手で終わる筈だ。指先に全神経を集中させる。最後のカチを握り込み「もらった!」と思いリップ手前で足を踏み変えリップへ。が、足下見て愕然。右足でロープ捌くの忘れてる。ロープが邪魔で踏み換えられない。そのまま強引にリップへ突っ込むもフォール。マントル体勢に入ってたものだから、頭下にして大フォール! 鬼のように凹む。

10月21日
ミスを重ねた挙げ句、指に疲労が残りコンディション不良。ナイーブになり、パートナーに先にやってもらう。が、どうしたことか、いきなりの神がかり的なクライミングを見せ、今まで突破したことの無いカチパートを繋げ、見事レッドポイント!

マジか!

満面の笑みで降りてきたパートナーは、エルキャピタンノーズフリー初登のリン・ヒルばりに「it goes, boys!」とは言わなかったが、内心穏やかでない。

(内心)
「く、空気読めないことしやがって…同じ本数トライしてんだから、俺が次のトライで登れなかったら、お、女より格下ってことか…次のトライで決めて同点に持ち込んでやる…い、いや、最高到達点の累計では俺の方が遥かに上だ、そ、そうだ、俺の判定勝ちだ…ワールドカップの採点だってそうだろ…」

この半年のすべてを掛けてトライ。気持ちと裏腹にフィジカルコンディションが悪いのが分かる。大フレークで、「女に負けられない」ともう一度、気合いを入れる。最後のカチを渾身のクリンプでリッジに立った。
「お、俺の勝ちだ〜!!!」

 

[M藤コメント]
コンディション良い頃合いを選べば、もっと楽して登れたと思います。でも、無駄が無駄と思えなくなるほど、素晴らしいルートです。小川山ベストワンに納得。

それにしても、最後に繋ぎ止めたのが「女なんかに負けられない」なんていうくだらない片意地なんて、男って「器の小さい生き物」ですね。。