称名川 ザクロ谷 2020/8/24-25

沢登り

[メンバー]クマッシー、エビちゃん、りゅうげん

核心の一つ、F4。人生で一番バエる写真になった。


【個人的なプロローグ】

2017年9月8日、瑞牆山の末端壁にいた。
「予報が変わった、クマちゃん。明日、ザクロにいこうッ!」
「ファッ!?(゚Д゚)」

山梨に越してきて一年目の夏、荒木氏は夢遊病者のごとく「ザクロ、ザクロ。。」と、この緑の回廊に憑りつかれていた。
彼は各地に仲間がおり、自分は興味も薄いまま訓練に付き合うことになり、ゴルジュデビュー。
西沢渓谷のホラの貝では、上下ペラペラの一枚着だったのであまりに寒く、遡行終了時には、豊洲市場に並べられたマグロ状態。
黒桂河内(ツヅラゴウチ)では、最終F5のビレイをしながら歯のガタツキが止まらなかった。
「頼むから突破してくれ、でないと俺ら全滅だ」
いつも静かな彼の雄叫びをきいたのは、あれがはじめてだった。

結局予報がわるく、荒木氏の計画は中止になり、当初の仲間もやる気を失っていたが、この「山梨で最も死に近い男」の気迫に気圧されてその夜、富山に向かった。
補欠?の私は何の準備もしておらず、桂台のゲート前で起床後、荷造から出発まで2時間ほどかかってしまった。
発電所の階段を上り、雑穀谷に入り、ザクロ谷の出合についたとき、先発していった、(女子が多いので我々がライバル視している)茅ヶ崎山岳会の3人が、まだF2の前で立ち尽くしていた。
結果、荒木氏はF2を3段目まで一気に突破。
自分もユマールで這い上がるが、その後、すさまじい水圧で、荷揚げができない。
時間切れとなり、懸垂で釜に降りるも、ロープが回収できなくなり、そのまま残置して逃げ帰ることになった。
荒木氏の防水バックの中は浸水していた。
(つか、連れて行かれただけなのに、なんで交通費もロープもワリカンなんだよ、あっ、中千畳の大滝に残置したっカムも。。)

凄まじい水量のF2を突破する荒木氏


【某会の例会】

翌年、荒木氏は神の思し召しにより冥界に、いやSAGAに転勤となり、私はもっとちゃんと沢登りがやりたくて、会に入った。
とりあえず入ったものの遠隔地の会員だし、内神田の例会場ではスーツ姿のカッコイイ大人も多く、なんだか私とは味も形も階級も違うよう。
「あなたには(品性的に)この会はあわないよ、山◯魂にいったらどう?」
重鎮のBB、、いや石田ゆり子にいわれて、「へー、そんなとこもあるんや」、と例会を見学に行った。
すると唖然、山手沿線の養老乃瀧でそれは開かれており、入会して数か月という新人が
「ザクロにいくぞ~ッ!」
と二次会の閉店まで暴れ?まくっていた。

【なんでだろう】

何故、ザクロに惹かれるのだろう。
まず、名前がカッコイイ。
雑穀谷から数えて、「The」が二つも入る。
これが「ヒコニャン谷」とかだったら、あまり情熱はわかないだろう。
きっと人から人へと、、あれ、その後流行した感染症のようですね。。。

【訓練開始】

今年、コロナ禍においても批判を浴びつつライフワークと称し「自粛沢」の計画を出すサイコパス、いやメンタリスト、エビちゃんに便乗して沢に行き始める。
富士山からの山スキー帰りのついでに便乗してきた、同じく自粛しない組のりゅうげんも加わる。

6月の大武川一の沢下降、二の沢下降でかなりまとまりを見せ、エビちゃんからこの夏の沢の提言があったので、私の強い希望で、Team ザクロ(仮)を結成。
入会して実質二年、一年、三年。

高校に2週間しか行かなかった私が、高邁な学歴を持つ彼らとうまくやっていけるのか周囲は心配したようだが、最近まわりに高スペックな人間が多くスーパーサイヤ人のバーゲンセール状態なので、本人たちはあまり気にしなかったようだ。

ゴルジュで凍えるたびに
「コスモ(小宇宙)を燃やすんだッ!」
と叫んだが、アラフォーの私のネタに、一回り世代が違う彼らのノリは悪かった。

【訓練沢一覧】

【大菩薩嶺】柏木沢遡行・おそ沢下降
【道志山塊】鹿留川右岸支流 【開拓】
【大菩薩嶺】鶴川赤沢遡行・坪山北西面沢(仮称)下降【開拓】
【奥多摩】峰谷川長久保沢 遡行
【奥多摩】 後山川片倉谷遡行・塩沢諸左衛門谷下降
【南プス】大武川一ノ沢遡行・二ノ沢下降
【北遠】厚血川ゴルジュ遡行
【秩父】 安谷川烏帽子谷遡行
【上州武尊】木ノ根沢大沢下部遡行
【草津】毒水沢下降・ 大沢川(仮称: 裏毒水沢)遡行 【開拓】
【那須】 一里滝沢遡行・阿武隈川本谷下降
【苗場山】 釜川左俣遡行
【大峰】池郷川本谷遡行(日帰り×2)
【大峰】池郷川小又谷遡行
【身延】福士川渓谷遡行
【南プス】黒桂河内川下部ゴルジュ遡行

よくこれだけ毎週沢にいけたと思う。
本番より、訓練のほうがいろんな意味で過酷だった。

「こんなことやらなくったって幸せになれるッ!!!」
増水した釜川左俣のクソ悪い草壁を這い上がってきた、トーマスの咆哮が胸に刺さっている。

「ザクロに、いくぞぉぉぉぉぉ!」
裏毒水沢「仮称」では、どうせブタ沢だろうとウエットなしで行ったらゴルジュの連続で、最後はそう絶叫しながら釜につっこみ、進退きわまったエビちゃんの後輩の肩を踏んづけ、甘いジャミングから強引に這い上がった。

 
【なくしたギアの一覧】

携帯×3(写真を撮ろうとしたら転倒、流される×1&浸水×2)
キャメロットx4 0.4 ×1
キャメロットウルトラライト #2×1
マイクロトラクション×1(拾ってくださった神様、謝謝!)
ハーケン×1
たわし×3
お助け紐×3

沢はいろんなものを流し、奪っていった。

しかし、命のほかに無くしていけないものなどないと8月、気付く。

【以下行動記録】

8/23(日)
11:00
甲斐市の双葉SA で二人と合流。
当初の計画では2日前の8/21夕方に入渓、ザクロ谷出合いでテン泊の予定だったがその21日は全国的に雨、翌日の午後も大日岳の上だけ雨雲がかかっていたため、2日遅らすことに。
しかし二日後の24日の午後も、雨雲が大日岳周辺だけでかかっている。
週間予報は全部こんな天気。
このくらいの予報で突っ込むしかないね、となり翌日、24日の決行を決める。

12:00
松本ICで降りる、富裕層の二人は食堂に入る。
私は車中で行動食をパクついていたので待ち時間、スマホでの撮影のためロック機能を解除しようとカスタマーセンターに電話。
設定をいじっていると、いつの間にかパスワードを変えていたようで本体のロックがかかり、カメラを含め全ての機能が使えなくなる。
本社に送って初期化しなければならないとの事、ファッキン。
一週間前に山◯魂が詳細な記録をあげていたので、カンニングするつもりだったのに。

↑ 駐車場(公園にて)、蚊が多かったなぁ

17:00
前泊は富山鉄道、立山駅前の広い駐車場。
当初は荷造りしたら桂台のゲート付近に移動する予定だったが、翌日が月曜ということもあり空いていて意外と静か、快適に過ごせた。

8/24(月)
3:00
起床

↑ ギアとウエットを入れてるんでザックがめちゃ高。


4:20
桂台ゲート前から歩き始める

↑ けっこう急なんですよ、ほんま。


4:40
発電所の階段の下

エビちゃんが「クソクソ」いいながら、結構な速さで登っていく。
案の定、すぐバテて荷物交代。
勾配が急で、三年前はけっこうデンジャラスに感じたが、今回は暗いこともあり問題なし。

↑ 施錠してないのが良心的。

↑ ここはやっつけ工事区間。

5:00
発電所のトンネル

180㎝の自分では、気を付けてないと頭がぶつかる低さ。
空荷の時でよかった。
コウモリよりも、それにビビるトーマスの悲鳴の方がビックリした。

↑ ここを三回も歩くことになるとは。。人のこといえないな。

5:15
雑穀谷入渓

あまり記録がなく、凡庸なゴーロだと思われがちだが、巨石がゴーロゴロしており、ちょくちょくボルダーっぽいのや渡渉を強いられる。
ここをアバラ折りながら歩いた某会の人はけっこうスゴイ、とエビちゃん。

↑ あー、また入水するのか、キンチョウする。。

7:30くらい
ザクロ谷出い、到着。
水が刺すように冷たくなってくる。

F1。かつては釜が深く、ほんとにF1だったらしい。

↑ 足場は悪いが、釜が見える位置に立つことができる。

8:15
F2
荒木氏が突破した因縁の核心の一つで、まず私がリード。
水線の中にホールドがあった記憶と情報があるので、滝の下に入るが弾き飛ばされる。
何度かトライし意気消沈、やっぱりムズい、マジ無理ィ。
まだ少し余裕があったが、陸にあがると低体温症でガチガチになるので、リード交代。

↑ 「ひえ~」、逃げ帰るワタクシ。


次のトーマスは果敢に滝の真下に潜り込み、そのまま直登、1~2メートル這い上がる。
滝の中に1~2分姿を消した彼を唖然として見ていた(写真がない)。
不意に滝の中から右手だけが出てきた。
ホールドを探しているが、うまく掴めない。
「落ちろ!」
心の底で叫んだ瞬間、ホールドが剥がれ彼は釜に転落した。

少し震えも止まったので、また自分がリードしようか迷うが、そこはチームプレイ、突破が優先、エビちゃんリード。
釜の落ち口、水中にスタンスはないはずだが、さすが水陸両用、安定していた。
ふと右手が側壁のサイドカチをガスった。
「落ちろ」
そう叫んだ次の瞬間、彼は、ゆっくり、離水していった(写真がない)。

訓練期間を通じ、沢の一番難しい滝はほぼ彼がリードした。
事前のデータ収集、膨大な沢の経験、それでもフリーでは自分より2グレード落ちる彼の登攀が深く心を打つのは、それが抱えるリスク、コロナ下での特殊な状況、ザクロへの動機づけ、それに直接ではないがこの夏、彼に起こった出来事が、交錯し収斂していたのだろう。

↑ ネオゴボウで這い上がるワタクシ。

中間が続き、ユマールで自分も一段目まで這い上がる。
そのまま2、3段目はノーロープで越え、カムでステーションを構築しメインロープをFIX。
4段目(F3)にむかい、右側のクラックにカムを決めスリングでアブミ、ノーロープで落ち口に出て、お助け紐をFix。

先にルート工作したので、二人もすぐにくるだろうと思っていたら、なんとトーマスが一段目から上がってこない。
荷揚げを省略するためにザックを二つにしたのだが、担いでリードと同じムーブは難しく、特にラストのユマールは特殊な技術がいる。
ある程度提言していたのだが、不安が的中してしまった。

↑ 三段目まで戻る私と、いまわの際のトーマス。

30分くらい経っただろうか、さすがにあの極冷の釜の中にいたら死ぬのではないかと思い、自分も一段目まで懸垂で戻る。
さなか、訓練中の彼との会話が走馬灯の様に頭を駆け巡った。
く「どうやって東大にいったの?」
り「それはですねぇ、勉強したからですよぉ(ニチャア)」

り「年をとったと思うのって、どんな時ですか?」
く「うーん、自家発電していて2回戦目ができなくなったことかなぁ」
り「えー、僕なんて一晩で13回したとこがありますよッ!」
はじめて聞く13台に、私は男性として負けたと思った。


結局、りゅうげんは先に荷揚げをして顔面蒼白、ヒマラヤに転勤を命じられたさかなクンのように口をパクつかせ、自分がパスしたハンドアッセンダーでダブルコボウして登ってきた。

↑ F3(四段目)3を登り返す。


彼曰く、最期のトライで脱出できたらしく、あぶないあぶない。
「俺たちのザクロはこれからだ!(完)」になるところだった。

↑ じつは、このあと浅いところがあるのよね。

10:00
F4
先ほどの挽回、リードさせてもらう。
釜からステミングでズリズリあがり、右壁中間部のポケットにスカイフック、捨て縄を二本タイオフし、右足でエイド。
しばらく迷ったががここはド本番、離陸し、そのまま落ち口に這い上がった。
落ちたらちょっと?痛いだろう。(byキノポン)。

↑ 見よ、この渾身のボルダームーブ!

後の記録で知ったが、落ち口近くの左壁にハーケンが打てるらしい。
ただ不安定な姿勢でハーケンを打つのもリスクがあるし、ラストの回収も危ないし、リスも傷む。
沢もできるだけボルトは打たず(打ち方知らないし)、ナチュプロでいきたい。
これを読んだ現代沢ヤたちは、ぜひこのスタイルで越えてみよう!

↑ ふふふ、ネイティブなばらーのワイドを見せてやる!

10:30~
F5~F11
たくさん滝があって、あまり覚えていないが楽しかった。
これまで積み上げてきた能力がフルに発揮できた感じ。
昨年までフリーで越えるという発想しかなく、この訓練中はアブミをはじめ意図的に人工の練習をつんだ。
人工の甘い蜜を覚えるとビビりになり、アブミ連打&A0したくなるものだが、本番ではリスクのある必要な個所だけ人工することで、フリーとうまくリンクできた。

↑ チームのためなら、私はゴボウをためらわない。

14時頃、予報どおり小雨が降ってきて、一時本降りなってヒヤッとした。

↑ ポツポツきたんですよ、写ってないけど。

増水したら、どこにあがってハーケン打って凌ごうか見渡す。
昨日も下界はカンカン照りだったが、称名滝の上からは厚い雲がかかっていた。
ここ一週間は局所的に、同じような天気だったのかもしれない。

↑ 俺の首が寄生獣になってね?

16時頃
牛首下のテン場。

最初は寒かった。
なかなか焚き木に火が付かなかったが、ついた後は天国。

なければとても寒く、虚弱な自分は耐えられそうにない。

自分はいつもそんなに寝れないので、夜中起きて火をおこしていた。
いつだったか、登山者のヘッデンがチラッと光った。
意外と登山道から近いんだなと思い、安心したと同時に、ちょっと帰りたくなった。

8/25(火)
3:30起床
自分は一時間以上早く起きて焚き木であったまる。

↑ せっかく乾かして温まったのに、朝一からこれなんて苦行?

5:30頃出発
それなりにテキパキしているつもりだが、出発するまでに2時間以上かかる。
もっと訓練せねば。
朝一でザクロの冷水に入るのは勇気がいる。

↑ けっこう大巻きだね。

5:45
F12 てまり滝

右岸から大きく巻く
完全遡行を目指すなら、ここを直上か。

↑ バランス的に次の右手はA0してないのよね。

9:00
F15? 元・口無しの滝

ハンマー投げでロープを渡す。
エビちゃんが最初にとりつくも敗退。
2番手の私がとりつくも、ほんとに水中に壁がない。
A0で落ち口に手をかけ、ヒールフック。
万年3級ボルダラー意地、フルパワーで乗りあがる。
続くトーマスとエビちゃんは、A1で突破。

↑ こういう悪場に強いなぁ~

9:30
F25 3段25m
三段ショルダーが必要だと聞いて練習していたが、先行していたフリクションモンスターのエビちゃんが右壁のスラブを登り一つ目のリングにA0用スリングをセット。
ここがグレード的に一番難しいかも。
エビちゃんが見事リード、さすがに上部はA0したようだ。
自分は中間、1ピン目のあたりで、コケコケのヌメルスラブに見切りをつけ、ゴボウで素早くあがる。
ラストのトーマスは、最初フリーで上がろうとしていたので、時間をくっていた。

↑ 気持ちよく登れた。

11:00
F26 ソーメン滝
残置ハーケンを使いフリーで越える。
ハーケンで強固なステーションが作れる。
トーマスもフリー。

↑ エビちゃんは、ザック担いだままフリーで登ってきた。


↑ めっちゃヌメってるんですけどー。

12:15
F31
トラバースのあと、CS滝上にジャンプ。
先週、某会が残してくれたありがたーいハーケン&スリングがある。
Fモンのエビちゃんがあっさり突破。
「こんなの残置つかまなくたって登れますよ~」
くだらないことで張り合うのも面白い。

自分はありがたーく残置をA0させてもらい、その後ジャンプ。
リスクは最小限に抑えないとね♪

↑ JIZO状態でビレイ、耐える。

ラストのトーマスが続くが、トラバース前の水中から上がってこれない。
確かにここがわるく、Ⅴ+くらいのムーブだった。
自分が荷揚げをすることになるが、ザックがもろに滝芯にきて抵抗がキツい。
デットリフトの要領で少しずつズリ上げ、腰がイテー、といっていたら彼はトラバースをあきらめ、泳いで滝の下から上がってきた。

お助けを肩がらみして固定したのだが、滝自体も悪かったらしく、直後にテンションがかかった。
滝の水圧も加わり、棒立ちのまま体が折れそうになる。
「落ちろ~、アッセンダーを放せェ~」
鬼のように叫ぶが、1分ほどそのまま拷問状態。
あと聞けば水音で、まったく声が聞こえなかったらしい。
前も一度テンションかけやがったので、ボディビレイは上手になった。。

↑ アブミに乗るのもたいぶうまくなった。

13:30
F35
CS滝
左壁の残置リング数個をアブミでA1し、その後トラバース。
一個目のリングには到底手がとどかず、道具係のトーマスが自作してくれたチョンボ棒で見事クリップ。
が、その後のトラーバースがわるい。。
先週、某会が最後のボルトを抜いていってしまったらしい、チョッ待てよ。
落ちたら振られて、反対側の壁に叩きつけられるカモ。
顔の前にはカチスタンスがあるが、ホールドがないし、一度上がったら戻れないだろう。
真横にはところどころに磨かれたのか、白い岩肌が見えた。

↑ 界王拳20倍で右足の結晶に乗り込む。

一か月前、釜川左俣のテン場で水を汲みにいこうとしたら、暗闇の中のヌメった岩に滑って左の中指を痛めてしまい、ジムにはいっていなかった。
「今までなんのためにフリークライミングをしてきたんだ」
こんなとき、いつも暗示をかける。
そう、それは沢で、会心の一撃を繰り出すためだ。
呼吸だけに意識を集中し、Ⅴくらいのムーブでこえる。
フォローも落ちれば、逆に滝側に叩きつけられ、危ないだろう。
高いとこにステーションが取れなかったので、最後のランナーは極小ポケットにスカイフック決め、背伸びしながら手で押さえた。
ラストが登る前に、試しに自分でセルフで全体重をかけたら、見事にすっぽ抜けた。

↑ よし、巻きませう!

 
15:45
F37
数えきれない滝をこえ、そろそろ疲れてダルくなってきた、あんま寝てねーし。
それとこの記録を書くのもダルイ。。
(アップしたら各所からなんて言われるだろう。)
左から巻こうと提案するが、トーマスが滝中央に取り付き、その後左端に取り付いた。
「あぶないよぉ~、巻こうよぉ~」
叫んだが、そのままフリーソロで登ってしまった。
後続はお助け紐で安全に越える。

訓練期間中を通して、彼がいかにお天気屋なのかがわかるようになる。
キビシイところにイキタイ、普段はそう言っているが、ゴルジュ内での絶望に満ちた表情は自分のドライブにしっかり保存されている。
ところが、二人が寒さでガチガチ震えて巻きを提案しているときに、「取り付いたらいけるかもしれない」と、ドボンして突破してしまうことが何度もあった。
このように三者、モチベーションや能力に微妙なズレとラグがあることで、お互い引っ張られ、ここまでこられた、んだなぁ。(みつお)

~F39(写真がない)
この間、そこそこナメが出てきた。
あとでエビちゃんが「癒されましたね~」と述懐していて、そんなのあったっけと思ったが、さすがは沢に200本(日帰り)もいくHentai。
もう少し沢を愛でる余裕が欲しいな。

そして急に、いままでの水の冷たさがなくなっていく。

エビちゃん曰く、ここより下部から湧き出る水がザクロを冷たくしているらしい。

↑ M山君、S田君、今期の収支決算報告書はまだかね、むにゃむにゃ。

16:30
F40
私は一段下の、滝の手前でお昼寝。
その間に優秀な部下たちがハンマー投げを決めてくれるとウトウトするが、いっこうにお呼びがかからない。
起きて上がってみると、F40は意外と高く遠く、私たちの投擲能力では無理ゲーな模様。

↑ クソ、僕は胴上げされる立場だったのにッ!


時間がないので、5回ほど投げるが、足場もわるく全然届かない。
ハンマーは訓練していたが、ここまでの距離だとかなりの習熟が必要だ、また悪い予感が的中した。
成功させているパーティーも多いので、悔しい。

↑ ハンマーもボロボロで刺さんない。

右岸から巻くことになるが、なんせクロックスだし、土壁がボロボロ崩れる。
エビちゃんはゴボウの根みたいな木の根っ子につかまって登り、ボディで確保してくれたが、よくこんなのに体重預けるよなぁ。
おまけに途中からブヨが大量にたかってきた。
自分たちは大きく巻いたが、エビちゃんは小さく巻き、どこに足場をみつけたのか川床におりる。

↑ いままでの異世界はなんだったんでしょう。。

17:45
山荘に通じる登山道に出る。
まだまだブヨがたかってくる。
せっかくのフィナーレなのにみんな無口。
常に軽躁状態のエビちゃんは防虫ネットがないのもあり、いつものようにスタスタ先に行ってしまった。
「トモアキ君って、はやいのね。。。」
よくおちょくっていたが、浜っ子にこのノリはうざかったようだ。

↑ 出し切りました。

木道で、その快適さ、歩きやすさに心が休まる。
ベンチで着替えてギアをしまう。
大日岳とその後ろの草原がたおやかに、神々しく映った。

↑ やっとコンクリ、下界ィ~。

20:00
大日岳への登山道入り口。

↑このゲートとも四度目の出会い。次はゴルジュ女子を連れてきます。

20:45
ゲート前。
先についていたエビちゃんが車を着けてくれていた。

いきなりのご馳走にお腹がビックリし、何度もトイレにいく。

22:00頃
富山市内の焼肉キングで夕食。
食べ放題、いままで頑張ったご褒美。

行動食はスナックパンのみのエビちゃんが、大食いでビックリ。

プリウス沢屋、うらやましいタイプだ。

↑ クライマーズボディを見初められないかしら。。

24:00頃
市内の健康ランド、スパ・アルプス。
独特のアルペンな異世界に、至福の時間。
こりゃ山ヤとして駄目になるな。
コミックコーナーに、読んでみたかった「 鬼滅の刃 」ハケーン。
2巻目まで読む。

【まとめ】

何よりチームワークがよかった。
沢ではさすがにエビちゃんが頭二つぬけていたが、個々の能力だけではザクロに届かなかっただろう。

全員リードできたので、一人は先に行ってルートを開拓するなど、効率よくまわすことができた。
毎週末の深夜まで、Lineで喧々諤々。
訓練をこれだけ重ね経験と実力をつけたから、決行できたのだと思う。

毎週通ったので、沢のスタイル、方法論を、積み上げることができた。

エビちゃんとは、ケチなのが気が合った。
トーマスとは、下ネタでもりあがった。

言い出しっぺのくせに、訓練沢の選定など、自分にはほぼ知識がなく、天候判断も含めほぼ二人任せだった。
準備を言い訳にして、ルートを調べないことも多かった。

しかしうまく官僚を使う角栄ちゃんみたいなもので、そろそろ自分を誉めてあげてもいい気もする。


かなり、屋久島に近づいたかな。

↑ 連れてこれられた、オバタキターン!

【後日談】

ザクロにあわせて全員、その週の末まで連休を取っていた。
オタクの二人はザクロが終わったら北又谷(キタマタダン)だの海川不動だの、盛り上がっていたが、自分はこの夏ザクロ以外、以降、は考えていなかったので
「あとは若いお二人にまかせて。。。」
と仲人さんのような態度でいた。

ところが共通の目的がなくなった平成生まれのゆとりエリートたちは小皇帝ぶりを発揮し、中一日あけた27日(木)、まずはエビちゃんの希望で弥太蔵谷に、もうすぐ取水堰堤工事がはじまるかもしれないという理由で、行くことになった。

次にトーマスが大畠谷(オバタキタン)の希望を出すが、エビちゃんが足首を痛めたのと、沢下降で2泊の行程でなければ嫌だと言いだす。
エビちゃんは一人、もう一つのライフワークのエビ採りにいくことになり、自分が付き合うことになる。
せめて中一日開けてほしいと頼むが、日曜に下山だと帰りが深夜になると却下され、下調べもあまりできないまま、大畠谷に突っ込んだ。
昭和生まれの自分は同調性が高いので、フォローでも時間を考えゴボウしたりしたが、それが裏目に出はじめた。
結局大畠谷の稜線への詰めで、雨はふってくるわ、アブはたかるわ、沢ズボンはやぶけるわで、とんだ苦行になった。
帰路、高山のとんかつチェーンで幸せそうにカツをほおばる二人をみて、
「ワタシの価値ってリュウちゃんとトモアキ君にっとって豚カツにのるキャベツ以下なのね」
と了解し、「Teamザクロ(完)」となった。
(オゴランカイ)

↑ 戦前は2人の大先輩たちの必読書だったが、みんな実はよくわかってなかったらしい。

【超個人的なあとがき】

8月の或る日、職場のおじさまと何故か少し哲学的?な話をした。

「多は一であり、一は多である」と、お釈迦様もいっとります。
私は、全ての存在、事象は相関しあっており、ハンノキ星雲の爆発でさえ自分に影響し、どこかで認識してるはずだと主張した。


「でも、あなたに関係しない、その外側にあるものも、在るのではないですか?」
おじさまは、なんだか禅僧みたいなことを問いかけてきた。

向かい合った椅子の脇に、コーヒメーカーがあった。
こないだNHKの「100分で名著」で観た哲学者、西田幾多郎のことを思い出した。
西田哲学に、「純粋経験」という概念があり、それは私たちがモノをみて、認識するまでの、「その間」のことを言うらしい。
確かに、コーヒーメーカーをコーヒーメーカーと規定しているのは自分の観念でしかない。
自分の観念に捕捉される前の、純粋な「モノ自体」が大切なんだよ、ということなのかも。
氷でできたコーヒーメーカーは、某少年の事件簿では、凶器として、犯人に認識されるだろう。

私事だが、コロナなんて他人事だと思っていたら、夏の初めから仕事と生活がややこしくなっており、経済的に、もしくは時間的に、これまでのように山に行けなくなる可能性が高い。
だがコーヒーメーカーの一つから我々の認識は違い、それらの集合であるこれからの世界は尚更、多様で知覚し難いものだ。

ザクロの水も、以前と違い冷たくはなかった。

【装備】(参考までに)

①シューズ
エビちゃんはラバー足袋を選択。
フリクションモンスターの彼にはばっちりだったが、ソールが薄いので泊りはキツかったか、足を傷めた。

トーマスはフェルトタビ。
直前の某会の記録でオススメとあり選択したが、終始後悔していた。
全体的にヌメる箇所も多いのだが、やはりここ一番ではラバーが有利だ。

私はクロックス、ストロングスタイル。
フラットソールを生かすため、歩きでは脱着のしやすいクロックス(デュエット)を選択。
「どうでもいいところで事故ってもあなたの責任ですからね」と、脅されるが、人のいうことは聞かないに限る。

②ウェア
アンダーは上下、アクアバディ。
上下3mmネオプレーン。
上下ワークマンのレインウエア。
ネオプレーンの腰痛用ベルト。
膝上までの、2㎜ネオプレーンパンツ。

まだ不安だったので、ファイントラックのベースレイヤー(中厚)のノースリーブを着込んだ。
たしかに、ドボンしても全然水を含まない、ただのポリなのに、これはイイ。
しかし価格が高いゾ、相川さん、3割引きで売ってください。

今回は真夏で長時間ドボンすることなく突破したので、もう少し薄着でも耐えられたと思う。

③ライジャケ
エビちゃんは持たなかったが、釜で長時間さぐることもあるので、あった方がいいかも。
空気注入タイプ(アマゾン)が、背中側も含めてかさばらないのでオススメ。


【エビちゃん記録・感想】

https://www.yamareco.com/modules/yamareco/detail-2541045.html

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