メンバー:M浦L、S藤(会員外)

11月1日 8:00 出発 – 9:00山麓 – 10:00 山頂 – 11:00 山麓 – 12:00 到着

沢屋の中で朝日のガッコ沢といえばいつかは行ってみたい憧れの沢の一つであろう。連峰の数ある沢の中で最も魅力ある沢の一つとされるが、その流れは蛇行を繰り返しながら堅い花崗岩を深くうがち、困難なゴルジュや大滝を幾つも有する登攀的要素の強い険谷として知られ、日数もかかることから完登するパーティーは少ない。ぶなの会としては2006年の夏合宿で本谷のトレースに成功しているが、自分にとってもいずれはいかねばならない渓として認識されていた。

3年前、このガッコ沢の記録をあたっているときに運良く、既に遠の昔に絶版となっていた雪苞沓同人(ずんべの同人)誌16号「特集朝日連峰三面川岩井又・ガッコ沢」を古本屋で発見、これぞ探し求めていたものだと思い即入手した。読んでみて久しぶりに興奮を覚えた。この記録集は朝日の沢を開拓時代から長年精力的に登り続けてきた雪苞沓同人の代表作といってよいであろう(同人は日本登山体系の朝日の沢の執筆も任されている)。

おもて表紙の版画、迫力のあるリアルな白黒写真、正確無比な遡行図と胸に熱く迫る文章、そしてその記録的価値。どれをとっても実に素晴らしい出来栄えであった。76年から80年の5年間、ここが朝日の核心部だと彼等も是認するガッコ沢に同人の全エネルギーを結集させ成しえた金字塔的秀作。それは渓谷登攀が議論されていた時代のまさに東北のアルピニズムの歴史そのものである。

そしてそれに加えて印象的なのは二俣周辺から左俣にかけて展開する圧倒的で神秘的な異空間大パノラマの構成要素に付けられたその名称である。それらは同人の陶芸家による命名であり、大量な降雪による浸食と断層により深く刻まれた複数の巨大な井戸状地形を古い茶椀になぞらえ、それぞれをガッコ筒、大井戸、小井戸と読み、左俣周囲に林立して聳える岩峰を天目ノ塔、通天稜、雲井ノ塔と称し、そしてその狭間の冷厳な神秘的空間を十王の間と命名、さらに左岸の見晴らしのよい台地にはこの地に君臨するイヌワシが住むというイヌワシの塔が聳え立つ。この同人誌との出会いにより自分自身のガッコ沢への夢というか妄想が大いに膨らみ、アルピニストの血が騒ぎ、直ぐにでもその地に身を置いてみたいという欲望を抑えることができなくなった。

昨年はお盆の朝日集中山行で萩原君と手始めにとガッコ沢本谷(右俣)遡行を試みたが、大雨にたたられ畑沢支流に無念のエスケープをするほかはなかった。今年はあの忌まわしいアブのいない9月に狙いを定めることにしていた。年々仕事が忙しくなる中なんとか5連休を確保、パートナーには数年前からこの時期人知れず山奥に眠っている岩壁を求めて共に活動している新潟きっての登れる沢屋、稜友会のS藤氏を得てモチベーションはさらに高まる。最高のパートナーを得て当然、目標は本谷ではなく80年の初登以来記録を見ない相模山に突きあげる大本命の左俣、大井戸ルンゼに定める。大井戸ルンゼは沢登りというよりはクライミングになるであろう。もちろん岩井又沢からの通しで登ることでその価値はいっそう高まる。そして空白地帯である二俣からの大王の間に直接通じる門番、大井戸の、あのずんべの写真でみた狭隘な大ゴルジュの突破も試みるつもりでいた。

結果は好天に恵まれ、4日間でガッコ沢左俣をトレースすることができた。記録的には約30年ぶりの第二登、岩井又沢からの通しでは初と思われる。秋の冷水の泳ぎに堪え、ガッコ沢下部も含め登れる滝はすべて登った。雪渓のベールを脱いだガッコ沢本来の渓谷美、磨かれた白い花崗岩の眩しさと荒々しさが惜しげもなくさらけ出される。大蛇のごとく屈曲して深くうがつ谷筋の威容、黒部の新越の滝の美しさに勝るとも劣らない岩壁を断ち割るように一条に落下する30mの美瀑。そして浸食と断層による大自然の造詣が極まった井戸の底、ガッコ沢二俣ガッコ筒の風景はずんべの特集号で想像した通りの、いやそれ以上に感動的なところであった。なにかもうこういう場所に身を置くと日本の自然の造形美の素晴らしさというか、偉大さというか、そういったものを肌で強く感じ、鳥肌が立ち、沢とアルパインを長年やっていてほんとうに良かったと思う。

左俣を含めたあの大空間は大袈裟にいえばミニ一ノ倉沢だった。朝日の最深部にこんなところがあったのかと思うと唖然とする。残念ながら空白地帯大井戸のチョックストン・スリットゴルジュの通過こそならなかったが、ガッコ筒本谷滝上から先人のトラバースラインをたどり、イヌワシの塔を経て天目台から夢にまでみた神秘の空間、十王の間へと侵入する。自分はここに来たかった。彼の地に降り立ちこの風景を見たものはまだほんの数人しかいないであろう。そこは周囲を岩峰、ルンゼ群に囲まれた厳めしい場所ではあるが、ガッコ筒とは異なり、意外にも明るい雰囲気を醸し出していた。

左俣本谷というべき核心部大井戸ルンゼは予想通りルンゼ、スラブの登攀になった。岩は硬い花崗岩だ。核心の3段40mチムニーは右壁にラインを見出し、快適かつ豪快なフリーで突破する。大滝も絶妙なルーファイで側壁スラブを登りクリア。最後まで気の抜けないルンゼを忠実に詰め、紅葉の始まった支尾根へと上がり相模山直下の登山道に出てガッコ沢は終わる。感無量、久々に会心の山行となった。

 

9/19(土) 晴れ時々くもり

駐車場6:45-登山道―岩井又沢7:30-広河原14:00-畑沢出合15:00-中俣ゴルジュ-戻り-畑沢出合16:00(泊)

前夜の新幹線で23時に新潟入りしS藤車で奥三面ダムへと向かう。林道終点付近のダムの公園で幕営、軽く飲んで寝る。翌日5時半に起床し、準備して車を林道終点まで移動する。釣り師のものだろうか、既に幾台も車が止まっている。見かけた顔の人がいると思ったらロック&ブッシュのN村さん一行であった。一度戸隠のパウダーキャンプにゲストで来てもらったことがある。かれらは釣りも兼ねて畑沢へ行くという。我々のザックが小さいと驚かれる。お先にと挨拶して6時45分に出発する。

三面小屋へと向かう三面川右岸のぶなの原生林の登山道を進む。右手に見下ろす三面川のエメラルドグリーンが美しい。このところ本格的な雨は降っていないので水量は比較的少ないように思える。40分ほどで対岸の岩井又の深い切れ込みを見て踏み跡を谷へ下降する。ここから畑沢先までは昨年のお盆時に遡行済みなので初日はアプローチ気分である。昨年苦しめられたアブが全くいないのが嬉しい。装備を着け、出合から岩井又沢へと入る。今回は二人ともアクアステルスを履いてきた。結果的にガッコ沢の花崗岩にはぴったりの選択であった。

花崗岩の白さとエメラルドグリーンの流れが美しい穏やかな渓相の岩井又を徒渉とヘツリ、簡単な泳ぎを繰り返しながらスピーディーに進んでいく。水量は期待したほどに少ないわけではなかったが平水よりは当然少なく遡行がはかどる。初秋の標準レベルだろう。しかし本日は気温が低めで日が当たっているところは以外では泳ぐとすぐに体が冷えてしまう。当然のごとくS字滝、大釜の滝は左岸の巻きを選択する。その先は大岩のゴーロやゴルジュが断続的に続く。岩井又の流程はさすがに長く時間がかかる。

見覚えのある赤茶けた滝で終了かと思いきや、しばらく行った先には再びやや赤みを帯びた美しい岩肌のゴルジュ帯が延々と続いていた。昨年のことなのに記憶はあいまいである。最後の大釜滝を左から越え、その先を少し巻いて降りるとようやく広河原となった。ここまで6ピッチ、ロープは使わずに済んだ。

時刻は14時を回っている。先に人影がみえたと思ったら、なんとサバイバルの服部文祥氏であった。久しぶりの再会を喜ぶ。彼等はここまで2日かけて釣り三昧の遡行をしてきたらしい。渓流の取材だろうか、明日からは中俣に入るといっていた。そちらはガッコ沢でしょうと氏がむける。左俣だと言うとニヤリとする。せっかくだから今晩一緒に飲もうとの誘いを受けるが、明日の遡行を思うと二日酔いではしゃれにならない。未練たらたらではあったがここは丁寧にことわり先を急ぐ。

この先も釣りに夢中になり昨年と同様、またしても畑沢の出合を通り過ぎ、本流のゴルジュへ入ってしまう。まったくのお馬鹿さんである。戻って畑沢出合の少し先の適地で幕とする。

 

9/20(日) 晴れのち曇り

天場5:45-大滝上12:30-広河原15:00

4時半起床、5時45分発。本流のゴルジュをヘツリと泳ぎを交えながら進んでゆく。朝一の瀞の泳ぎで思わず全身が固まる。さすがに秋の水は冷たい。途中右岸からは滝を連ねた興味深い支流がいくつか流れ込む。ゴルジュ帯が断続的に続く中、西俣沢の出合やわらじの大津さんらが泊まったという左岸上の大木の付近の小段丘など、小さい幕場をいくつか確認しながら進む。

通常巻きになるガッコ沢出合直前のゴルジュは既に雪渓も消え左岸のリッジからフリーで越える。ほどなくしてガイドブック等でおなじみの景色、ガッコ沢と本流中俣沢ゴルジュの出合となる。

ガッコ沢は左に釜を持つ最初の7mのF1を落としている。その先はすぐに右へ屈曲している。ここからいよいよ本格的な登攀が始まる。冷水に浸かったせいでどうも先ほどから腹の調子が悪いので最初のリードはS藤さんにやってもらうことにする。(以後つるべ)右の凹角からカムで2ポイントの人工を経てバンド状を左上して越える。回り込むところがやや微妙。ここは荷揚げにする。

先の小滝群をコンテで快適に越え、左に曲がった先の細長い淵は泳ぎとなる。出口の小滝をヒールフックで越えた先は薄暗いゴルジュとなる。トンネルの先には飛沫を上げる滝が左から掛る。ここはくの字ゴルジュと言われているところだ。先人の記録の通り滝裏に出てからチムニーをツッパリのフリーで突破する。しかしその先のゴルジュは水線通しには行けず、チムニーを抜けた場所から正面のルンゼを少し登り、左へ灌木をトラバースしてゴルジュ内の小滝と5mの滝を巻き、小尾根から小河原に降りる。ここは過去何パーティかが泊まっている。

河原のどんづまりに見える上部にCSを持つ15mの滝は下部は水線右からフリーで登り、流れを渡って上部は左のフェイスを登るがホールドがやや細かく、ぬめりもあるので念のため先にフリーで登った須藤さんに御助けロープを出してもらう。

先には左に屈曲した狭いゴルジュの淵があり、さらにその先に直ぐに右から登れそうにない6m以上ある滝が覗かれる。ここは左岸を巻くことにする。傾斜のある岩交じりのリッジを1P慎重に登り、左の涸ルンゼを横断して灌木ラインをトラバースする。下を覗うとゴルジュ内部にもうひとつ滝が見える。渓はその先にスラブ壁に守られた傾斜の急な45mの大滝を掛けている。大高巻きを覚悟して登り始めるとすぐに運良く小リッジ左手に懸垂ポイントが見つかった。ここからルンゼ状を降りればゴルジュ内の2つの滝はパスでき、大滝の手前に降りられそうである。40m懸垂で降りた地点はちょうどゴルジュが終わる手前の岩棚であった。パスしたごルジュ内の滝の突破はやはり厳しそうであった。

小滝を越えるとその開放的な45m大滝が目の前に現れる。大滝の左に広がる堅牢な白く美しいスラブを快適なフリーで途中のテラスまで上がる。ここでアンザイレン。1Pは右上気味にスラブの弱点をつないで直上し滝の落ち口と同じ高さまで登る。2Pは途切れ途切れのバンドをつないで後半はブッシュラインをトラバース。さらに念のため懸垂で落ち口へと降りる。

ここで小休止。時刻は12時で良いペースだ。次の10mは左のハンドクラックのあるカンテを快適に登りクリア。次の滝は落ち口を対岸に渡り左岸のブッシュから巻いて懸垂で谷底へと降りる。次の美しいトイ状の滑り台8mはステミングでフリー突破する。このあたりの登攀は非常に快適である。

暫く進むと谷は左に曲がり、側壁に囲まれた井戸状の行き止まりの左にはまた大きな滝があるようだ。近づいてみると井戸の底めがけて威圧感のある岩壁の割れ目から美しい20m以上ある直バクがトイ状に落下している。しばしその美しさに魅了される。滝の対面には岩に囲まれたクレーター状にみえる溜め池があり独特の雰囲気が醸し出される。以前ここを二俣と勘違いしたパーティーがあったと聞くが、さもありなんといったところだ。

この滝は登れないので対岸の岩場を経由して右岸を巻くことにする。ルンゼの間にあるスラブ状フェイスから草付きにロープを伸ばす。右のルンゼを横切り、ブナの木がある岩壁の基部まで急斜面のブッシュワーキング。今回初めての大高巻きとなった。基部から小尾根を下降し、最後はルンゼ状を40mの懸垂で滝上の河原へと降りる。そこは大滝手前の比較的広い気持ちの良い河原であった。周囲には薪もあり大雨さえなければ泊まるには十分な場所だ。時刻は15時を既に回っているのでここに泊まることを決める。焚き火をして焼酎のお湯割りでリラックスする。S藤さんの作ってくれたココナッツカレーは絶品であった。

 

9/21(月) くもりときどき晴れ

BP5:30-二俣7:30-ガッコ沢左俣十王ノ間13:00-大井戸ルンゼ-上部ルンゼ16:00(泊)

4時起床5時半発。最初の大滝は右壁を登る。快適な登攀であったが1P目のルーファイを少し誤りタイムロス。ここは右から一段登ったら左の凹状を登るのが正解だ。2P目は左上からトラバースで滝上まで。

次の立派な釜をもつ3mの滝は左から取りつく。ややぬめっているがツッパリのフリーで突破。再度狭いゴルジュとなった沢は左へ屈曲して5mほどの小滝を2つ掛ける。ここは左側壁のクラックラインをカムでプロテクション取りながらジャミングで登る。上部がかぶり気味ですこし苦労する。さらにリッジ状を1Pロープを伸ばし、懸垂下降が可能な灌木まで進む。

いよいよ周辺の視界が大きく開けてきた。右の大空間には個性的で見覚えのある風景が飛び込んでくる。あのずんべの記録の白黒写真で何度も見た圧倒的な岩壁に囲まれた細長い井戸の底、ガッコ筒である。

ここを懸垂で降りたったところが二俣であった。左が左俣、大井戸の狭隘なV字スリットにはチョックストンのチムニー滝が掛る。そして右俣の本谷は連瀑を垂らし、最奥の猿落としの大滝の手前で左手から水を噴き出す。まさにここはガッコ沢二俣、花崗岩の浸食と断層による大自然の造詣が極まった深い井戸の底、ガッコ筒の荘厳で異様な風景が展開していた。

時刻は7時半、ここで須藤氏と作戦タイム。大井戸スリットのチムニーはシャワークライムになり時間がかかりそうだ。さらに続くスリット内には同様な滝がいくつかあることが容易に想像できる。突っ込んで突破できる保証は無い。

ここまで順調に来ているとは言え、実質的な登攀日時は本日のみ。そして突破にはボルトの使用は避けられないように思える。ボルトは持参してきているが、果たしてこの神聖なる場所をボルトで汚してよいものだろうか・・・普段はあまり考えないことに思慮深くなってしまうのは類まれな造形美を誇り、畏怖の念さえ覚える朝日の核心部、ガッコ筒に身を置いているからであろうか。熟慮の末、我々は大井戸スリットの突破は諦め、30年前の偉大なる先人のラインをたどることに決めたのだった。

13時、二俣から本谷右俣の登攀を再開する。釜のあるチョックストン7mの滝は乾いた左壁を右上気味に越える。そしてガッコ筒のどん詰まりへ。正面には上部ルンゼまで含めると200m以上あると思われる猿落ノ滝が白糸状の流れを落とす。

そして左から噴き出すように飛び落ちる本流25mの滝。ここは堅い花崗岩の階段状の右壁から上部は垂壁の凹角を快適かつ豪快なフリーで越える。落ち口で小休止しトラバースラインから左俣方向を仰ぐ。頭上にはイヌワシの塔が、そして大井戸を隔てて聳えるのは天目の塔。まさしくずんべの記録にあった景色がそこにある。

水筒に水を入れ、道なき道のトラバースに突入する。藪の急斜面を先ずはイヌワシの塔基部に向かってゆっくりとトラバースしてゆく。基部を過ぎ、急斜面の灌木帯を強引につっきると藪が薄くなり、左俣の岩峰群が露出する。左から天目ノ塔、通天稜、そしてひと気は目を見張る雲井ノ塔。その間に食い込む忘れ水、小井戸の急峻なルンゼ。ついにここにやってきたぞ!

岩交じりの草付きのトラバースから彼等が天目台と呼んいた展望台のテラスへ。ここから俯瞰する左俣の風景は圧巻である。そのすぐ先から夢にまでみた神聖なる場所、十王の間へと懸垂下降する。

俺はここに来たかったのだ。初登したずんべの斉藤孝雄氏が秋雨の降りしきる中、その脆弱な精神を魔王に裁かれた場所。そしてイヌワシの力を借りそれと決別した記念すべき場所。周囲を岩峰、ルンゼ群に囲まれた厳めしい場所ではあるが、ガッコ筒とは異なり意外にも明るい雰囲気を醸し出す。今日はその当時とは違い秋空の乾いたさわやかな空気が支配している。

十王の間からいよいよ大井戸ルンゼの登攀に移る。ここからが本番である。左俣本谷というべき核心部の大井戸ルンゼは谷川岳東面を彷彿とさせるようなルンゼ、スラブの登攀となった。岩は概ね硬い花崗岩だ。巨大なガレに注意しながらルンゼ下部を抜け、10m級の滝を3本直登し、ぐんぐんと高度を稼ぐ。

少し開けるとその先に40m、3段の難しそうなチョックストン滝が視野に入る。下部はややぬめっており慎重に登攀。上部は須藤氏が空身で右壁の凹角状を登るが簡単にはプロテクションを取らせてくれない。抜けた上部は視界が開ける。さらに上部は連瀑帯となっており、最後の40m滝が威圧的だ。的確にルーファイしながら連滝の登攀を続け、最後の大滝は右壁の弱点を2ピッチで突破するとやや傾斜が落ち核心は終わる。

眼下となった大井戸ルンゼは巨大な岩の割れ目を二俣まで一気に落とし込んでいた。水が枯れたすこし広がった小さい二俣のスペースを土木工事で拡張し今宵の宿とする。残り酒でささやかな祝杯をあげる。

 

9/22(火) くもり後雨

BP6:00-稜線7:45-相模尾根下山-三面ダム(車)13:30

翌日はルンゼを忠実に詰めあがるが、さすが大井戸ルンゼ、最後までロープを手放せない。悪い滝を3本登り、最上部で右岸の支尾根にあがる。後は相模山の登山道までわずかなやぶこぎで到達する。

ガッコ沢左俣は終わった。出会いを期待したガッコ沢の主、あのイヌワシは結局現れなかった。しかしきっとどこかで我々の行動を見ていたに違いない。S藤氏と完登を祝う固い握手を交わす。ガスにけむる大朝日を望み、年末に遭難した岳友、わらじの矢本氏を偲び黙とうを捧げる。

ガッコ沢は素晴らしい谷だった。大自然の優美さと尊厳さを十分に堪能できた。久しぶりに満足度の高い会心の山行ができた。このガッコ沢に勝るとも劣らないような人跡稀な魅力にあふれた場所がまだ山の奥深くには幾つも眠っているに違いない。それらは悠久の年月を経ても変わらない姿でひっそりとたたずみ我々の訪れを待っている。

日本の山にはまだまだ夢がある。心地よい疲労感とともに相模尾根をゆっくりと下りながらそんなことを感じていた。

 

終わりに

三面小屋からの帰り道。行きは気がつかなかったが、1000年斧入らずの原生林に大規模なナラ枯れが目立った。木肌をよく見ると細かい無数の穴があいていた。虫のしわざである。後で調べてみるとこのようなナラ枯れは最近日本海側の森林によく発生しているようで原因はカシノナガキクイムシが生息する部位にナラ菌が繁殖することからくるという。そして両者は共生関係にあるようだ。今のところ有効的な対策はないらしい。近年の温暖化との因果関係は不明だが恐ろしいことである。