【メンバー】
Y田(L)、ヤマ、MSO
【行程】
8/10 晴れ
5:50林道ゲート~6:50裏川堰堤~8:30要所口~15:00水無沢出合C1
8/11 曇り時々雨のち晴れ
5:15C1~6:20オコナイ沢出合~11:00矢沢出合~14:50烏帽子沢出合~15:30Co730C2
8/12 雨
台風で終日停滞C3
8/13 曇り時々晴れ
5:00C3~10:05マグソ穴沢出合~12:20烏帽子沢奥壁基部~15:10烏帽子山~18:30ホウジョウ沢C4
8/14 曇り時々雨
5:10C4~5:30オーサンカイ尾根~9:30飯豊川渡渉~12:20加治川治水ダム
・0日目(ヤマ)
出発当日になって急に台風の進路が変わり、東北に直撃する予報になってしまった。台風通過後に入渓する話も出たが、裏川は平水でないと遡行にならないのが目に見えていたため、予定通り入山して山中の安全地帯で台風をやり過ごすことにした。
今回は公共交通アプローチなので新幹線に乗り込んで出陣。車の回収が大変なのもあるが、下山後に打ち上げをしたいのだ。
・1日目(ヤマ)
津川駅からタクシーで小荒ダムへ。災害で林道のゲートが閉められていて、本来タクシーで入れる裏川堰堤までアブと共に歩く。そこそこな明瞭な踏み跡で要所口へ。
要所口から先は踏み跡と呼べるのか怪しい多少歩きやすい地形を拾って進む。暑くてしんどいが、ルンゼが入るたびに水浴びで生き返る。一大支流の櫛ノ倉沢を分ける前のナゴ沢出合で尾根から本流に下降し、ロープ1Pでナゴ沢を横断した(落ちたら本流ゴルジュに流されて死ねる…)。その後もひたすら踏み跡らしき何かを追って左岸をトラバースし、最後に水無沢の一本前の支流から懸垂下降してテンバ着。初日は沢登りをさせてもらえなかった。なぜか魚影も見当たらず。
(※)下山後に発見した裏川堰堤~ブナ入ノ平の踏み跡トポ
https://yomosawa-iide.com/%e8%a3%8f%e5%b7%9d%e5%b7%a6%e5%b2%b8%e3%81%ae%e5%b1%b1%e9%81%93/
・2日目(MSO)
入渓前に見た予報では1日中パッとしない予報だったが、良い方に外れて晴れている。幕営地を出発すると早速深いゴルジュが始まる。まだ日が差していないゴルジュは陰鬱とした雰囲気が漂っていて少し緊張するが、それ以上にようやく水線を遡行できるのが嬉しい。いくつか大きな支流を越えたとはいえ本流の流れは相変わらず野太く、右に左にヘツリ気味にゴルジュを突破していく。
1時間ほど遡行すると左岸から轟々と凄まじい勢いで流れ落ちる大滝が現れる。オコナイ沢出合だ。本流もオコナイ滝が同じく大水量で落ちていて、とても生身の人間が突破できる雰囲気ではない。左壁をヤマさんが空荷リードで1ピッチ伸ばす。下部はヌメヌメのスラブ(1箇所カムエイド)、上部は傾斜の強い泥壁でかなり悪かった。ロープを片付けてさらに50mほど藪漕ぎで標高を上げ、右岸の台地に上がる。この巻きで2時間かかった。
本流はオコナイ滝を越えた後も相変わらず厳しそうなゴルジュが続いている。大きな沢型を横断する辺りで一度下降して様子を見に行ってみたが、突破できなさそうな大きな滝が見えたので諦めて高巻き継続。ちょうどオコナイ沢出合と矢沢出合の中間付近でようやく本流に復帰した。
しばらくは河原だが、すぐにまたゴルジュが始まる。深い瀞をできるだけ濡れないようにヘツリながら進むが、ホールドがシビアで何度か入水してしまう。水温はそこまで低くないのがありがたい。
そんなこんなで本流を進むと、長い瀞の先で沢が急に屈曲する箇所が現れる。屈曲点まで際どいヘツリをこなして先をのぞき込むと立派なチョックストーンが。矢沢出合の天狗橋だ!
天狗橋を見るためには流れの強い瀞を突破しなくてはならない。泳ぎの強いメンバーがいないので無理かなと思いながら左からヘツって取り付いてみると、ギリギリつま先が地面に届く深さで何とか突破できた。1週間以上まともに雨が降っていない状態でギリギリだったので、少しでも増水していたら天狗橋を拝むことなく高巻きだっただろう。この景色を見たのは20人目くらいだろうか。
ひとしきり奇観を楽しんだのち本流遡行を再開。が、深いゴルジュの先にまたまた突破できなさそうなトイ状滝が控えている。少しだけ泳いで近づいてみたが、滝に取り付くことすら難しそう。ということで右岸のガレルンゼを詰めて高巻こうとしたが、これが大失敗。上部は脆く傾斜の立ったボロ壁になっていて、支点も取れないので強引にフリーで突破する羽目になってしまった。落石もひどい。本流はしばらく滝が続いているため、コウゲ滝(地形図の滝マーク)を越えたところで復帰した。
最大支流の矢沢を越えたことで本流はだいぶ穏やかな渓相になってきた。この辺りから予報通り雨が降り始めるが、すでに矢沢を越えられているので不安はない。1時間ほどで名前の由来が気になる三杯汁沢を越え、さらに1時間で烏帽子沢出合の2段滝が現れる。直登もできないことはなさそうだが時間が掛かりそうなので、そのまま本流を進み右岸の斜度が緩んだところから藪を漕いで本流と烏帽子沢の中間尾根に乗った。
この尾根上はところどころ台地状になっていて、台風を凌ぐ絶好の場所として入渓前から目星を付けていた。途中で焚火跡を発見、2017年の北大OBパーティのものだろう。今回台風が接近する中で裏川に突っ込む勇気を与えてくれたのは、ここに幕営適地が存在する記録を残してくれたことが大きい。
焚火跡から少し離れたところにさらに快適そうな台地を発見し、停滞に備えて入念に整地してタープを張る。ありがたいことに雨が止み、晴れ間すら覗いてきた。細い薪をかき集めて焚火を熾し、濡れた衣服をしっかり乾かすことができた。これで停滞に向けて準備は万端。寝る直前になってラジオを付けてみたがNHKの電波は拾えず、どうでもいいバラエティ番組が静かな山中に響き渡っていた。
・3日目(ヤマ)
台風で終日停滞。夜は結構降っていたので全員目覚ましをスルーして二度寝を決め込む。雨風は予報ほど大したことなくて悲壮感はない。食って飲んで寝ての怠惰な生活であるが、やることのない停滞の時間が早く過ぎるのはいいことだ。
・4日目(Y田)
雨は前日夜半には止んだ。2晩お世話になったテンバから烏帽子沢出合の滝の落ち口すぐ上部に下り、わずかに濁った烏帽子沢を進む。すると雪渓が登場。すでに崩れているが規模が大きいので左から巻き気味に乗って越える。ここが一番大きく、以降いくつか雪渓は現れるものの苦労せず越えられた。
2kmと言われる直線ゴルジュゴーロを過ぎると右に曲がるところに8m滝が懸かっており、これはMSOリードで左壁を越える。が、続く滝は深いV字谷に5mくらいのCS滝が連続してかかっておりとても登れそうに見えず、右岸から高巻きに入ってそのまま尾根まで巻き上げられる。向かう先の烏帽子沢奥壁とマグソ穴沢が見える。マグソ穴沢は雪渓びっしりで悪そう。烏帽子沢は雪渓は見当たらないものの、パッと見登れなくて巻きも無理そうなのっぺりした滝が見える…。最後25m目いっぱいの懸垂で沢床へ。
わらじPがエスケープに使った支沢を左に見送って奥壁へ進む。出合に7m滝が懸かりヤマリードで越える。その先はロープなしで登れる滝が続く。登れなさそうに見えていた滝は、右側のルンゼもカンテも登れそうでカンテからノーロープで越える。以降傾斜のあるゴーロが続くが、この辺まで雪渓に悩まされず容易に来られるのも貧雪のおかげかと思うと複雑だ。左にニセ烏帽子が見えるルンゼを見送ってもう少し登ると目指す奥壁ルンゼの出合となる。
ルンゼは烏帽子南峰のすぐ北のコルに突き上げている。ロープ4P出して登り、大きな滝はなかったがワンポイント悪いところがいくつかと、泥壁3mが核心だった。最後コルではなくてリッジを経て烏帽子山頂へダイレクトに突き上げるラストリードをもらって登り山頂へ。ちょうど雲も抜け解放感しかない…。
しばし山頂を満喫したのち北峰まで藪を漕ぎ、ここから古いトポにあった尾根筋を降りるが、これがかなりの激藪で消耗させられる。それでもなんとかホウジョウ沢左俣へ降りて広い川原を探す…ゴルジュの源頭っぽい渓相で幕営適地はなかなか見当たらず。夕闇に追われながら下降していくと全然広くないが3人は寝られる場所を見つけて行動終了。薪の捜索時間もなくて焚き火なしの夜。寝返りを打つと足が水にジャボンしたぐらいの素敵なロケーションだった。さー明日は降りるぞ!
・5日目(ヤマ)
寒い夜だった。濡れた服に着替えるのが嫌すぎるが、一瞬耐えれば何とかなる。テンバから少し進んだところの滝がクライムダウンできず、Co1240からオーサンカイ尾根に乗り上げる。尾根に乗ってしまえば明瞭な踏み跡に導かれてペースが上がる。数十年前のトポを頼りにしたホウジョウ沢下降は色々と苦労させられたので、山頂に泊まってオーサンカイ尾根を忠実に下降する方が楽なのかもしれない。
最後の核心の飯豊川渡渉は尾根末端から膝くらいの水位であっさり突破。ここの渡渉ポイントは多少増水していても突破できそうだ。あとはアブと共に加治川治水ダムまで長い歩き。電波が微妙に入らず、ダム事務所で電話を借りてタクシーを呼ぶ。在来線で0次会、新潟駅の焼肉屋で1次会、新幹線で2次会まで仕上がって帰宅。公共交通アプローチの合宿もよきでした。
・感想(ヤマ)
今年の沢合宿は飯豊。初めての飯豊ながら、記録の少ない沢に行きたくて希望した裏川烏帽子沢。裏川下部からの遡行は1997年わらじの仲間以来で約30年ぶりでしょうか。記録を見ない烏帽子沢奥壁からの完登というおまけも付いてきました。
「近代的登攀技術などあざわらうが如く」との登山大系の記述のとおり、本流の水線突破は論外で高巻きに終始し、我慢の遡行になりました。でも、山頂から遡行してきた裏川流域を眺めた時、飯豊の大きな沢をやった感慨がありました。奥壁ではヤブヤブ泥壁で泥臭いながらも、未知の中でもがけて楽しかった。こういう瞬間のために山屋をしているのかなと思えました。
・遡行図(ヤマ)