○山域・ルート:黒部 丸山東壁1ルンゼ~御前谷右俣下降~御前谷本谷~雄山東尾根~雄山~室堂
○期間:2025/9/21~23
○メンバー:L N口(会外)、N島R恵
○タイムスタンプ
21日 1100扇沢発~黒部ダム~内蔵助谷~1ルンゼ~偵察~1430幕地
22日 0500幕地~1ルンゼ~1240丸山稜線~沢下降~1630御前谷二俣~1700幕地
23日 0540幕地~0630大滝取り付き~0840大滝落ち口~1345雄山東尾根のコル~1540室堂

○報告
はじめに
ひょんなことからK岡さんが記載したこのルートの記録(同行:N島S子さん、K池M美さん)を見て、大変な衝撃を受けたのが、私のぶな入会前、もうかれこれ6~7年前になろうか。岩から谷、そして滝、さらにカールを越えて雄山東尾根から山頂へ繋ぐ。なんと魅力的なルートか、その発想力、そしてそれをやり遂げる実力に心を揺さぶられ、以来、このルートのことはずーっと心のどこかにあった。ようやく、それを実現する時が来た。
初日
黒部ダムから内蔵助谷に向けて歩き始める。まだ小雨がやまない。黒部川沿いから内蔵助谷に入り、さらに1ルンゼへ。途中、何とか幕営できそうな箇所を発見して整地し、取り付きを偵察する。折しも、F巻・S藤Pがルート整備中であった。取り付きを確認して登攀具をデポ、戻って焚火に取り掛かる。直前までの降雨もあってなかなか着火しない。1時間ほどもかけてようやく火が付いたところにF巻Pが戻ってきたので、しばし談笑して就寝した。
二日目
我々がテントの中でごそごそやっているうちに、F巻Pは通り過ぎて行った。少し遅れて出、取り付きへ。右手の洞窟方面の壁は脆そうだ。左の滝沿いを登る。濡れているので、沢靴。
1ピッチ目 N島
砂。砂である。すべてのスタンスの上に砂があり、足を置くとじゃりっと動く。手も甘い。怖いが、斜度は緩いので慎重にザイルを伸ばす。支点はブッシュ。40mほど、滝のすぐそばで切る。
2ピッチ目 N島
今思えばここが一番簡単で固かった。快適に伸ばし、滝横のルンゼ手前で切る。
3ピッチ目 N島
藪のあるルンゼを登る。傾斜強し。が、ここ以外は水が流れているので、もうここを行くっきゃない。
下部20mは快適な藪なのだが、上部5m、藪が切れる。さあ、どうする。
ルンゼ内に足を突っ張って観察する。上部に開き気味のフレークがある、右手を伸ばしてギリギリ、そこにカムを突っ込む。左手の上にはニラがわずかに生えた泥地がある。カムが効いていることを確かめ、左手のニラ畑にバイルを決め、ニラの神様に短く祈りを捧げ、覚悟を決めてえいやっとのこっす。何とか乗り切り、あと少し伸ばして切る。ここが一番緊張した。
4ピッチ目 N口
濡れたつるっとしたスラブが延々と続く。残置なくハーケンを打ち足して突破。
5ピッチ目 N島
相変わらず斜度はないのだが、濡れてつるっとしたスラブ。藪で支点をとりながら上がる。
この後はロープをたたんでしばらく歩く。と、チムニー状の滝が現れる。野島リード。一か所、およよよ?となったが、右手のリングボルトにシュリンゲアブミを作って突破した。あとは快適。
しばらく行くと丸山の稜線に出る。藪を漕いで丸山山頂へ。大した藪ではない。そこから北に向かう稜線をしばらく行ってから、沢を降り、御前谷右俣に合流する。
右俣を降り、もう少しで御前谷本谷と合流する、というところで、御前谷大滝が見えた。
正直、帰ろうかと思った。大変な水量で、到底登れそうに見えない。が、帰るのも大変だ。。。というわけで、まあ、明日様子を見ることにし、出合に幕営。ぱっと見良いテンバはなかったが、一生懸命整地し、すかんぽを敷き詰めると、寝心地の良い我が家になった。
3日目
早速御前谷大滝を観察する。水量やばし。たとえ下段を右から登っても、その後徒渉できず行き詰るのは明白。次に、先輩たちが登ったらしい左壁を観察する。逆層だし、濡れている。
そこで、ちょい左手から藪を繋いで壁を超えることにする。
1ピッチ目 トラバース N島
急な藪岩をトラバースしていくと、思いもよらぬ快適なポイントがあり、そこで切る。
2ピッチ目 懸垂 N口
そこからよくよく観察すると、10m下にトラバースポイントがあり、そこでカンテをのっこせそう。というわけで、懸垂。
3ピッチ目 N島
着地地点から10m、斜度のある岩藪を登り、カンテをのっこし、大滝下部の落ち口をまたぐ。のっこしてひょいと先を見れば、スラブが10mほど続き、そのうえが藪で、それを伝って大滝上部の落ち口に出られそうだ。
これで大滝を突破できる!…のはうれしいのだが、その前にこのスラブを登らねばならぬ。斜度は緩いのだがめちゃくちゃ脆く、ブッシュもない。ここで落ちたらただでは済まない。いや、これなら、御神楽岳のどの壁よりも斜度が緩いではないか。落ち着いていけ、大丈夫だ、と自分に言い聞かせ、慎重にゆっくりと登り、ようやく藪に達した時にはほっとした。
4ピッチ目 N口
藪を繋いでトラバースし、落ち口に向かって懸垂。見事落ち口に達し、抱き合って突破を喜んだ。
その先、大した難所はないが、ここからあと1300m標高を上げねばならぬ。黙々と進み、カールへ。そして雄山東尾根を仰いだ時には、まじ、あそこまで登るの、時間足りないのでは、最終便に間に合うか、と本気で焦った。登ってみれば距離は短い。が、急登で、すでに65歳を超えた老クライマーは息を切らして辛そうであった。
東尾根のコルに達し、来た道を振り返る。終わった、丸東1ルンゼが終わったのだ。憧れのルートを、とうとう踏破できた。
コルから一挙手一投足で雄山山頂。N口と固い握手を交わす。装備をほどく間もなく、一の越、そして室堂に向けて下降した。結果的には、余裕をもって、最終便の1本前に間に合った。クライミングシューズは、使わなかった。
終わりに
登攀を通じて残置は、数本のリングボルトと2本のハーケンを確認したのみで、人跡稀なルートと言える。毎年、なんなら毎週末、幾多のパーティを迎え入れ、ともすれば渋滞になるようなルート、残置を追っていけば導かれるようなルートとはわけが違う。
自らの、現場力、判断力を強く要求される一方、自分で見極めたルートを、自分で登るという自由度が高く、自己表現の余地がたぶんに残されている。あるがままの黒部のなかで、自分が見出した、自分のルートを登らせていただくことができて、感謝している。登らせてくれた黒部にも、このルートの存在を教えてくれたK岡さんパーティにも、そして何より、最良のパートナーであるN口にも。
最高のアルパインでした。