○メンバー:L MSO(記)、T城、M松
○タイムスタンプ
8/13(水) 晴れ
皿渕沢入渓点7:10~co1020mコル9:30~13:40横沢出合14:00~18:30カクネ平(C1)
8/14(木) 晴れ
C1 6:30~芝倉沢出合7:40~小国沢出合10:25~小赤沢出合11:50~茶畑沢出合12:30~平七沢出合16:00~17:00岩屋沢出合(登山道合流点)(C2)
8/15(金) 雨のち晴れ
C2 5:25~6:30オツボ沢渡渉点14:15~ウシ沢出合15:50~呂滝17:00~~18:00湯ノ沢出合先の河原 C3
8/16(土) 晴れ
C4 5:15~西俣沢出合6:45~6:55東俣沢出合7:20~下部ゴルジュ入口の滝10:10~下部ゴルジュ高巻終了12:20~右俣出合13:00 ~14:00連瀑帯上14:15~15:40狐穴小屋16:00~18:00以東小屋(C4)
8/15(金) 曇りのち晴れ
C4 5:15~大鳥小屋6:50~9:00泡滝ダム
今年の合宿山域は北アルプス。我々は上の廊下周辺の支沢の5泊6日ワクワク継続遡下降の計画を立てていたものの、お盆に入った途端やってきた謎の前線のせいで北アは壊滅的な天気予報。連休後半に望みを託して折立や室堂の雨量データを見続けていたが、非情にもどんどん累積雨量は増えていく。上の廊下は雨が止んだとしても数日は生身の人間が太刀打ちできる状態ではなさそうだ。泣く泣く転進することに決める。
転進先はあまり前線の影響を受けていなそうな北東北と決めたが、なかなか行きたいところが決まらない(そもそも北東北はグラビア沢しか知らない)。滝ノ股沢や黄瀬川、生保内川は最近別のぶなPが入っているので二番煎じ感が否めないし、葛根田やマンダノ、尿前も案に出たが自分が遡行済み。そもそも5泊6日の長期山行の準備をしていただけに、東北の1泊や2泊のグラビア沢に転進することに個人的にはあまりやる気が起きなかった。
どうしようかと悩んでいた時に、そういえば先月末に知り合いが八久和川を遡行していたことを思い出した。今年の飯豊や朝日は雪渓が多そうなのでまったく候補に考えていなかったが、八久和はひょっとしたら行けるのかもしれない。記録を漁ってみたが、確かに多雪の年のお盆の記録でも雪渓に苦労している様子は見かけない。北アほどではないが、朝日も前線の影響で結構雨が降っていて増水していそうなのが心配だが、八久和なら途中で登山道を横切るし、中俣沢なら天狗角力取山に続く稜線が近いのでエスケープする手段はいくつか取れそうだ。思いついたら転進先は八久和しかあり得ない気がしてきた。メンバーを説得して月曜の昼に八久和に転進を決める。
8/13(水) 晴れ
火曜昼過ぎに都内を出て寒河江の道の駅で前泊。当初は5時くらいには入渓するつもりだったが、前日に20mmくらいは雨が降ったので、早く入渓しても本流は増水しているだろうとのんびり起きて6時過ぎに皿渕沢の入渓点へ。車から降りると早速アブたちの熱烈な歓待…とならずシーンとしている。何だか拍子抜けだ。
入渓点で遡行の準備をしていたら4人パーティの車がやってきた。聞くと同じく中俣沢を目指すらしい。八久和を独り占めできないのは残念だが、この条件で同じく八久和を遡行しようと考えたパーティがいたことにホッとする。我々は泡滝ダムに車をデポしに向かい、7時過ぎに入渓。
皿渕沢をしばらく遡行するとすぐに雪渓の残骸。こんな標高の低いところにも残っているとは…早速この後の行程が不安になる。

皿渕沢を20分ほど遡行するとトガラ沢出合。トガラ沢は小滝が続いてさくさくと標高が上がる。さくさくと標高が上がる以外は特に特筆することはなく2時間ちょっとで池塘のあるコルに出た。

横沢の下降も特に難しいことはない。事前に読んだ記録の通り、懸垂になりそうな滝がいくつか出てくるが意外とどれもクライムダウンできてしまう。渓相も明るくて、魚影も濃い。確かに関東近郊にあったら一気にグラビア沢として人気になりそうだ。

途中で休憩していると、先行していたはずのパーティが後ろからやってきた。どうやらトガラ沢で少しルートを間違えて戻ってきたらしい。魚影が濃いので彼らはここで竿を出すとのこと。楽しそうだが、まだまだ先は長いので我々は再度先行させてもらう。(その後彼らとまた会うことは無かった)
結局2回懸垂下降をして14時に八久和川との出合へ。大渓谷との対面に胸が躍る。ここ一週間で累積200mm以上の雨を受け入れた八久和は、野太い流れで我々を迎えてくれた。

平水を知らないが恐らくはかなり増水しているのだろう。暴力的な水の流れに緊張感が高まる。カクネ平まで右岸に巻き道が付いているらしいが、しばらくは左岸を水線沿いに進めそうなので行けるところまで行ってみることにする。が、案の定すぐに突破できないゴルジュが現れ左岸を高巻き。地形図の通り一段上がると台地上になっており、しめしめと進めるところまで進んでしまう。台地が終わるあたりで懸垂すると、ちょうど渡渉ができそうなポイントに下りてこれた。今日の水量だとこの先も水線突破は厳しそうだ。念のためロープで確保しながら一人ずつ対岸に渡り、左岸の巻き道をたどることにする。だが、道はとっくの昔に自然に帰ってしまったようで、時折薄い踏み跡が残るだけで、大半は藪やガレの片斜面が続く。カクネ平までは直線距離で1kmくらいのはずなのに、いつまで経ってもたどり着けない。途中で痺れを切らして一度懸垂で川に下りるが、結局すぐにまた高巻きする羽目になった。


横沢出合から4時間半掛けて何とか日没前にカクネ平へ。急いで薪を集めて、焚火がつく頃にはもう辺りは真っ暗になっていた。飯を掻き込んで、明日も長いので早々と就寝。
8/14(木) 晴れ
5時くらいには歩き始めるつもりだったが、前日寝る時間が遅くなってしまったので、予定を少し後ろ倒しにして6時半に出発。しばらく台地を進んでから、適当な小沢から再度八久和に降り立った。
一夜明けて多少は減水したらしい、岩に付いた水跡を見る限り5cm程度か。芝倉沢は地形図ではゴルジュぽいイメージだが、実際は広い河原が続く。昨日の酷い藪漕ぎから打って変わって、さくさくと前に進めて気分が良い。


芝倉沢を過ぎた辺りからまた川幅は狭まり、流れが厳しくなってくる。容易には突破させてくれないが、昨日と違ってへつりやスクラム渡渉でどうにか突破できる箇所も出てきて楽しい。とはいえ時折どうしようもない箇所も出てきて、細かく高巻きも交えながら進んでいく。色んな方法を駆使して突破したからか、細かくどこをどう突破したかの記憶がない。芝倉沢から5時間ほどで茶畑沢出合へ。


茶畑沢出合を超えるとすぐに流れの強いゴルジュ(大ハグラ石滝)が現れるが、ここは左岸側を突破できた。


その先のゴルジュは突破できず左岸巻き。その後しばらくは河原区間が続き、やがて自然プールと呼ばれる淵が現れる。それまでの急流との対比も相まって異様な雰囲気。

自然プールは右岸側をへつって通過できるが、その先のゴルジュの流れが速い。泳ぎの得意なM松くんに一回突破を試みてもらうが、どうにもならなかったので諦めて左岸巻き。降りれそうな場所はないかと時折様子を伺うが、ゴルジュ内は流れが速く白波が立ちまくっていて恐ろしい様相。結局1時間ほどの長い巻きになってしまった。

そんなこんなで16時手前にようやく平七沢出合に到着。この辺りは河原になっていて絶好の幕営適地もちらほらある。時間的にはちょうど良さそうだが、本来は今日中に呂滝の上まで抜けておくつもりだったのでだいぶ行程が遅れてしまっている。少しでも挽回するために登山道と合流する岩屋沢出合までは頑張ることに。大渓谷だった八久和川も、ここまでくると毎年渡渉訓練で訪れている丹波川本流くらいの水量まで落ち着く。特に難所もなく1時間ほどで岩屋沢出合へ。オツボ峰方面の登山道を少し入ったところに、恐らく釣り師が開拓したであろう絶好のスペースがあったのでありがたく使わせてもらう。誰かしら釣り師と鉢合わせるかと思ったが、幸いこの日は誰もいなかった。

8/15(金) 雨のち晴れ
未明に雨が降り出し、タープを叩く音で目が覚める。入山前に見た天気予報ではこの日は朝方まで小雨がぱらついたのちに午後から晴れるらしい。何だがやけに雨音が強い気はするが、予報通りすぐやんでくれることを信じて雨の中行動を開始。昨日まで河原だったところが川に飲み込まれていて何だか面白い。水量は昨日より10cm弱増えているだろうか。とはいえ切り立った地形ではないのでへつりながら進んでいける。

雨は止むどころか、どんどん強くなっていく。オツボ沢出合の手前からゴルジュになっていて、濁った水が激しく流れている。生身の人間にはどうすることも出来なそうなので、定石通り左岸を高巻いてオツボ沢を渡渉することにする。が、オツボ沢の渡渉ポイントも増水で川底が見えない。渡渉点の少し下は滝の落ち口で、凄まじい勢いで本流ゴルジュに水が流れ落ちている。ここで渡渉に失敗したら濁流に飲み込まれて生きては帰れないだろう。ロープを出して渡るとか、オツボ沢をもっと上流側で巻けないかとか、パーティで少し考えてみたが、土砂降りの天気の中で頑張りすぎても事故が起きるリスクが高くなるだけな気がした。集水域が広くはないオツボ沢なら、雨がやんでしばらくしたら減水するだろうと渡渉点手前の台地上のスペースで待つことに決める。


結局入山前の天気予報は大外れで、11時頃まで断続的に強い雨が降り続いた。日差しが差すと遠くの方でセミが鳴きだし、夏らしい気持ちの良い空気が流れ始める。なんだか今日まだテン場から500mも進めていないという現実がどうでも良くなってきて、いつの間にか心地の良い眠りについていた。ぱっと目を覚ますと13時。慌ててオツボ沢の様子を見てみるとだいぶ濁りがとれて沢床が見えている。これなら渡渉できそうだ。
タープを片付けて荷物を整理しているとT城さんからまさかの申告。一つはテン場にゴルジュハンマーを忘れてきたということ。二つ目は昨日のスクラム渡渉で一度押し流されそうになった時に肋骨を怪我して、藪を掴んだ急な登り降りが痛むということ。
ここに来て撤退の2文字が頭をよぎる。とりあえずT城さんの荷物を僕とM松くんで分配して、もうしばらく様子を見ながら前進することに。テン場に置いてきたハンマーは元気な2人で取りにいった。
14時にようやくオツボ沢を渡渉。ここから先はしばらく左岸沿いに明瞭な巻き道が付いているらしい。なんとなく尾根筋の藪が薄くなっていたのでこれじゃないかと登っていくが、50mほど登ると藪に阻まれてしまう。怪我人を抱えているというのに早速無駄な登りをしてしまった。
来た道を戻って周りを探してみるとピンクテープを発見。踏み跡らしきもあったが想像していたほど明瞭ではない。ここ数年はそんなに釣り師が入っていないのだろうか?だいぶ右往左往してから結局踏み跡を辿ることは諦め、さっさと本流に下りることに。明瞭な巻き道という情報に惑わされてしまって反省。
本流筋はまだまだ濁っていて流れも強いが、遡行するのに支障はないレベル。サクサク進んでコマス滝手前のウシ沢出合へ。ウシ沢を少し登って高巻くが、ここの高巻きはしっかりとした踏み跡が残っていた。


踏み跡を辿って本流に下りるとすぐに快適な幕営地になっているが、なぜかそこにマットや食料が残置されている。濡れていないので今日雨が止んでから誰かが残置したようだ。登山道の合流点から誰とも会っていないがどういうことだ?と不思議に思いながらしばらく進むと、呂滝手前で単独の釣り師のお兄さんに遭遇した。先ほどの残置物はこの人のなのだろう。話を聞いてみるとウシ沢を下降して入渓したらしい。確かに地形図を見る限りウシ沢は大した難所は無さそうだ。岩屋沢出合~コマス滝までの行程がショートカットできるし、呂滝で釣りをしたい人間に取っては合理的な選択肢な気がする。最近はウシ沢からの入渓が流行って、オツボ沢の巻き道はあまり使われなくなってしまったのかもしれない。
釣り師から明日以降しばらく天気が良いという嬉しい情報と、稜線から見た中俣沢が雪渓だらけだったという嬉しくない情報を受け取って先を進ませてもらう。
呂滝は実際は地形図よりだいぶ手前にある。軍艦級の岩魚がいるらしいが、濁っていて何も見えない。直登も出来そうだが、濁った釜を泳ぎたくないので左岸巻き。ここもうっすら踏み跡が付いていてそれを辿ると懸垂無しで滝上に降り立てる。

滝の先はゴルジュ地形になっている。湯ノ沢出合の小滝も直登出来そうだったがやはり釜を泳ぎたくないので左岸を小さく高巻くと、その先は広い河原になっているので今日はここに泊まることにする。目の前にはエズラ峰の岩壁が美しく、だいぶ八久和の奥の方にやってきたことを実感した。

8/16(土) 快晴
3時半起床。期待通り空は雲一つない快晴だが、放射冷却でかなり寒い。この先の雪渓処理や、T城さんの肋骨の調子と不安材料がいくつかあるので、できるだけ行動時間を稼ぐために5時過ぎに行動を開始する。進む先にエズラ峰のモルゲンが美しい。

歩き始めると早速胸まで浸かる瀞が現れる。まだ沢床には日が差していないのでとんでもなく寒い。水に浸かっている最中はもちろんゴリゴリ体力が削り取られていくうえに、空気が冷え込んでいるせいで歩いていても一向に身体が温まらない。歯をガタガタと震わせながら1時間ほどで西俣沢出合へ。


西俣沢出合から先は地形図上ではゴルジュ地形が続いていて、この辺りに雪渓が詰まっているんじゃないかと想像していだが、拍子抜けすることに雪渓は欠片も見当たらない。ゴルジュ自体も大したものではなく、西俣沢出合から10分程度で東俣沢出合。ついに中俣沢遡行が始まる。

出合すぐの小滝をシャワーを浴びながら越えると、ようやく日が差すポイントが。太陽光の偉大さを感じながら、気力を回復するためにゆっくり休憩を取る。ここは快適ではなさそうだが3~4人ビバークできそうなスペースになっていた。

日が差した中俣沢は、薄緑の澄んだ水に白い岩肌が映えてとても美しい。ここ数日間の泥臭い沢登りとの対比で感動はひとしおだ。しばらくは簡単に登れる小滝が連続する。それぞれ滝の大きさに対してやけに釜は深いが、何とかへつって濡れずに突破できる。


しばらく快調に進んでいくと、沢が開け15m滝が現れる。ここだけ沢幅が広がり劇場のような空間だ。この滝は念のためロープを出して右岸の藪を繋いで登った。

15m滝を過ぎ、さらに小滝をいくつか登ると、co950m、ついでco1000mで小さな雪渓が現れる。どちらも数日後には崩壊しそう。


前日釣り師のお兄さんに中俣沢は雪渓だらけと言われていたので構えていたのだが、標高を上げても大した雪渓が残っていなくて拍子抜けだ。よくよく考えたら釣り師が中俣沢がちゃんとどこか分かっているのか怪しい。オツボ沢とか西俣沢に雪渓が溜まっていたのを勘違いしたのかもしれない。
さらにしばらく進むと支沢から多段の大きな滝と出合う。本流側の6m滝は右壁をロープを出して登る。登った先はゴルジュになっていてトラバースは難しそうだったので、そのまま右壁のスラブにロープを伸ばして大高巻きすることにする。登攀的にはこの6m滝の登りが核心か。(とはいえⅣ程度)


藪漕ぎしながら下降点を探していると、進む先に断続的に雪渓が残っているのが見える。面倒だなとげんなりするが、よく見ると雪渓が残っているのは支沢のようだ。本流筋には雪渓は無く、奥に迫力のある連瀑帯が控えている。


出合の手前で懸垂で沢床に復帰しようとしたが、巻きすぎてしまったようで50mロープだと微妙に届かない。懸垂支点まで登り返してから別の灌木でリトライ。そんなこんなで余計な時間を食ってしまい、結局高巻きに2時間掛かってしまった。
その先の連瀑帯は高巻き中に遠目で見ると迫力があったが、近づいてみると結構斜度が寝ている。下段は直登し、中段は左岸巻き、上段は直登。ロープも出さずにあっさり通過できてしまった。

連瀑帯を過ぎるとついにフィナーレの源頭部。草原上の穏やかな空間が広がる。ここにたどり着くまでの苦労で色眼鏡を掛けてしまっている気はするが、今まで遡行した沢のなかでもダントツで素晴らしい源頭部だ。大渓谷だった八久和川を少しずつ遡った先の景色がこれだと思うと感慨深い。この4日間の思い出を噛みしめながら気持ちのいい源頭部を歩き続けると、やがて藪漕ぎなしで狐穴小屋に飛び出した。


さて、完走できたのは嬉しいがもう今日はお盆後半の土曜日。明後日には仕事が始まってしまう。狐穴小屋で泊まるつもりだったが、頑張ってこの日のうちに以東小屋まで足を延ばしておくことに。ずっと狭い谷のなかを歩いていたので、解放的な稜線歩きがとても楽しい。涼しい風が吹いて全く暑くないのも嬉しい誤算だった。


小屋の中で食事を準備していると、緊張感から解放されてどっと疲れが湧いてきた。この日は鶴岡で花火大会をやっていて小屋からも見下ろせたらしいが、観に外に出る元気も湧かず早々と眠りについた。
8/17(日) 曇りのち晴れ
相変わらず身体は重いが、昨日頑張ったおかげで今日は泡滝ダムまでひたすら下るだけ。明け方まで晴れていたが、日が昇る頃には稜線はガスに巻かれてしまっていた。昨日のうちに稜線を歩いておいて良かった。標高を下げると日が差して猛烈に暑いが、大鳥池より先は登山道沿いにたびたび水が流れているので、そのたびにクールダウンできてありがたい。
9時前に泡滝ダムに下山。天童の牛角で打ち上げして帰京した。