メンバー:S原、I(他会)

昨年に続き、アイスクライミングのため、カナディアン・ロッキーを訪れた。

●今回の目的:
・昨年登れなかった主な氷瀑をいくつか登る。特にアクセスの困難なGhost River地域の氷瀑を登る。
・日本には稀な、ミックス用に整備された岩壁を、ドライツーリングで登る。

●結果:
・Weeping Wall Right Hand, Icefield Parkway, WI5, 160m 登攀
・The Professor Falls, Bow Valley, WI4-5, 210m (280m) 登攀
・The Sorcerer, Ghost River, WI5, 190m 登攀(ガイド山行)
など、目標としていた氷瀑を登り、さらに
・Hydrophobia, Ghost River, WI5+, 150m (300m)
・Expert’s Choice, Waterton, WI4-6, 130m
など、名瀑とされる氷瀑を訪れることができた。
またミックス・ゲレンデのHaffner Creekでは、ドライツーリングの良いトレーニングができた。期間中に寒波が到来し、約-30℃まで冷え込んで、日程に若干の制約があったことを考えれば、目的をほぼ達成できたと思う。

●メンバー:
今回の同行者はIさん。アイスクライミングの韓国W杯参加を控え、トレーニングを兼ねているため、中身の濃いクライミングとなった。Iさんとは事前に八ヶ岳に4回通い、体力とクライミングのトレーニングを行った(以下敬称略)。

●行動:
定宿としているBanff近郊のCanmoreのホステルThe Hostel Bear(以下THB)をベースに、主に日帰りでクライミングを行った。遠方のIcefield Parkway地域を訪れた際は、現地のホステルHI-Rampart Creek(以下HRC)で宿泊した。

●日程:
12/21 日 成田発-Calgary着~Canmoreに移動、THB泊(以下同)
12/22 月 Grott Canyon~Jank Yard
12/23 火 Haffner Creek、HRC泊
12/24 水 Weeping Wall登攀、HRC泊
12/25 木 休養日
12/26 金 The Sorcerer登攀
12/27 土 休養日
12/28 日 Haffner Creek
12/29 月 Waterton
12/30 火 休養日(ジムトレ)
12/31 水 The Professor Falls登攀
1/1 木 休養日
1/2 金 Haffner Creek
1/3 土 Canmore~Calgary発
1/4 日 成田着

●天候、氷結状態など:
期間中は比較的好天が続いた。Banff市内で最低気温-15℃、最高気温-5℃程度の平年並みの冷え込みで、全般に積雪は少なく、アイスクライミングには好適だった。12/29-30の間は寒波により最低気温約-30℃まで冷え込み、厳しいクライミングは困難だった。氷瀑情報と天気予報を睨みながら、登攀する地域と氷瀑を決め、準備する毎日だった。
一方、氷瀑の氷結状態は地域と氷瀑により大きく差があり、同じ氷瀑でも、条件により登れたり登れなかったりする。下記の情報サイトでも最新の情報が見られるが、実際に登っている現地ガイドの氷瀑情報が大いに役に立った。

gravsports-ice.com

●記録:
12/21 日 成田発-Calgary着 市内のMECでガス缶など買い物の後、レンタカーでCanmoreの定宿 The Hostel Bear(THB)へ。

12/22 月 Canmore近郊のGrott Canyonへ。氷瀑His, Hers付近のミッスクルートを目指すも、氷結不足で取付けず。Grott Falls WI3 55mの下半で肩慣らしして撤収。続いてCanmoreのすぐ裏手にあるJank Yardに向かったが、ここでS原のクランポンに異状発生。BD Stingerのステンレス製プレートが割れてしまった。Canmoreでは代わりが見つからず、BanffのMonod Sportsで最後の1組を確保してことなきを得た。夜に現地ガイドのBrent Petersと会い、準備打ち合わせと情報交換。
THB 800 – 930 Grott Canyon 1200 – 1400 Jank Yard 1430 – 1600 Banff – 1800 THB

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12/23 火 Haffner Creekへ。こちらもミックスルート付近の氷結が少なく難度が高い。垂直の氷爆1本をそれぞれリードして明日に備える。夕刻Icefield ParkwayのHI-Rampart Creek(HRC)に移動。管理人のKenは夜間だけの勤務で、冬はスキー、夏は自転車のスポーツ三昧の生活。愛犬のDanaは人懐こく、食事をしていると鼻先で脚をつついてくる。食べ終わった後の皿を舐めさせて、とねだっているのだ。
THB 900 – 1010 Marble Canyon 駐車場 – 1120 Haffner Creek 1400 – 1700 HRC

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12/24 水 Weeping Wall Right Hand, WI5 160m登攀
全高約400mの岩壁中段から懸垂する大氷爆の右ライン。HRCから車で約15分、駐車場から目の前にそびえる氷瀑の取り付きまで徒歩約10分という絶好のロケーション。人気ルートだが他パーティはおらず、快晴の大氷瀑を独占して登るという好機を得た。

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P2は一旦左上して右に切り返す、というのがPetersの薦めだったが、陽が当たって氷質が悪そうなので、日陰の直上ラインに変更する。ほとんど垂直の登攀が続くが、数mの脆い部分を除いて氷質は良く、スクリューもよく効いた。最上部のピラーも氷がもろく、スクリューを打つ位置に苦労する。ここはIの粘り強い登りで突破した。Iはこれまで2回トライしており、3度目の成功に大いに喜んだ。

900 取り付き
915 P1 WI4 55m I 右壁のボルトまで右上。ボルトの位置が高く苦労する
1110 P2 WI5 55m S原 氷瀑右端を直上、緩傾斜手前でスクリュービレイ
1330 P3 WI4 30m I 上部ピラー手前で切る
1440 P4 WI5 40m I 上部ピラー。氷が固くもろい
1620 右手立木の鎖で登攀終了、右手岩壁のボルト2箇所を使って懸垂3P
1800 取り付き

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12/25 木 Canmoreに移動、休養日

12/26 金 The Sorcerer, WI5 190m登攀
ロッキーの東側、Ghost Riverの約300mの岩壁にかかる大氷爆。この地域は道路アクセスが極めて悪く、大型の4駆トラックが必要。入山者も少なくアプローチが核心になるので、昨年知り合った現地ガイド、Brent Peters(最新のガイド本“Ice Lines”の著者)に同行してもらった。さらに知人のトラックと2台でオフロードを2時間走り、凍結した川と沼地を走破して駐車場に到着。
林間の雪原を2時間ほど歩くと、突然目の前に垂直の大岩壁と、その中央にかかる氷爆が威容を現す。その堂々とした姿には、確かに「賢者」の名がふさわしい。Petersの提案でこの大滝を登るだけでなく、隣接する(といっても地図上で約1km離れた)もうひとつの大氷爆Hydrophobia WI5+ 150m(全長約300m)まで山上を徒歩で移動する、という豪華プランになった。

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時間節約のためPetersにリードしてもらったが、約100m続く上部の垂直部は迫力満点。さらに滝を登った上には、別世界のような雪原が広がっていた。ロッキー東部の山並みを眺めながら歩くこと約2時間でHydrophobiaの上に到着。懸垂5Pで基部まで下降した時には薄暗くなっていた。こちらもThe Sorcererに劣らぬ規模を誇る大滝だが、北面にかかるため氷が固くもろい。さらに多数の切れ目が水平に走り、近寄り難い印象だ。
昨年から培った人脈のおかげで、異国からの訪問者だけでは体験しがたい1日を過ごすことができた。

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500 THB集合、515発
800 現地駐車場発 – 945 取り付き
1000 P1 WI3 55m
1025 P2 WI3 45m
1115 P3 WI4-5 35m
1205 P4~P6 WI5 計55m+
1340 登攀終了~山上ハイク
1545 Hydrophobia着~懸垂5P
1705 取り付き
1830 駐車場着
 2030 THB着

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12/27 土 休養日

12/28 日 Haffner Creek
ミックスのゲレンデで久しぶりのドライツーリング。Californication M5とShagadelic M7をTRで登った。
THB 900 – 1010 Marble Canyon駐車場 – 1040 Haffner Creek 1530 – 1800 THB

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12/29 月 Waterton
-30℃の寒波到来で北部の滝の登攀は困難。東のCalgaryからさらに250km南のWatertonを目指す。ここには現地ガイドが口を揃えてほめるExpert’s Choice WI4-6 130mという名瀑があるというので、片道4時間半かけて行ってみた。
米国との国境に近いWaterton National Parkは、豊富な水資源に恵まれた自然豊かな景勝地で、節理が斜めに走る赤い岩壁に、様々な形状の滝を道路から間近に見ることができる。あいにくの新雪による雪崩リスクで登攀はできなかったが、道路脇から見るExpert’s Choiceは確かに野趣にあふれ、グレード以上の魅力が感じられた。Quick & Dirty WI3 35mも道路から間近で、登れば楽しそうだ。

町外れの道路脇では、野生のbighorn sheep(巨大な角のヒツジ)が巨体を揺らして並走。豊かな自然が羨ましい。
THB 500 – 930 Waterton氷瀑めぐり(Cameron Lake行きの道路が1000に除雪) – 1700 THB

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12/30 火 休養日 寒波による凍結を当て込んで、早朝出発でThe Professor Fallsを登るつもりだったが、-30℃近い冷え込みに断念。代わりに市内のスポーツ施設Elevation Placeでジムトレとした。

12/31 水 The Professor Falls WI4-5 210m(全長280m)登攀
CanmoreからBanffに向かうハイウェイから間近に見える、Mt. Rundleにかかる大滝。30-40m級の氷瀑が計8P続く。巨大な岩壁の谷間に次々と現れる個性豊かな氷瀑を登り詰めていくのは、まさにアルパインアイスの醍醐味だ。ここは標高が低くて水量が多く、濡れていることが多い。長いだけでなく、駐車場からのアプローチが徒歩2時間かかるので、早朝からの長時間行動が必要。途中分岐を間違え30分ロス、取り付きでは現地のソロクライマーに先を譲る。彼らは懸垂用のロープだけを背負い、WI4クラスをほとんどノープロテクションで登る。とても真似できない。

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渓谷を詰め上がると、最後のピラーWI4-5が姿を現す。左手の氷が乾いており凹凸も豊富だが、完全な垂直。ここもIの粘り強いクライミングで突破した。登攀後に長い懸垂の途中で振り返ると、Bow Valleyの空には涙が出るほど美しい夕焼けが広がっていた。

500 THB発 – 駐車場 545 – 830 取り付き
930 P1 WI4 30m S原 いきなり垂直からスタート、濡れた悪氷
1030 P2 WI3-4 20m I
1130 P3 WI3 30m S原
1200 P4 WI3-4 30m I – 50m歩き –
1300 P5 WI3-4 35m S原 小滝の連続
1340 P6 WI3 35m I
1410 P7 WI3 10m S原 – 200m歩き –
1440 P8 WI4-5 45m I 乾いた垂直部が長い
1630 登攀終了、懸垂4P – 1800 取り付き
2040 駐車場

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1/1 木 休養日

1/2 金 Haffner Creek
最終日は再度ミックス・ゲレンデの天然岩でドライツーリング。Half a Gronk M6などを登る。S原は最後にShagadelic M7をRP。ささやかながら昨年から2年越しの成果で嬉しかった。
THB 800 – 910 Marble Canyon駐車場 – 940 Haffner Creek – 1700 駐車場 – 1810 THB

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1/3 土 早朝THBを出発、Calgaryから出国~1/4 日 帰国

●備考:
・昨年THBで同宿したK端さん、S宮さんとまた同じ宿になった。昨年Polar Circus WI5 700mを登った彼らは、今年はNemesis WI6 135mを登ったという。またGhost Riverの駐車場では、N海さんが友人とテント泊していた。翌日Hydrophobiaの隣のQryophobia M8 WI5+ 225mを登ったという。いずれもクライミング能力に優れた若い人達が挙げた、すばらしい成果だと思う。
・同じくTHBで同宿した邦人パーティは、我々の後にWeeping Wallを登ったが、状態の悪い濡れた氷に前進を阻まれ、懸垂下降中にロープが凍結して回収できなくなった。後日ロープ回収に再訪するとのことだが、登攀ラインとタイミングの違いにより、結果が大きく変わる事例だ。

●ヒヤリハット:
・登攀中は特になし。いずれのルートでも早出とスピード登攀を心掛け、暗くなる前に下降を完了できた。
・S原のクランポンが現地で破損した。2シーズン使用したBD Stingerの左足前部のステンレス製プレートが突然割れたもので、金属の疲労破壊と思われる。本格的なクライミングを始める前に気がついて、速やかに代替品を入手できたので問題はなかったが、遠隔地でクライミング中であれば危険もあり得た。
・最終日は降雪があり、Lake Louise地域にはCalgary方面からのスキー客が集まった。Haffnerからの帰路では事故渋滞。1台が路上で大破、1台が中央分離帯で横転する大事故だった。凍結した道路では、除雪してあっても雪煙で視界がなくなることもある。運転時の安全確保に改めて気を引き締めた。

●情報:
・現地ガイドのPetersは、シングルロープ9.2mm x 70mを2本使用していた。アックスによる切断事故を防ぐための標準装備だという。氷瀑途中でのビレイ用にはスクリュー2本+セルフ用1本使用。懸垂にはVスレッド(アバラコフ)1点に6-7mm径スリングを使用。Vスレッドは多用するようで、支点構築は極めて速い。
・The Professor Fallsを登攀した際、途中で水滴によりロープが凍結し、ビレイなどの操作に難儀した。濡れた氷瀑を登る現地のクライマーは、多くがドライコーティングに優れた新品のロープを持参し、凍結を防いでいた。厳しいルートの場合には、ロープ凍結の有無が登攀の成否を分けることもある。現地の専門店では70mロープが一般的に販売されているので、余裕があれば現地で調達するのも良いだろう。
・今回はルート用のダブルロープ8mm x 60mの他、ゲレンデ用にシングル9.4mm x 60mを持参した。またアイス専用ブーツ、ミックスルートに備えてカム一式、深雪用のスコップ(主に駐車場)と輪かんじきも持参し、荷物の総重量は50kgを超えた。カナダ航空では7月頃までに予約すると、50lb(約23kg)までの荷物を2個まで無料で預けられる特典があるので活用したい。

・現地での宿泊はホステル類が1泊2500円程度で安くて快適。CanmoreのACC(Alpine Club of Canada)にも安く宿泊できるが、いずれも最大のメリットは情報交換。この時季はアイスクライマーも多く、最新の氷瀑情報が入手できる。最低限の英語コミュニケーションはできた方がいい。
・遠方のIcefield Parkway地域でクライミングする場合は、現地のHI-Rampart Creekが便利。ここはHosteling Internationalが世界90ヶ国に4000ヶ所持つというホステルのひとつ。ハイウェイ沿いにあるが、電気も水道もなく、節電・節水の生活。トイレも屋外の小屋のみ。ガスだけは豊富で、部屋の暖房と調理に不自由はない。
・食料品はCanmoreなら市内の大型スーパーSafewayが便利。とにかく品数が豊富で、野菜などの物価は高めだが、肉類は安い。ホステルでは意外に若い男性が凝った料理に取り組んでいる姿が見られた。近くには外食の店も多く、24時間営業のコンビニもある。12/25のクリスマス当日は、コンビニ以外の店が閉まっていることが多いので注意が必要。
・CanmoreのTHBから徒歩約5分のスポーツ施設Elevation Placeは昨年のオープン。$15の利用料で通常のトレーニングジム3室の他に、本格クライミングウォール、プール2面が終日使える。ウォールは最高15m程度で、全体にホールドが遠く、ハング壁はバーティカルのアイスクライミングに必要な保持力をつけるのによい。自然岩を模した壁もあり、クラック登攀の練習もできる。軽食を出す売店や図書館、託児所もあり、広く市民に利用されている。悪天候の日に体調を整えるには最適だ。

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●参考文献:
・”Ice Lines”, Brent Peters, 2013, PeakSTRATEGEM
Candian Rockiesでのアイスクライミングの最新ガイド本。主な氷瀑53本を地域別に解説しており、それぞれの”周辺の氷瀑”を含めると計200本近くをカバーする。主なミックスルートも含まれているので、日本から登りに行くなら十分だろう。各氷瀑の基本情報は以下の本にも記載されているが、支点位置など最新情報はIce Linesが正確。何より現役ガイドの著者が自分で支点整備している。可能な範囲で初登時の裏話なども記載しており、読み物としても面白い。単行本だが広告を多数掲載しており、フルカラーながら$25の価格に抑えている。

・”Waterfall Ice climbing in the Canadian Rockies 3rd edition”, Joe Josephson, 1994, Rocky Mountain Books
通称”JoJo Book”、この地域の氷瀑を網羅するバイブル的存在。第3版はルート約500本掲載で、ネットで6500円で購入。本当は2002年刊の第4版(約800ルート)が欲しいところだが、ネットで3-4万円するので断念。いずれも絶版。地図やアプローチなどの情報はIce Linesより詳しい部分もあるが、やはり内容が少し古い。

・”Mixed Climbing in the Canadian Rockies 2nd edition”, Sean Isaac, 2004, Rocky Mountain Books
同じくミックスルートを網羅しているが、ミックスは新ルートの開拓が進んでおり、最新情報はネットで調べるしかない。
(S原)