Norway Romsdalen Ølmåa fossen 2022/7/13-16

遠征

[メンバー]

L KN(会員外)、ビッグワン(記)

◆はじめに

「海外の大滝登攀時代のはじまりだ」。大滝モンスターは、貪欲な目を輝かせてそう言い放った。

我々のチームが目をつけた土地は、北欧のバイキングで有名なノルウェー。フィヨルドの大地に刻まれた無数の大滝が、誰の手に付けられる事なく来訪者を待っていた。これを放っておく理由なんてない。

パーティとしては、GWの紀伊半島の大滝からトレーニングを始め、瑞牆、丹沢、谷川、大峰等各地でトレーニングを積んだ。かれこれ海外遠征は3回目になるのだが、年の近い仲間と海外で登るのは初めての事だ。

直前で大滝モンスターがケガにより離脱。非常に残念であったが、託された彼のギアと共に目的の滝を目指す。

Ølmåa fossenは、ノルウェー北西部ロムスダール渓谷に位置する。有名なトロール壁のすぐ南側だ。

落差は720mを有しており、一段の落差としてはヨーロッパで2番目。

先ずこの滝に着目した理由として、登攀可能である傾斜が確認出来た事。また、画像から灌木や草付きが多く見受けられ、岩以外での登路の選択肢があった事が大きな要因だ。何より、台地の上から一直線にラウマ川に注ぐ姿は、大滝登攀を志す者にとって荘厳で美しい。

偵察時の車道からみるØlmåa fossen

ノルウェーに入国してから、オスロの登山用品店や、ジムで資料探しや聞き取りを試みたものの、やはりと言うべきかØlmåa fossenの情報はおろか、トロール壁の記録も中々見つからない。

情報がない分、存分に自由を謳歌した登攀が出来そうで期待が高まる。

◆試登7/13晴れ

07:00 BC

07:40 取り付き

08:20 登攀開始

11:00 2P終了(fixして下降開始)

12:30 BC

先ずはアプローチ。アイスクライマーものだろうか、薄っすらと踏み跡があり30分程辿ると滝の最下部へと着く。緩傾斜の岩場よりロープを付ける。

見上げると、滝寄りに行くには一度右上して左トラバースするラインが考えられる。先ずは弱点から様子見。KNリード。

硬いスラブを斜上し、ブッシュでピッチを切る。ランナーは掘り起こしたクラックにスモームカムが辛うじて使用できる程度。

2P目ビッグワンリード。逆くの字の様に左へのトラバースを試みる。薄被りの2m弱の段差を乗り越えようとしたが、その先のスラブは、先ほど同様リスすら見当たらず、足元の黒トーテムが最後のプロテクション。おまけにぬめっていた。墜落の事も考え一旦ビレイ点へ戻り、ハング滝下まで直上。右脇の凹角を上がって、ブッシュバンドを右へトラバースした。あっという間に全身泥まみれ。むしろ本望か?露岩のブッシュを頼りに乗り越えると小さなテラスがあり、そこでピッチを切った。

ロープの長さ分は登ってきたので、ここで一旦終了とし、2P分FIX工作して下降した。

試登してみて、少なくとも下部は流芯に近いラインはほぼプロテクションが取れず、敗退の場合ボルトが必須になる。中段に核心と捉えている垂壁のルンゼも控えている事から、最弱点を狙って行くことで一致した。

帰り際、改めて見上げるØlmåaは全体の1/5も見えない程圧倒的なスケールを誇っている。一旦懐に入ってしまうとその全容を把握する事は難しい。

ベースにて天気を伺う

◆トライ

・7/15 小雨

07:30 BC

08:00 取り付き

09:25 FIX終了点

09:40 3P目登攀開始

20:10 ビバーク地

小雨が降る朝、朝食を平らげ黙々と準備をする。ベストな天気とは言えないものの、ここ数日の予報は全て雨。雨脚が弱いのと、気温が僅かに高いのがせめてもの救いだ。

2P目終了点のテラスから、いよいよ長い登攀の始まりだ。

ドローン画像と先日の試登から、岩は硬くてプロテクションが取れないか、若しくは脆すぎる傾向がある。その為右壁のブッシュバンドを伝って滝の最弱点を狙う。が、ブッシュ帯も交互に露岩があり、ルーファイ次第では詰んでしまう事も考えられた。

早速出だしから、プロテクションの取りづらいスラブ。スタート直後に#3とハーケン。KNは慎重且つ着実にロープを伸ばす。そこから先はバンドの弱点を、右に左へ縫うように草付きとモンキークライムを繰り返す。さながら日本土着の沢登りだ。

核心の中間部垂壁ルンゼの露岩帯の最下部へ抜け出た。空が抜けるとともに懸念のセクションが視線の先に立ちはだかる。

KNが出だし小ハングをアブミで超えてスラブ帯へ。滑りとリスの少なさと丁寧に格闘している。抜群の安定感でビレイ解除のコール。フォローも落ちると横に振られてしまうから心配だったが、何とか落ちずに通過。

ルンゼの下までたどり着く。ここが登れないと、右へ大きくトラバースする羽目になり大幅に時間がかかる。

ルンゼの最奥はどうなっているか?未知な場所へ飛び込むからか好奇心が溢れてくる。

ビッグワンリードで2本走っている内の右のルンゼに侵入。積み木状のガレガレのルンゼを詰めるが、途中落石を引き起こす程に脆い。奥のCSも危険を感じ引き返す。

核心ピッチのルンゼ登攀

ロープをチェックすると内皮までやられ10mカット。リード交代し、左のルンゼへ切り替える。ビレイはフォールラインを外している代わりに、リードの様子が伺えない。

ルンゼは右壁に活路を見出すが、此方も脆い事には変わりない。右壁を3m程登ってトラバース気味にルンゼ奥へ進み、振り子で左壁に移る。ここは中々に緊張を強いられ、リードはランナーに取った#0.1から伸びるスリングを握り、A0で左壁へ移った。そこから再びフリーで右壁に戻り回り込む形でリッジ上に出る。

フォローはザックやロープで落石を起こさない様、最新の注意を払った。

核心を乗り越えた。しかし、滝のまだ半分に過ぎない。何と長大なスケールなのだろうか!白夜が味方についているので進めるだけ進む。

ブッシュ帯は下部程岩が少なく、コンテで時間を稼いだ。上部の顕著なブッシュバンドに差し掛かり、比較的平らな場所を見つけビバーク。

当初の算段より遥かに順調だ。上段が目前に迫っている。

相変わらず雨は止むことを知らない。タープを張り、タイベックを敷いてシュフラに包まると思っていたより暖かい。ジェットボイルでお湯を沸かし、束の間の一時を楽しむ。

雲の切れ間から見える遙か下の道路を走る車が随分ゆっくり動いている。

 ・7/16 小雨後曇り

10:30 ビバーク地

15:20 トップアウト

20:00 trollstegen

ゆっくり起きて時計に目をやると8:00を回っていた。寒さを理由にのんびり支度を済ませる。流石5℃以下の気温、クライミングシューズは冷蔵庫に入れたかの様に冷たい。

昨日見当をつけていたバンドを通り過ぎ、ガレ場を登ると上段の水線に飛び出した。

水際は相変わらず人を寄せ付けない程の爆流。一本右の流れの薄い小滝やから上のバンドへルートが繋がってそうで、ワクワクしながらKNが取り付く。ある意味期待を裏切らなかったÓlmåa。水線なのに岩がアンサウンド過ぎる。落石と同じ早さで取り付きへ走って戻ってきた。

当初の予定の垂直草付きから上の緩傾斜へ抜ける。前日より多少極小カムやハーケンが打てる場所が増えた印象。

150m左上気味のコンテをこなし17ピッチ目に入る。再度水線に迫る。すると滝と並行に走るナイフリッジが上のバンドまで伸びており、今までで最も滝の側を登れそうだ。

「僕にリードさせて下さい。」とKNにお願いし、ガチャを受け取る。自分から申し出たのは初めてだった。

草は滑るので忠実にリッジを辿る。今までになくプロテクションは良好。Ølmåaは最上段に差し掛かっても尚、圧倒的な水量を誇り大自然の強大な力を誇示し続けている。

全身に飛沫を享受して終了点に達する。沸き立つ興奮を抑えてビレイ点を構築する。クライミングの難易度とは別に、このベールに包まれたこの滝に最も接近して登れた事が何よりも喜ばしい事だ。

リッジの終わりから草付きを右上し滝見から離れる。段々と傾斜が落ち着いていき、2ピッチ露岩帯と草付きコンテをこなすと静かな草原地帯へと出た。今まで身を置いていた垂直の藪から解放され、広大な大地が延々と広がっている。そこは天界と言っても差し支えない程穏やかで、疲れた我々に安堵を与えてくれる。

ロープを解き、残りの食料と暖かいお茶で束の間の休息を取った。

予想以上の残雪に驚く

ここからなだらかな台地を北に2km程歩くとトレッキング道と合流する。

所々雪が残っていて、溶けた水が集約されてØlmåaから落ちている。冷たい理由も納得だ。

道中、雪の上を歩いたり渡渉もあったりもしたが徐々に道が良くなっていく。ノルウェーのトレッキング道は想像よりか踏み跡に近く、ペンキの印が出てきたのは半分以上歩いてからであった。

トレッキング道に合流してから、台地を横断するように西へ5kmほど歩くと湖に辿り着く。

そこから間もなくしてtrollstegenへ続く道路へと到達した。終バスの時間まで残り30分。丁度良く間に合った。

自身の登山史上最も未知の要素が強く、最後まで登り切れるか不明瞭な中、持てるもの全て注いで登った。こんな創造的山行が、令和に於いても可能だと言う事を示せたと思う。何より、大滝登攀が世界でも通用する事を見い出した大滝モンスターの感性に感服する思いが絶えない。

学生の頃より漠然と思い描いていた「探検的登山」の1つの到達点に辿り着けた様に思う。

スコット南極探検隊のチェリー=ガラードが、「探検とは、知的情熱の肉体的表現である。」と述べているが、少しばかりそれを体現できたのかもしれない。

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