【メンバー】Lみみみ(記)、NG野
8/11
高山事務所で情報収集、Aguilles Rouges Brevent Area Crakoukass
まずは高山事務所のスタッフに本命ルートの情報を聞きに行く。モワヌ東壁は最新情報がないが、シュルントが複雑な状況になっていると思われダブルアックスの方がいいかもしれないらしい。また、ディアブルは雪がなくなって脆い岩や砂が出ており、あまりおすすめできないとのこと。
その後、半日以上時間があるのでブレヴァンのロープウェイを使いCrakoukassというやさしいスポートマルチへ。
8pだが、1〜5p目、6〜7p目、8p目は別々の岩峰であり簡単に途中下山ができるお手軽ルート。アプローチはロープウェイ駅から歩いて20分程度。5p目が5.10bくらい、8p目が5.10aくらいで他は5.8〜9くらいとかなりやさしく、しかも比較的難しい2ピッチは省略可能という初心者の練習に最適なルートだった。しかし急に難易度が上がる5p目で二人とも落ちるという間抜けな結果となった。
8/12
モワヌアプローチ モンタンヴェール登山鉄道〜クーベルクル小屋
登山鉄道の終点駅から氷河末端付近にある観光名所「氷の洞窟」まで、去年は建設中だったロープウェイができていた。しかしロープウェイ駅がまだ工事中で本当に開業しているか不安だったのと、鉄道の始発着からロープウェイ始発までそこそこ時間があったので歩いて下る。ロープウェイ終点駅付近まで下りてきたところでロープウェイが動き出し、賢いクライマーやガイドパーティたちがぞろぞろ降りていった。
少し出遅れたが、先行パーティがいたおかげで氷河のややこしいルーファイはせずに済み、さくさく進むことができた。きつい日差しの中、氷河やガレ場や長いハシゴを越え、5時間ほどでクーベルクル小屋に到着。小屋前にはなんと子ども用のビニールプールが展開されていた。
チェックインを済ませてから東壁Contamine-Labrunieのアプローチの偵察へ。意外と登りがきつく、取付付近まで1時間ほどかかった。トポの写真と照らし合わせてルートを特定する。ルートのコンディションは良好に見える。雪渓も割れていないし明日は楽しいクライミングになるぞ…と思いながら取付まで雪渓を上がり、愕然とした。取付まで2mもないところで、底の見えない垂直のベルクシュルントがぱっくりと口を開いているではないか。横からシュルント内に下りるか?いやいや、深さは10m以上あり中は真っ暗、下りるルートも不安定なブロックしかない。シュルントのないところから岩を登るか?ノープロテクションでろくなホールドもない壁を?…結局、あちこち動き回って調べてみても、安全に取り付く方法は見つからなかった。
仕方ないので、南壁から取り付くSouth Ridgeというルートに変更することに。
一旦小屋まで下り、さらに1時間弱歩いて南壁の取付へ。こちらは一箇所だけ雪渓が岩に接しており取り付けることがわかった。
小屋のアプローチに加え、偵察2本でへとへとに疲れたことに不安を覚えつつ、夕食のグラタンなどをもりもり食べて眠りに着いた。
8/13
モワヌ南稜 Aiguille du Moine south face South Ridge
朝5時に起床。ベッドでよく寝たので疲労は回復している。小屋の朝食を食べて6時前に出発。取付付近で明るくなってくる。
南壁は同じ場所に下りてくるため、アイゼン、ピッケル、登山靴を取付のテラスに残置してクライミングシューズで登攀開始。
2p簡単なクライミングをこなし、コンテでやさしいトラバース。2p登ってまたコンテ。さらに4pでようやくリッジ上に出る。ここまではやさしいのでトポの記述もざっくりしており、弱点を見つけながらルーファイしていくのが楽しい。ムーブらしいムーブはほぼないが、剥がれそうな水晶のホールドを登るところは少し緊張した。
リッジに出てからは、青空の下爽快なクライミングとなった。クラックやピナクルが豊富で支点が取りやすく、岩は硬く快適で、適度に難しいところも出てきて楽しい。A0のピッチもあったがいつの間にかフリーで突破していた。
10pほどで山頂に到着。初めての休憩を取ってから、核心の下降へ。
南壁一般ルートをクライムダウンや懸垂を交えつつ慎重に下りていく。クライミングシューズなので歩きパートでは爪先を激痛が襲う。
半分ほど下ったところで、トポの記述と明らかに違うところに出てしまう。残置支点があるからと安易に懸垂したのが失敗だった。登り返しも考えつつ周囲を観察したところ、NG野さんがかなり下方にケルンを発見。懸垂と少しの歩きで辿り着けそうなので、そのまま下降する。
そうこうしているうちにイタリア側から流れてきた雲がどんどん濃くなり、雷鳴が響き始める。ジョラスやタキュルの方には雨のカーテンらしきものも見える。南壁の途中で雷や豪雨に襲われたら生命に関わるので、大急ぎで下っていく。
雨に降られながらも最後は懸垂でアイゼン等を回収し、靴を履き替えてそのまま雪渓まで懸垂。小屋に戻るころにはちょうど夕食少し前で、約12時間行動の1日だった。
巨大ピザとカレーライスの夕食を山ほど食べて就寝。
8/14
モワヌ下山 クーベルクル小屋〜モンタンヴェール登山鉄道
朝から雷と激しい雨。しばらく待っていると落ち着いてきたので、小雨のなか下山開始。歩いているうちにだんだんと空も晴れていった。
氷河上で少し迷ったが、特段危ないこともなく無事ロープウェイ駅まで到着。せっかくなので氷の洞窟を観光してからロープウェイに乗り下山した。
8/15
シャペル南稜
Aguilles Rouges Index area Chapelle de la Gliere South(-southeast) Arete
レストがてら短めのぬるいフリーマルチでも登りましょう、とNG野さんに話したところ、出てきた案が13pのこのルート。レストとは…と思いつつ、アプローチも近いしグレードも低いのでまあいいかと取り付いたが、さすがに舐めすぎだった。
人気ルートの割に岩は脆く(今回登ったルートの中では一番悪い岩だった)、またルーファイがなかなか難しくかなり時間のかかるルートだった。
ルートミスもあって登攀に6時間ほどかかり、最後は雨の中急いで下山となった。
8/16
ミディ南壁 Aiguille du Midi south face Voie Kohlmann
天気が微妙なので、日帰りの短いアルパインに行くことに。
5時からロープウェイ駅で並び、始発便でミディ山頂へ。アイゼンピッケルを装備して氷河を下り取付へ。レビュファルート取付のすぐ右にある灰色の巨大フレークの右側から登るのが本ルート。幸いシュルントは小さく、跨げる程度だった。
1p NG野
取付からいきなり細いクラックと細かいホールドで厳しい。さらに最後はオフィズスとなかなかしびれるピッチ。
2p みみみ
傾斜の緩い顕著なコーナークラックを登る。ルーファイ不要でかんたん。
3p NG野
引き続きコーナークラックを登り、少し左上のコーナーに移ってさらに少し登る。
4p みみみ
ハングを左トラバースし、ハンガーボルトの打たれたフェースを左上してからクラックを左上ぎみに登る。フェース部分はかなり難しいのでA0。A0してもなかなかしんどいムーブだった。最後は左右どちらのテラスに出てもいいが、左は混んでいたので右のテラスへ。
5p NG野
短いクラックを登り、簡単なスラブを経て、トサカ状に突き出した顕著なカンテの基部の小テラスへ。先行パーティが詰まっていたためしばし休憩。
6p みみみ
ハイライトピッチ。
カンテを右に回り込み、日陰の顕著なコーナークラックを登る。ところどころ閉じているクラックにフィンガーやハンドを決め、左右の壁も使いながら登っていく。早朝の僅かな時間しか陽の当たらないコーナーは極寒で、クラックに突っ込む度に指の感覚が失われていく。小テラスまで登り切り、支点構築後すぐに上着を着用。
7p NG野
そのままコーナークラックを登り、大きな石の積み重なったところを少し登る。ようやく日向に出て一安心。
8p NG野
みみみの番だが、最後のピッチは去年登ったし、気持ちがいいからと譲った。壁の左側に出てから右上に上がり、頂上直下のテラスへ。思いの外複雑でロープが屈曲しまくるので一旦切る。(左に出ずに直登してたらいけたかも)
9p NG野
気を取り直して本当の最終ピッチ。難しいフェース面に打たれたハンガーボルトをエイドで突破し、カンテに乗って頂上までスラブを登る。陽が当たっても去年より寒かったので、この日は気温が低い日だったようだ。
下降
すぐ下の展望台まで斜め懸垂。特段トラブルもなく半日で登攀終了となった。
エレベーターで山頂展望台まで景色を見に行ってからロープウェイで下山。
8/17、18
レスト
雨のため下界で各自観光。
8/19
Aiguille de Blaitiere Red Pillar Area Les Diamants du President
登攀最終日なので、ミディのロープウェイの中間駅からアプローチする短めのルートへ。
アプローチは無数の踏み跡がありわかりにくいが、割と適当に行っても岩壁基部まで辿り着けた。やさしい雪渓を少し登り、ちょっと悪い岩場を登山靴のまま登って踏み跡に乗る。取付まで歩きのはずだが、ロープを出しているパーティもいたのでクライミングシューズに履き替え、余計な荷物はデポしていく。結果的には登山靴のままでも普通に行ける踏み跡だった。広いバンドから取り付く。
1p みみみ
踏み跡のあるバンドが一番高くなっているところから少し右、緩いスラブから左上へ登り始める。最初は簡単だが、傾斜の強くなるところから急に厳しくなる。2日間冷たい雨を浴びた岩はびちょびちょで滑りやすく、冷たさに指の感覚も奪われる。西面のエリアで昼くらいまでは陽が当たらないので、我慢して登るしかない。足が滑るのが怖すぎてたまらず2回ほどA0した。フェースからクラックを右上してから、テラスを右トラバースしクラックの基部で終了。
2p NG野
目の前の短いクラックを登り、すぐ右上のテラスへ。途中足が滑り2フォール。2回とも同じくぼみに足を置いてレイバックで登ろうとしたが、連発で滑った。レイバックを辞めて突破。
3p みみみ
ハイライトピッチ。このあたりから岩が概ね乾いて快適になってくる。
顕著な長いコーナークラックを登る。最初はクラックが閉じており、右壁も使ってややこしいムーブで少し上がる。クラックにハンドが決まってからは快適で、楽しく登れる。赤茶色の小ハング手前でハンギングビレイ。
4p NG野
やさしいオフィズスをしばらく登ってからチムニーへ。ムーブ自体はさほど難しくないが、疲れるしプロテクションが取りにくくて怖い(本当は5番を使うピッチだが、今回の遠征では持参していなかった)。コーナーを塞ぐ大きなチョックストーンで終了。フォローはザックを片方のロープにつけて、荷揚げしながら登った。
5p みみみ
チョックストーンをくぐり、そのままコーナーを直上して小岩峰の頂上まで。快適。
下降
小岩峰のフェースを懸垂4pで取付まで。
途中ロープが引きにくいところもあったがどうにかなった。
荷物の回収後、クライミングシューズのまま雪渓まで下り、靴を履き替えて下山。
○メモ
・トレーニング
各自、富士山や北岳、北穂高岳等で5,6月から何度か高所順応を行った。今回は結局高山病になりやすいルートには行かなかったが、かなり順応を進めていてもミディ南壁では2人とも息苦しさを感じた。ディアブルトラバースやジョラストラバースなど高所区間が長いルートを狙っているときは順応をしておいた方がよい。
クライミングのトレーニングとしては、瑞牆山や小川山のマルチで何度か継続トレをやっておくのがよい。花崗岩トラッドに慣れておくことが非常に重要。シャモニー周辺を楽しめる最低レベルとして、小川山のセレクション・屋根岩3峰南稜RCC神奈川・南稜レモンを1日で普通に登り切れるくらいの能力は欲しい。
・デビットカード
ATMによっては円残高から引き出されてしまい、手数料で割高になるものもあるので要注意。
・シャモニーまでの移動
空港はスイスのジュネーブが最寄りで、そこからバスでシャモニーに行く。バスは予約必須らしい。
バス乗場は、空港を出て道路を横断した先にある高架道路の下にある。飛行機の到着から2時間後くらいのバスを予約しておくとちょうどいいと思われる。
・現地での情報収集
シャモニーのHIGH MOUNTAIN OFFICEというところでルート情報を聞ける。
最近は氷河の後退でルート状況の変化が激しく、トポや地形図も当てにならないことがあるので最新情報の収集は重要。
なおLa Chamoniardeのサイトでもルートの最新情報が公開されているので、出発2か月間くらいからチェックしておくとよい。
https://www.chamoniarde.com/en/mountain-topics/mountain-conditions#eqdNoW9bTLTAncu5A
・フランス山岳会
入会すると山小屋の大幅割引(モンブランのグーテ小屋を除き基本半額)を受けられるほか、安く保険に入れる。なおフランス山岳会が運営している小屋以外では割引にならないので、泊まる小屋や泊数をよく考えて入会すべきか検討すべき。
・緊急通報アプリ Echo SOS
位置情報に応じた通報先に緊急通報できるアプリ。位置情報や予め登録した個人情報(アレルギーや既往症等)の送信もできるよう(たぶん)なので、非常用に入れておいた方がよい。
・地形図・トポアプリ
スイスのswisstopoという地形図アプリは一括キャッシュができて見やすい。
フランスのCartes IGNというアプリはもっと見やすいが、キャッシュのやり方がわからなかった。
Whymprというフランスの登攀寄りのヤマレコのようなアプリも無料お試し期間で利用した。ヤマレコのように他人のログを見れたりするのでアプローチに便利。またJMEditionsなどのトポを小エリア単位で購入してスマホで見られるのも非常に便利。画面遷移にはやや難があるが、無料お試し期間を過ぎても有料で使う価値がある。
・天気予報
Mountain Weather Forecast、Windyに加えて、シャモニーの現地予報も参考にした。
https://en.chamonix.com/weather
・紙のトポ、地図
ROCKFAXのトポ『Chamonix』、IGNの地図『Chamonix-Mont-Blanc』(3630OT)を事前にネットで購入して計画に使った。また、昨年現地でJMEditionsのトポ『Mont-Blanc GRANITE』(5巻まである)3,4巻を買った。
ROCKFAXはアルパインルートから町の近くのフリーの岩場まで網羅的に載っており、とりあえず買っておいて損はないが、ルートの説明はかなりざっくりしている。『Mont-Blanc GRANITE』はエリア別で巻が分かれているが、より多数のルートが載っており、詳細で見やすい図もある。狙いを定めたエリアのものは買っておくとよい。
古い本もいくつか買ったが、情報が古すぎてあまり参考にならなかった。
・ネットの地形図等
フランス地形図サイト
https://www.geoportail.gouv.fr/carte
3Dビューワ
https://peakvisor.com/peak/aiguille-verte.html?yaw=-128.12&pitch=-22.72&hfov=123.16
・ロープウェイ、登山鉄道等
ネットでチケットを買い、スマホのeチケット(メールで送られてくるPDFのQRコードをそのまま改札で読ませる)で乗るのが便利。eチケットがあれば券売機は使わない。
モンタンベール登山鉄道は往路の便を予約する(予約なしも可だが少し高くなる)。鉄道の先のゴンドラや復路は予約なし。
ブレヴァンやインデックスのロープウェイは予約なし。休日朝はそこそこ混むので、運転開始時刻より30分くらい前に着いておくのがベスト。
ミディのロープウェイは基本的には要予約だが、直前に予約を取るのは難しい。予約なしでも早朝5時くらいから並んでおけばだいたい朝一便に乗れるので、クライマーは一か八かで早期予約するより早起きして並ぶのが得策。下りはミディ山頂駅の橋あたりで配っている整理券が必要。
ミディのロープウェイに複数回乗る場合はモンブランマルチパスがお得。ミディロープウェイ駅前の機械(24時間稼働)でカードを受け取って使う。ただしミディから先は別料金になるので注意。
・クーベルクル小屋
水道の水は濾過されており飲める。手洗いの水道で行動用の水を汲んだ。
USBケーブルを持ってくればスマホ等の充電可。小屋前のベンチあたりは携帯の電波も入った(Orange Holidayやauの海外ローミングはそこそこ安定、Threeはやや不安定だが入った)。
入口の土間に装備を置いておく籠やフックがあり、小屋内で使わないものは原則ここに置いておく。小屋内や周辺ではサンダルを借りて使える。
ベッドに布団はあるが、汚さないようインナーシーツ等を使うべき。
宿泊料・朝食・夕食は別料金。
翌日のルートにより部屋や朝食の時刻を指定される。
予約はネットからできるが、直前の予約は電話かメールのみ。
支払いは現地で、出るときにまとめて精算する。クレジットカードも使えるが、通信障害に備えて現金も一応持っておくべきとのこと。今回は普通にクレジットカードでいけた。
・天気
昨年は毎日登れたが、今回は雨でなにも登れない日が2日あった。
・服装
シャモニーの町は半袖と薄手の長ズボンで概ね快適。昼は短パンでもよい。朝晩は薄手のジャケットがあるとよい。
ブレヴァンやインデックスは半袖と薄手クライミングパンツで快適に登れるが、日陰になるルートでは薄手のジャケットがあるとよい。
メールドグラス氷河~クーベルクル小屋の歩き(晴天弱風)は半袖と薄手の長ズボンでもかなり暑かった。日本の夏よりはマシという程度。多めの水と塩分が必要。
アルパインルートは、暖かい日なら薄手長袖ジップシャツ、薄手クライミングパンツ、薄手のウインドシェルでちょうどよい。寒い日は薄手化繊インシュレーションも着込んだ。
登山靴はライトアルパインブーツが基本。雪上行動用に薄手の防水手袋もあるとよい。
Tシャツや下着の着替えは多めに持っておくとよい。
・ギア
パーティで日本から持っていったギアはこんな感じ。
カム0~4番サイズ×2セット(※5,6番も1個くらいは持っていくべきだった)
トライカムEVO×1セット
ボールナッツ1~3
ナッツ×1セット
アルヌン×10本
ヌンチャク×16本
スリング各種
ハーケン×3本ずつくらい
スクリュー×2
登山靴、アイゼン、アックス1(一応2本あった方がいいかも)、ハンマー、クライミングシューズ
50mダブルロープ×2
60mシングルロープ×1(今回は使わなかったが、ガイアンやフリーマルチで使う可能性があるのであった方がいい)