Zermatt マッターホルン ヘルンリ稜 単独 2023/9/8-9

アルパイン(雪山)

2023/9/8-9 

【メンバー】クロスケ(記)

【行程】

2023/9/8 10:00 Glacier Paradise ~ 11:00 ブライトホルン~13:00Glacier Paradise(ロープウェイでTrockener Stegへ移動)14:00Trockener Steg ~ Matterhorn Glacier Trail経て ~ 17:00 ヘルンリ小屋泊

20239/9 5:00 ヘルンリ小屋~7:00 ソルベイ小屋~9:00 マッターホルン山頂~13:30 ヘルンリ小屋

両日とも快晴無風。両日どころか、ここ10日くらい晴天続き。

続々と山岳会のメンバーが向かう海外の山々。私もそろそろどこか海外で登ってみたい!と計画したスイス遠征。

アイガーを一緒に登ったパートナーと別れ、グリンデルワルドから1人電車に揺られて3時間。旅の締めに訪れたのは、誰もが知ってる山の街ツェルマット。駅近のキャンプ場でテントを張り、身軽になって早速クロ散歩スタート。

かき分けるほどの人混みに、

「この中で実際に山に登る人はどれくらいいるのかな」なんて思いながら歩くと、立ち止まって写真を撮る人々が目に入った。

そう、この街で最も有名な頂。

’’マッターホルン’’が見えたんだ。

異質で偉大で宙に浮いたとんがり。

なんだあれ。本当に実在するの?

ってくらいバグった空間感覚。

それを確かめる方法は1つしかない。

自分の足であの頂まで行くんだ。

ということで、計画してなかったけど

代表に「見たら登りたくなっちゃいました」なんて言い訳して、単独でマッターホルンに挑んできました。

※決定打は実物を見たこと。とはいえ、事前に登山の情報については軽く調べてました。

ツェルマットの滞在は3日間だけ。

悩んでる暇はないので到着日の翌日に小屋泊、その翌日にアタック、最終日は予備日として設定。

慣れない土地、人、山なので、無理せず山行プランはガイド山行に習っておく。

9月8日、朝イチのキャビンに乗ってグレッシャーパラダイスへ。

小屋にまっすぐ向かうなら夕方、シュワルツゼーから歩くのがセオリーだけど、せっかく来たからしっかり観光もしたいのだ。欲張りに欲張って、

高所順応としてブライトホルン(4164m)に登ってきて、下見としてマッターホルングレッシャートレイルを散歩。このコース、個人的には結構おすすめ。

そこからヘルンリ小屋まで尾根を詰めて、初日の行動時間8時間弱。気づけば標高1000mアップしてた。

あれ、明日1200m標高アップするんだよな?ちょっと遊びすぎたかもと気持ち反省。

夕暮れと夕飯まで時間が余ったので、翌日暗い時間に歩くであろうポイントを30分ほどトレース。

こっちの山はガイド山行が基本だからか、基本的にピンクテープや赤い○マークのようなものがほとんどない。あるのは危険箇所に設置されたワイヤーや金属の類か、お気持ち程度のケルンだけ。

下見でも行ったり戻ったりを繰り返して、できるだけ前の人から離れないで歩いた方が良さそう。という感触。

夕飯の時間も近づいてきたので小屋へ帰還。小屋の受付は同年代くらいの女性スタッフで、

「ハイキング、クライミング?」「クライミング」と聞いて、頷き

「ガイドはいる?」「いない」と聞いて、頷き、

「山岳会には入ってる?」「日本で入ってる」と聞いて、頷くだけだった。

日本なら、女子の単独バリエーションで小屋泊したらなんか言われそうなもんだけど。

部屋や食事、諸々の案内をしてくれて、頑張ってね!の一言。

こういう思いやりが嬉しい。

食堂に集まる宿泊客は60人弱。日本人は私だけ。この辺りはドイツ語圏だから何を話しているかは基本わからなかったのが残念。

山小屋という言葉からは全く想像つかないほどキレイで清潔なヘルンリヒュッテ。楽しみにしていた夕食は、なんとハンバーガー!美味しすぎてペロリだった。デザートまで出るとか最高すぎる!!

同室はどちらもソロの男性2人。21時には就寝。20時に日が暮れるのにようやく慣れてきたなぁ。

【9月9日】

翌朝は4時半に朝食。

テーブルの上に並んだパン、チーズ、ハムを腹いっぱいに詰め込んで、どうせ並んでるだろうからと余裕を持って出発。

あれ?よく考えれば、バリエーションルートの単独って初めてだったかも…

頼れる人は誰もいない。言葉もあまり通じない。いざという時はほぼアウト。緊張感をもって、取り付き始めた。

マッターホルンに登るための最もイージーでメジャーなルートがヘルンリ稜。

全体的に2級の岩場が続いて、一部3級程度の場所がある。普段クライミングをしてる人間からすれば、登山道に毛が生えた程度。ではある。

技術的な難しさ自体はほとんどない。けど、落ちたら絶対にダメ。が終始続く。

そんなルート。

トポ上のルールは2つ。

リッジの上にはほぼ出ない。

壁の南側を常に歩く。

を意識して、ひとまずは前の人に黙々と付いていく。

前後に人が詰まってるので、前の人に手を踏まれそうになるし、後ろの人の手を踏みそうになるような距離感。実際後ろのパーティーは仲間同士で手を踏んでて、ちょっと喧嘩していた。岩は安定していて、時々岩が立っているけどロープが欲しいと思う場面はないくらいの難易度。こういう場所、個人的にはショートロープはない方が歩きやすいと思う。

ちょっとでも休むものなら追い抜かされてしまうので、喉の渇きを感じながらも休まず登っていく。前が遅いなぁと横から抜かすとすごい疲れくらい、どのパーティーもそこそこ速い人ばかりだ。見上げる先頭パーティーはもうだいぶ上の方まで行っている。

文字通り2級って感じの岩場を2時間ほど登ると、だいぶ明るくなってきて、ルート上で最も難しいソルベイ小屋の下部に到着。トラバース気味に小屋の下部に移動してから、3級くらいの壁を直登していく。ここはみんなロープを出すみたいで、見るからに混雑している。1番弱点ぽいルンゼ地形を攻めたけど、左側にもボルトが打たれたラインがあった。フリーソロって考えればルンゼを攻めるのは無難な判断かな。

朝日が綺麗なのでソルベイ小屋で小休憩。

小屋の中は意外と生活感を感じるし、誰かが残置したガスもある。そしてトイレはただの穴。ここに泊まりたくはないなぁ。というのが正直な感想。

気を取り直してヘルンリ稜上部へ。このあたりからフィックスロープが散見してくる。

傾斜もあるけど、道に迷わないからありがたい。リッジに乗る場所も増えてきて、肩らしき場所から先は雪がついてくる。

まだいいだろ、とアイゼン装着を見送っていたら、ままならない雰囲気になってきて狭いテラスで装着。周りに習って早めにつければよかった。

ワイルドに手で思いっきり体を引き上げる場所が増えてきて、ここは帰りは懸垂かなぁなんて思ってると、小石と雪を降らせながらもう下山してくるパーティーとすれ違う。

ガイドさんはえー。

てかお客さんもはえー。

こっちの人歩くの基本はえー。

しかしまぁ、ちょっと緩くなってきた雪壁ですれ違うのがいやらしいぜ…

時たまハイタッチをしながら20人ばかりとすれ違い、見覚えのあるマリア像に敬礼。こんなとこまでよう運んだよな。

スイス側の山頂からイタリア側の山頂までちょいとナイフリッジを歩いて、少し待ってから十字架と一緒に記念撮影。ガイドのお兄さんが手慣れた様子で撮ってくれました。

いやぁ。。。。きちゃったよ。登れましたよ。マッターホルン。

今自分はあの異質なとんがりの上にいるのかー。ホホー。

なんか実感湧かないなあ。でも空腹と疲労感から達成感を沸々と感じる。

とんがりの上に座り込み、柿ピーを食べる。これがジャパニーズライススナックなんだぜ。

しかしまあ、4478mにいるというのに寒くないこと。

人生最高高度(4478m)なのにウィンドシェル1枚着るだけで適温とは。晴天無風おそるべし…そりゃ氷河も溶けてなくなるわけだよ。

さてさて。

世界中どこに行っても、山登りというのは、登ったところで半分。

登り切ると終わったー!と思いがちだけど、今回の山行はどちらかというと、ここからが本番。

来た道を戻るだけ。っちゃー戻るだけ。なんだけど、岩壁ってのは降りるより登る方が断然簡単だし、そもそも疲れてるし、何より問題なのは来た道を戻るのがそもそも難しいということ。

登りで緩かった雪壁はさらに緩んできてて、滑ったら最後なのでピッケルを初出場。ガイドはその辺に生えてる金属の棒にロープをかけて、簡易的なロワーダウンでお客の安全を確保してました。

行きにここは懸垂かな。と思ってたフィックスロープパートは、結局ロープをガシガシ握りながらそのままクライムダウン。懸垂は時間かかるから、ここではスピードを取ることに。ソルベイ小屋までは迷う箇所もないのでまっすぐ到達できて、ちょっと心に余裕が出てくる。

ルート核の心パートの小屋下部だけ2回ほど懸垂。順番待ちを心配してたけど1パーティーだけなので、大して時間はかからずに突破。他の山行のために持ってきてた無駄に長い60mロープは、過剰過ぎる装備で重いだけだった。30mあれば十分すぎる。

ちょっと先の方に見えるガイドさん目指してトラバースしていくも、ラインがよくわからない。だんだんと距離が開いていく…ルートを外れると明らかに脆い感じはするのだけど、じゃあどれが正解か。がよくわからない。

どこでも降りられないことはないけど、変なとこに行くと帰れなくなっちゃうので、後続に道譲ったり、登り返したり、と壁の中で迷子になりながら、登る時と変わらないくらいのスピードで降りていく。

見通しのいい場所はいいけど、壁の裏に入っちゃう箇所では、こっちかー?とトラバースしてたら上から懸垂してくる人が迫ってきたりと、ハラハラする場面も。

どうぞどうぞと譲って、迷って、抜かして、迷って、抜かされてまた出会って、と後続のパーティーは不思議な顔をしてくる。

なんで君たちは迷わないで歩けるの?こっちが不思議な顔をしたいくらいだ。

結果大きなミスはなかったけど、最初に提示したルールを守りすぎて、見覚えのないソーラーパネルに合流してしまった。ヘルンリ小屋の位置から察するに、もう1つ向こうの尾根に行くべきか?とあたりを伺うと、同じことを考えたであろう先人たちの残置ロープがあることあること。

だよねー。と思いながら尾根を乗越せば、何度挨拶をしたかわからない後続パーティーが正規ルートから降りてくる。

小屋は1時間くらい前からずっとすぐそこに見えてるのに、全然近づかない。迷って時間かかってるのもあるけど、圧倒的に規模がでかいから距離感覚が狂ってくる。

あとちょっと。

もうすぐそこ。

ほんとに近づいてる?

を繰り返しながら、先行と後続に挟まれて、近くに誰かがいる安心感を得ながら下山。

小屋が常に見える部分は踏み跡も濃く、迷うような箇所は特にない。全体で言えば中間の50%くらいがルーファイ核心だろうか。

取り付きの壁の下には観光でここまで来た人で賑わっている。その人だかりに、ようやく戻ってきたんだなあ。

ミッションコンプリート!の文字が宙に見える気がする。

やったぜ!

よりも

I did it !!

が先に脳裏に浮かんできて、身体だけじゃなくて脳の中もだいぶ馴染んできたみたい。

小屋への階段は観光客に囲まれていて、真ん中を歩く私は凱旋気分。

クロスケが戻ったぞ〜

なんてちょっとドヤ顔で歩いてみる。

ヘルンリ小屋のテラスは空席がないほどの大繁盛。その脇で残置していた荷物を回収し、暑さに倒れそうになりながらツェルマットまで下山。最終のキャビンに間に合うかを心配していたけど、だいぶ余裕を持って降りてこられてよかった。歩いて帰れなくもないけど、絶対いやだ。

行く前に散々、道迷いでビバークしたとか、ガイドレスで山頂踏めたのは3回目とか、なんか色々聞いてたから身構えてたけど、初見単独で登れるとは。あらゆる幸運に恵まれたようです。

ツェルマットは相変わらず暑かった(30℃超え)けど、

登頂記念ということでイタリアンジェラートと、スーパーのチーズとケーキでお祝い。そろそろ1人が、寂しくなって、こなくも、ない。

世界中で多くの人が登っていて、まぁ一応一般ルートだし、山行としての価値はない。当たり前にできることを当たり前のようにやっただけ。だから記録を書くようなものでもないだろう。

と思っていたマッターホルンヘルンリ稜。

でも帰国して、おかえり〜と迎えてくれる仲間に

キャッチーだし、と思って口にした

「マッターホルン1人で登ってきた〜」

の反応がすごくよくて、

あとから、じわじわと

なんかちょっとはすごいことやったのかもしれない。

なんて気持ちが湧いてきたので記録を書くことにしました。

今回は天候に恵まれてラッキーだったから登れたのは間違いなく、

下調べや準備が不十分なまま単独で突っ込む。という行為自体は誉められたものではないですよね。まぁどの口が言ってるんだよ。とは思いますが。。

【これからマッターホルンに行く方へ】

・ガイドレスでもマッターホルンは登れます。

・小屋は1泊150フランでした。カードOK。ご飯美味しいけど高い…

・グレッシャーパラダイスへのキャビン往復券は日付を跨いでも使えます。

・小屋では水は有料だけど、宿泊客はハーブティー(冷たいのも温かいのも)もらえます

【使用した装備】

60mダブルロープ、平爪アイゼン、ピッケル

靴はトランゴGTXを使用

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