剱岳北方稜線前半(単独) 宇奈月温泉~毛勝三山~馬場島 2023/4/30-5/3

積雪期登山

〇期間:2023/4/30~5/3
〇メンバー:ヤマ(単独)
〇ルート概略(国土地理院地図を加工して作成)

〇報告
 GWは山スキーでオートルートを狙っていたが、寡雪で早々に断念。せっかくの連休は長期で山に入りたいので、山スキーの誘惑を断ち切り、気になっていた剱岳北方稜線を歩いてみた。

<1日目>
10:15宇奈月温泉→16:15僧ヶ岳手前のコルC1
天気:雨のち曇り

 雨が上がるのを待ってから出発。宇奈月温泉は法学徒の聖地だ(久しぶりに民法判例百選を読み返した)。最近発売されたらしい「権利の濫用」お守りを買ってから入山してもよかったか。
 旧・宇奈月温泉スキー場では山菜採りが盛況。ウドやワラビを素通りして黙々と歩く。1043m先の林道から登山道に入る急斜面でアイゼンを付け、残雪歩きで僧ヶ岳直下まで登った。藪で風除けできる場所で幕営。強風であまり眠れなかった。

<2日目>
5:00C1→5:10僧ヶ岳→6:50駒ヶ岳→12:40滝倉山→13:10Co1920付近C2
天気:晴れのち雨/雪

 午後から天気が崩れる予報のため早めに出発。後立山連峰からの日の出と明らむ日本海で気分がいい。僧ヶ岳から駒ヶ岳までは大部分で夏道が出ていて苦労せず。駒ヶ岳で先行の2人Pと遭遇。滝倉山まで進んで片貝山荘に下山するとのこと。藪漕ぎが始まる駒ヶ岳は最初の進退判断のポイントになるが、意外と残雪があって進むことに決めた。

 先行Pを抜かして単独藪漕ぎが始まった。いきなり猛烈な下り藪ラッセルに歓迎され、残雪に抜けるまで30分を要した。結局、登山道がない区間の半分くらいは藪漕ぎで、藪漕ぎ→ダブルアックスor笹藪モンキーで残雪に乗り上げる→雪が切れて藪漕ぎ再開というのがお決まりのパターン。黒部側のサンナビキ谷を眺めながら進むロケーションが最高で、意外と藪漕ぎも苦ではなかった。サンナビキ谷はいつか沢登りで遡行したい憧れのルートだが、上部は山スキーも楽しめそうだった(「山スキールートガイド105」に右俣右沢1100mまで滑走した記録あり)。

 警戒していた滝倉山直下の雪壁は斜度60度くらいあるが、ノーロープで問題なくこなして本日のノルマクリア。滝倉山から100mほど落として1920m付近の藪で風除けできる場所で幕営。14時には雨/雪が降り出したので、早めに行動を打ち切ってよかった。雨対策で採用した夏用テントのおかげで濡れずに済んだが、通気性抜群で夜は少し寒かった。

<3日目>
6:45C2→9:30ウドノ頭手前のコル→10:45ウドノ頭→12:50平杭乗越→16:45毛勝山C3
天気:晴れ

 起床すると積雪5cmほど。ワカンは完全にいらなかった。濃いガスが晴れるのを待ってから出発。
 ウドノ頭手前のコルまでの下りが激藪でいきなり時間を食った。薄い踏み跡を外して藪の登り返しで消耗すること数度。2箇所の懸垂下降ポイントは新しめの残置スリング多数。50mロープでぴったりの長さの下降だった。コルまで下降すると引き返せない可能性があり少し緊張したが、1箇所目は全装で登り返し可能、2箇所目も頑張れば登り返せそうに見えた。

 そして、核心のウドノ頭の悪相が目の前に現れた。とても直登できる傾斜には見えず、特に黒部側は強傾斜のスラブが露出している。コルから富山側の谷を150mほど下降して傾斜のマシな支尾根から巻き登ることも選択肢に入れつつ、引き返せるポイントまでは直登をトライしてみることにした。細いスノーリッジを拾って垂壁の直下まで進む。この傾斜なら登れる(というかクライムダウンは恐怖)。ダガーポジションで5mほど慎重に登り、中段のクラックから富山側の藪尾根に抜けて一息つけた。ウドノ頭からの下降がまた急傾斜の激藪で、途中藪に引っかかってアイゼンが外れるハプニングがあった。

 結局ウドノ頭の通過に3時間以上かかり、平杭乗越で大休止した頃には午後。ここから毛勝山まで650mの登り「天国への階段」だ。ウドノ頭に気を取られて全く警戒していなかったが、上部が強傾斜でビビる。西谷ノ頭の適地で泊まるのもいいが、朝一でカチカチ雪壁登りは絶対に嫌だ。しんどいがここは今日中に毛勝山まで抜けることにする。後半300mはダガーポジションのノーピン雪壁登りを強いられてしびれた。「天国への階段」の意味はワンミスで天国行きのことだったのか…。雪壁を抜けるとたおやかな別天地。まさにウイニングロードだった。
 この日は山頂直下の藪脇で幕営。明日の下山が確実となって気楽になった。


<4日目>
6:45C3→7:30釜谷山→8:30猫又山→14:00馬場島
天気:晴れ

 あとは歩いて下山するだけ(と思いきや何箇所かワンポイント悪い雪壁)。正面の剱岳に向かってまさに「北方稜線」を歩けて感慨深い。赤谷山から続く北方稜線の後半もまた行こう。猫又山から眺める剱岳は格別で、剱尾根Pの完登を祈った。
 下山路にとった東芦見尾根は大猫平まで雪山、そこから先は春山だった。あまり歩かれていないのか、薄い踏み跡をロストすると藪で、最後の最後まで藪を堪能させていただいた。
 タクシーで馬場島から脱出し、富山で海鮮丼を食べて山行を締めくくった。


〇感想
 剱岳まで繋げてこそ本来の「剱岳北方稜線」で、美しいルートなのだろうと思います。実際、あと2日半好天で行動できていた今回の天気だったなら、もう一人メンバーがいたなら、剱岳まで届いたなあ…と仮定の話をしたくなってしまうのが正直な気持ちです。
 しかし、ロープを使う雪山ソロは初めて、今の実力で安全に楽しめる分相応な山行だったかと思います。覚悟していた藪漕ぎはソロでも体力的に問題なくこなせて、しびれる雪壁も出てくる締まった内容となって満足です。黒部の原初の自然は素晴らしかった。長期の雪山ソロの経験を積めたのも収穫です(だけどパーティー山行の方が好きだと再確認)。心残りがあるとすれば、山スキー向きの最高のザラメ斜面を何本も素通りしたこと…。
 これまで写真でしか見たことのなかった剱岳の北西面を一番近い山から眺められたことは、今後の山人生の貴重な財産になりました。「試練と憧れ」の来たるべきビッグルートが夢物語で終わらないよう、精進したいと思います。

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