黒部 丸山東壁 左岩稜 2010/7/17-19

アルパイン(夏)

◆2010.7.17(土)~19(月)

◆黒部 丸山東壁 左岩稜

◆L.S藤H明、S口M恵、N島昇

かつて緑ルートから眺めた左岩稜は、カラフルなメットがぞろぞろと歩いていて、ありゃーそーとー簡単だなーって舐めていました。
ヒロケンさんのトポによれば、緑ルートよりもワングレード難易度が低く「初心者向け」との記述すらありますし・・・。

しかしながら、私的には、充実し過ぎの厳しい登攀になりました。トポの甘めのピッチグレードは、確かに実際はそうかもしれませんが、ピンなし、ハーケンぐにゃぐにゃ、折れそう、抜けそう、岩はボロボロ、苔苔、妙な木登り、泥ズリズリ、草付剥げ落ちなど精神的にはシンドイ、全16ピッチでした。
とはいえ、3日間マルトー貸し切りで、黒部の大自然を存分に堪能することができました。

 

◆以下詳細・スーパー長文です。

前夜、信濃大町駅前の「七倉荘」に泊まる。以前、この宿を起点に、鹿島の北壁や北鎌や硫黄尾根へと向かったことを懐かしく思い出す。
ご主人はぶなの会のS藤勇さんの小谷小学校の同級生です。そのため、ぶなの会の会員には、とても親切にしてくれる。

七倉荘利用の目的は、明日からの黒部の巨人=マルトーとの戦闘に備え、前夜泊の消耗を抑えるためだ。
しかし、駅前の「鳥新」で飲み過ぎて、翌朝は、かえって気持ち悪いことになってしまった。
ところで、この 「鳥新」の焼き鳥の質と量の評価は極めて高く、しかも、価格は130円/本と安い。加えて、感動的なのは、瑞々しくて甘い地物のキャベツだ。マヨネーズが添えられたが、お通しのキュウリに付いてきた美味しい信州味噌をおねだりして、それを付けて食べたら、さらに美味しかった。

 

翌早朝、信濃大町で、唯一24時間営業の「すきや」で「うなぎゅう」を食い溜めして、扇沢へと向かう。かつて日向ゲートからラッセルで一日かかった道を10分で駆け抜ける。
トロバスを降りて、くろよんの観光放水の飛沫を浴びながら、ぶ厚い雪渓を越え越え進む。日照りが厳しく、蒸し暑い。
エメラルドグリーンの下の廊下が美しい。内蔵之助谷に入って、ガラガラの一ルンゼからアプローチする。

00ピッチ 誰かが、ヒロケントポでは、リッジ左からアプローチしてる、なーんて言うもんだから、しばし、猛烈な藪遊泳になってしまって、振り出しに戻る。ここで、1時間はロスした。
それにしても、目前の濡れたスラブは、難しそうで登れない。更に、右往左往しつつも、正面壁方面に少し進んで、水の流れる岩をノーザイルで登ったら小広いテラスに出た。そこからスタートする。

01ピッチ H明、メンドクサイ藪・・・登りは問題ないが、下りは懸垂になるくらいの傾斜。

02ピッチ H明敗退、続く、N島くんも敗退。こんなノーピンの垂壁は登れませーん。ルートがきっと違うんだろーって一旦降りて、もう一回、壁を見上げるも、地形的にここ以上は、ありえない、ということで、またまた振り出しに戻る。
この失策で2時間はロスしたので、合計3時間のロス・・もう昼だ・・止める?錫杖でも行く?中島くんはウトウトと寝てしまうし・・。

01ピッチ H明、気を取り直して、もう一回アホみたいに同じところを登る。

02ピッチ H明が死んだ気で取り付く。どう見てもルートじゃねーだろーって思いつつ、これまでの人生で習得した全てのチョンボ・テクノロジーを駆使、膝突いてズリ上がると立派な支点があった。

03ピッチ N島くんが行くが、雨が降り出す。人工のところは問題ないが、爪先ちょんちょんの冷や汗もののトラバリがある。滑ったら死ぬかもしれない。光恵さんは、うっひゃーうっひゃーと大騒ぎ。

04ピッチ H明の当番だが、ピンがずーーーっと高いところにある。こりゃー敗退かと諦めかけたが、お猿のように木を登って、枝が細くなって、ゆ~らゆ~らするくらいのところまで登ると、背中のリングボルトに届く。へんなのー。

05ピッチ M恵さんが「私やる(毅然)」ちゅーからやらしたら、途中で「ローワーダウ~ン」とか叫んで、帰って来てしまうもんだから、N島くんに替わる。支点が剥げそうな小枝の束×2となかなかでした。

06ピッチ H明、あんまり覚えていないが、泥々の草の中をずりずり登って、小さなテラスに出たような気がする。

07ピッチ N島くんだったような気がするが、殆ど歩いていた。決して広くはない「広場」まで。

08ピッチ H明がスラブ下部を人工を交えて登る。あんまり難しくないが、途中ピンが見えなくなったので、恐くなって、安定した支点で一旦切る。

09ピッチ N島くんに行って貰う。恐いフリーで一歩上がると、ピンは左の草生えクラックの中に潜んでいた。テラスに抜けるところが少し悪い。
すでに、全員、喉カラカラ、頭フラフラ、お腹ヘリヘリだけど、明日の行程を考えて、暗くなるのを覚悟で、洞穴「ホテル第二丸山」まで突撃することで合意する。

10ピッチ H明が担当。このへんで暗くなる。壁が見えないから恐怖心はない。しかし、濡れてる、苔は生えてる、岩は剥がれる、ホールドは外れるで、萎え萎え気分になる。途中ヘッドランプを点ける。
どんどん行くもハングで頭を抑えられる。一瞬焦るが、左コーナーの穴を抜けると、待望の洞穴「ホテル第二丸山」に辿り着く。 少しほっとして、星空のビバーグとする。
今夜は、水も食料も酒もおつまみも十分にある・・洞穴の中には水が滴っている。その水滴を溜めて、美味しい水割りを作る。あぁ~なんという幸せ。

11ピッチ ルートが三通りあって、上手な人達のどの記録を見ても直登で敗退している。よって、下手な私らは、当然、回り込むチョンボルートにする、が、どのラインもノーピンで、苔苔のぶっ立った岩を登らなくてはならない。全然できませーん。ということで決死の覚悟で直登ラインに戻る。この躊躇で1時間のロス。

11ピッチ H明、男気を見せた風に突撃する。出だしの被りはクリア、続いてカムを入れて人工で立ち上って、太い灌木に西部劇みたいに投げ縄・・もう終了点は近いのだが・・次の一歩が恐ろしくて出ない、ここで墜落・骨折でもしたら、搬出も大変だし、夏休みに北海道の沢に行けない・・ふと思うに、N島くんという強力戦闘要員がいるのに、なんでわしみたいな老体が戦わなにゃーいかんのー、ということで・・ロワーダウン。情けない。

11ピッチ N島くんにバトンタッチ。太い灌木の上に立ち込むと、立派な木の根があるとのことで、これを使って這い上がろうとするが、微妙に難しそう。右側のフレア気味のクラックにカムを入れて、これでなんとか立ち上がる。洞穴の上は広いテラスで、立派な支点があった。

12ピッチ N島くん、人工からスタートするが、2ピン目が腐っていて、ボロボロのため、軟鉄を打ち足す。フリーになるところが、かなり難しい。つかんだ残置シュリンゲのハーケンはグラグラ、その次のハーケンはゆ~らゆら。

13ピッチ H明、覚えていないくらいよに簡単だったと思う。バンドを右に行ってビレイ。

14ピッチ N島くん、木登りから人工のピッチ。灌木でとった支点にアブミを掛けたら、ぶっ飛んでしまったとのこと。幸いほぼ同じ高さに別な支点をとっていたので、派手には落ちなかったらしい。

15ピッチ H明、単調な歩き。助かった!!この順番なら、最後の木登りやんなくてもいい~嬉しい~、というより、日照りと水不足でヘロヘロ状態のため戦闘マインド状態でした。

16ピッチ N島くん、チムニーのフリーから右の壁を人工で登ると・・突然ピンがなくなる、と、ここからは、ゆ~るゆるの枝に乗り移ってのぶ~らぶらの人工となる。更に太い木の幹にローハイドみたいに投げ縄。こりゃーそーとー気持ち悪いだろーなーって、フォローの気安さで楽しく眺める。

ここで終了。今回は、難しいピッチの殆どが、N島くんに回ってしまった。さんきゅーベリーマッチ。恒例の固い握手をして、さっさと懸垂にかかる。このルートは、懸垂ザイルが抜けない事件が多発しているので、木や枝の潜り方、降りるライン、カンテの振り分け、ピッチの切り方、騙し騙しの引き方などなど、神経ピリピリになる。

「ホテル第二丸山」帰着は17時。ルートを完全に把握していれば、最終ピッチで、暗くなる程度の時間だが、ザイルがスパゲッティーになったりしただけで、三人で宙吊りグルグルビバークになる可能性が高い。また、暗い中で作業をするとミスを犯す恐れもある。そして、決定打は、水がないこと。「ホテル第二丸山」なら、滴る水が使える。ということで、二泊目も★★★★★の「ホテル第二丸山」とする。

夜は、針ノ木岳の猫耳岩峰と時折飛来するUFOを眺めながら、残った行動食とおつまみとウイスキーでチビチビやる。不思議と全員さしたる空腹感はない。しかし、H明は、夜中、喉が乾いて死にそうになる。ずいぶんと溜まった水滴をグビグビと独り占めしてしまう。ごめんなさい。

 

翌朝、ダムの観光放水のサイレンとともに懸垂開始。これといったトラブルもなく、稜上を忠実に辿って着地。あーしんどかったー。
先ずは水だ!水~くれー!

ところで、懸垂中に発見したのでしたが・・N島くんの確保用のシュリンゲが擦れて切れそうでした。この次は絶対に切れるといった感じ。何故そうなったのかは不明だが、あのシュリンゲで、N島くんが何回かハンギングビレイをしている姿を見たような記憶がある。背筋が寒くなった。

炎天下、汗だくで、くろよんダムに登り返して、トロバスで扇沢へ、薬師ノ湯でお風呂、大町のタカラ食堂で大町高校が負けまくっている高校野球を見ながら、ソースカツ丼ともり蕎麦セットを食べる。マリア・カラスを聴きながら、連休最終日のイライラ渋滞の中を江戸へと向かう。

 

 

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