屏風の東壁を東稜、雲稜、ディレッティシマ、東壁ルンゼ下部~蒼稜と過去に登り、残された課題でした。
1日で下半部~上半部を繋げて一気に登るなら、自分の力量は勿論だけど相手も選ばねばならない長大さと、かつてT3から見上げたとき想起された困難性から何年もの間懸案になっていたのでした。

感想:N村Y之
今回もちろんワンデイで登りきる目標だったし、それも充分可能だとタカを括っていたのだけれども、結果は日没までの最高到達地点が残り2ピッチというもので、ナイトクライミングしてでも登りきる元 気とこだわりまでは無く、また天候にも恵まれ翌日の晴天も確定的だったので、打ちひしがれ疲れきった我々はテラスのある地点での岩壁ビバークと相成ったのでした。

夜の帳が降りると満天の星、草枕にうすい銀マット敷いて寝転ぶ空中のスターライト・ホテル。残念お泊まり。
思えらく、上半部では支点状況と状態の悪さに辟易し、屏風の頭に抜ける予定で装備の重さが体の自由を奪い、個人としては直前での練習不足と体力減がスピードに影響したかもしれません。
余裕のなさが重なり時間を浪費してしまいました。仮に上半部のみの攻略に絞れば、ザックをT4にデポして空身で登り同ルート懸垂も考えられたけれど、足るを知らず理想を追ってしまいました。調子そのものも良くなかった。
新品のシューズが不調で靴づれ。だいたい本チャンに熟れてないの這いていくなんてバカですよね。
への字ハング下では、右が左か迷った挙げ句に右へ上がったらノーピンまっさらなフェースに出てしまい呆然となり、ボルト打って戻りました。
それなりには必死で一所懸命登ったのだけれども、以前のような冴えた阿修羅が湧き出るようなモチベーションじゃなかったのは、トシをとったせいだと思えます。

N藤さんは3ミリスリングが切れて墜落したけど、本チャンでトップで落ちたのは初めてらしく、さすがに動揺していた。
けれど、それを押しつぶし踏み越え強がり良い経験をしたと思います。
自分も以前、墜落してみて気付いたこと考えたこと関心の幅とかが広がった。
落ちてみないと分からないことって実にすごく多い。安全?そんなものあるわけないじゃないですか。
だからこそ、自分が生きていたい生物だって気付かされる。死なないための創意工夫を知らずに重ねていく。
そんな場所になんか行かなきゃあいいのにねと。大袈裟ながら東壁ルンゼもそんな所でした。
パンと大きな音を立てて切れたスリング。頭を逆さにして空を飛んだフラッシュバックで目が覚めた。

感想:N藤S木
真夜中のテラス。頭上にへの字ハング。風が吹いていた。息が白かった。星たちと月が内緒話をしていた。
ベートーベンの「月光」とH・マンシーニの「ムーン・リバー」が交互に頭の中で鳴っていた。
ヘップバーンの顔の星座が出来た。
忘れたはずの悲しいこととか届かなかった願い事とかがボロボロ出てきて戸惑った。
だけどもうそんなことどうでもいいんだ。死ななくてよかったと思った。生きててよかったと思った。
世界は俺のものみたいだった。やっとクライマーになれた気がした。
そんな夜だった。

コースタイムと所感(N藤記)
8/13 沢渡駐車場→上高地→横尾→岩小屋跡→1ルンゼ押し出し
8/14 1ルンゼ押し出し→東壁ルンゼ取付き6:00→登攀スタート6:20 →T3 10:10→上部壁スタート10:30→への字ハング下17:30位
8/15 への字ハング下6:00位→終了点9:00位→パノラマ新道経由で徳沢→上高地→沢渡駐車場

1P(N藤) 3級のスラブだがピンが無い。

2P(N村) Ⅳの凹角&スラブ。

3P(N藤) 三日月レッジまで右上A1ラダー。ピンは遠くは無い。
去年A山さんが打ち足したボルトが 光っていた。 最後のビレイ点のトラバースは残置ボロスリングで振り子。

4P(N村) A1

5P(N藤)
(5P上からT3まではコンテで行こうか迷ったが、ロープを解いてヤブを漕ぐ。) 緩傾斜帯まで。

6P(N村) 悪いチムニー

7P(N藤) 上部でボルトに巻かれていた3ミリスリングに加重したとき、スリングが切れ7~8m墜落。
足の震え止まらず。少し休んでから登りかえし、ハング手前でピッチを切る。

8P(N村) ハング越え。リップのピン遠い。

9P(N村) 凹角A1。フリーの混じり方が嫌らしい。

10P(N藤) 少し登るとビレイ点がある。ここが正式なピッチ終了点らしいので、切る。

11P(N村) トポ上の9P。凹角A1。ひたすら悪い。フリーは10台後半はありそう。N村さんは右上しすぎて、 ボルトを打ってロワーダウン。このあたり、壁を見回すと、敗退支点らしきビナ付きスリングがいくつかある。

12P(N藤) 左の一見絶対にルートではなさそうなランペを登り、腐った潅木を潜り、への字ハング下まで。ここでビバーク。

13P(N村) への字越え。リップ部のN村さんのミシンの踏みっぷりは尋常では無かった・・・。

14P(N藤)
テラスから直上。5mほどでヤブに遮られる。1度左に行き敗退。戻って右に行き敗退。 もう一度左へ。岩と同化したハーケン発見。
ルンゼを登ってからバンドを右へトラバース。 木にスリングが掛かっている。多分ここがルート終了点。

・ピン自体はある程度効いているが、巻かれているボロスリングがヤバい。リベットハンガー必携。
・上部壁のルーファイが難しい。への字ハング前後は「本当にここ行くの?」というところにルートが付いている。
・下部はボルトラダーだが、上部は一筋縄では行かない。フリーが混じりかなり恐ろしかった。