●昔山ヤの先輩と山岳会入会希望の後輩の会話

後輩:「先輩は山に詳しいんですよね。僕も学生時代ワンゲルに所属していて、去年はガイド登山で北岳バットレスの4尾根と谷川の烏帽子奥壁の南稜に登ったんですよ。」

先輩:「北バに烏帽子南稜か~。懐かしいなあ。それで、相談って何?」

後輩:「個人でやるには限界があるし、ガイドはお金がかかるし、思い切って山岳会に入ろうかと思っているんです。」

先輩:「そうか。どんな会に入りたいんだ?」

後輩:「ジャンルが特化してない総合山岳会みたいなところで、厳しくない会がいいかなと・・・。」

先輩:「厳しくないのは結構だけど、大事なのは本人のやる気だよ。ガイド登山で連れて行ってもらうことに慣れてしまって、山岳会に入っていつまでもお客さん気分でいても意味無いじゃん。ただそこに行くこと・その山に登ることだけじゃなくて、このレベルまで達したいとか、技術を向上させたいとか、そういったベクトルを持つことが大事だと思うよ。」

後輩:「ベクトルですか~。そこまで熱く考えてるわけじゃないんですけどね。まあ、適当に楽しくて、グラビアルートに行って、怖そうなところはパートナーの人にリードしてもらって・・・」

先輩:「おいおい、そりゃ違うよ。だいたいアルパインクライミングっていうのはつるべが基本だぜ。『やばいピッチは僕にやらして下さい』くらいの気合いを持ってけよ。」

後輩:「『気合い』ですか?僕、気合いとか努力とか根性とか嫌いなんですよねえ。古いですよ。」

先輩:「まあ・・・・・、好きにしろよ。で、目星の会はあるのか?」

後輩:「ネットとかで調べてるんですけど、ぶなの会なんて良さそうだから、ここに入ろうかな。」

先輩:「ぶなの会か~。あそこは駄目だよ。ダメダメ。何か統一感が無いし、一見まともそうでエキセントリックな人がいるし、一時期なんか知らないけどモメてたし事故多いし。」

後輩:「え、そうなんですか?」

先輩:「ウソウソ。あ、ウソじゃないんだけど、最近はかなりいい状態らしいよ。100人も集まればいろんな人がいるよ。事故にしたって毎週数パーティー山に入ってればちょっとした怪我くらいはしょうがねえって気がしないでもないけどな。だけどあそこは、リーダー部長が良くない!」

後輩:「りーだーぶちょう?何かエラそうな役職ですね。偉いんですか?」

先輩:「いや断じて全然偉くない!だいたいそいつは、沢をやりたくてぶなに入ったらしいんだけど、クライミングばっかやって沢にも冬山にも一切行ってないらしいぜ。ビーコンの使い方も知らねえって話だ。あいつはどうしようもねえよ。以前、会報の巻頭言に偉そうに『乾いた岩が大好きなんだよ俺は』っていうエッセイみたいなのを書いててさ、沢山目標を挙げてるんだけど、未だにトゥエルブが登れていないというていたらく。最近一丁前に二子に通ってるらしいけど、ホテル二子の核心で5時間ハングドッグして抜けられずビレイヤーが凍ってしまって仮死状態になって病院でやっとこさ息を吹き返した、とか、ノースマウンテンでは12時間かけてトップアウト出来ずビレイヤーが発狂して裸になって吼えまくっていたとか、すげえ話がいっぱいあるんだよ。」

後輩:「そのビレイヤーの方、素敵ですね。」

先輩:「で、リーダー部長は自分にクライミングのセンスがまるで無いってことをやっと悟ったらしく、今年は沢をやるっていうもっぱらの噂だよ。沢のセンスも無いっつーの。やれやれだ。」

後輩:「そのリーダー部長はどうでもいいです。だけど僕、やっぱりこの会、入会しようかな。」

先輩:「悪い会じゃないと思うよ。人数が多い分、新人の様々なベクトルに答えてくれるかもしれないし、お前色に染め上げるつもりで、気合いで頑張れよ。検討を祈るよ。」