甲斐駒ヶ岳 赤石沢奥壁 ダイヤモンドフランケA 赤蜘蛛ルート 2007/8/25-26

アルパイン(夏)

S藤H明、N藤(記)

次元 :「ほぉら 無理するんじゃねぇよ 傷口が開いちまうぞ!」
ルパン:「食いモンだ・・・食いもん持って来い・・・」
次元 :「食い物ってオカユか?」
ルパン:「・・・血がたりねぇ 何でもいいジャン・ジャン持って来い・・・」
次元 :「そんなこと言ったってよぉ・・・」

ルパンの目の前に食い物が運ばれた。
ルパン、フライドチキンにかぶりつき 骨を投げ捨てながらチーズを頬張る。
その次は巨大なハムへと続く。

次元 :「バカヤロー そんなに慌てて食うなよ! 胃が受けつけねえぞ!」

食べ続けるルパン。今度はワインをガブ飲みする。

ルパン:「うるへえ! 十二時間もありゃあジェット機だって直らぁ!!」
(宮崎駿監督 「ルパン三世 カリオストロの城」より)

 

どうしても赤蜘蛛を攀じりたい。諦め切れない夏の名残りの風に吹かれてうつむき加減に街を歩いた。
剣から帰って地元の整形外科に通院した。抜糸は8月の23日か24日には可能とのこと。

N藤:「抜糸したら運動していいすか?」
医師:「軽くだったらいいよ。」
N藤:「軽くって・・・・どれ位?」
医師:「まあ・・・軽くだよ」
N藤:「ケンスイなんてどうすか?」
医師:「うーん、無理するとまた開いちゃうよ。まあ・・・軽くだよ」
N藤:「ダメ?ケンスイってゆーか、ちょっとぶら下がる程度なんですよ。
ジャングルジムみたいなやつ」
医師:「・・・・・・・・・・・・」
N藤:「軽くちょこっとケンスイみたいなこと、だったら文句ないでしょう」
医師:「・・・・・・何すんの?」

クライミングと答えると秒殺されそうなので、別の言葉に置き換えて何とか許可を取った。取ったぞ。
気持ちの問題だが。あとは、食うしかない。とにかく、とりあえず、食べるんだ。
ルパンはこれでクラリスを救い出し、心を盗んでいったのだ。
俺は食うことに関してはかなり自信がある。気合いで「傷口くっつき指数」を高めるのだ!

日本三大急登の一つ、黒戸尾根をひたすら登る。長い。ダルい。疲れる。
七丈小屋までゆっくりじっくり休憩を入れて6時間30分。まあまあのペースか。
七丈小屋は綺麗で夕飯も豪華でびっくりした。ご主人1人で切り盛りしているらしい。すげえオヤジだ。
夕方になって団体20名程が来て、ギュウギュウになったが、それでも快適そのものだった。

翌朝、2時30分起床。カップラーメンを食べ、出発する。甲府の夜景を背に急登を8合目まで登る。
左にそれる踏跡に入るとすぐに岩小屋があり、そこから踏み跡を八丈沢目指して急下降する。
結構、悪いところもあるが、フィックスを頼りに何とか通過する。
近道があるらしく、踏み跡・赤テープがいくつか交錯しており分かりにくい。
無事取り付きに到着。Aフランケを見上げる。

・・・・・すっ凄い・・・・・

何ちゅうスケールだ!この上にBフランケがあり、さらに奥壁があるのだ。これは本当にすごい。
ああ・・・何か・・・・
・・・帰りたくなってきた。これは、持病の「へタレ症」の前兆症状だ。マジで帰りたい。
H明さんに「取り付きまで来たけど敗退したい光線」を浴びせるが効かなかった。しょうがねえ、やるか。

1P N藤 A1
カンペキに呑まれてしまってぎこちない。動きがロボットのようだ。
おまけに白稜会ルートと間違えていて仕切り直しの登り直し。しょっぱなから絵に描いたようにボロボロである。
途中のクラックにジャミングしたら、割れ目の中から「ギ、ギ・ギ・ギ・・」とこれまで聞いたこともない何者かの鳴き声?
がする。左上に目一杯手を伸ばしてジャミングしているので、クラックの中は見えない。

こんな垂直の割れ目の中にいったい何がいるというのだろう。割れ目に生息する生物・・・
Ⅰ藤さんだろうか?いや、違うな。中国に行っている筈だ。Y澤さんだろうか?
・・・・・・・・いやいや、最近忙しいようでこんな所に隠れているわけがない。ワレメコンビでないとすると・・・
まさか、地球外生命体か?かなりビビリ裏返った声で、「ド、ドナタデス?」と言ってしまったのをH明さんは知らないであろう。

突然、指先に鋭い痛み。何者かは俺の指を咬んだらしい。恐怖は頂点に達した。
体勢を変え、恐る恐る割れ目の中を覗くと、それはコウモリだった。
かなり怒っているようで歯をむき出しにして威嚇している。
間近で見るのは初めてだが・・お前、不細工な顔してるなあ・・あ、いや、すみません。私もですね。失礼しました。

2P H明 Ⅴ
下部のハイライト、スパっと切れたコーナークラックである。
ずーっと同じ形でずーっと上まで伸びている。恐ろしすぎる。俺がリードじゃなくて本当によかった。
どうもクラックは苦手だ。ジャムの経験値が低すぎる。おまけにフットジャムの痛みに耐え切れない。
しかも、リードとなると、カム・ナッツが効いているかどうかが気になってしょうがない。
あれ?そこでピッチ切っちゃうの?ちょっと!困ります!話が違う!
残り半分のコーナークラック、俺がリードしなくちゃならないじゃないですか。勘弁して下さいよ~マジですか?

3P N藤 Ⅴ(→A1)
フケたい。さぼりたい。帰りたい。何で俺はこんなところでこんなことをやっているのだろうか?
あぁ、手が勝手に・・手が勝手に、エイダーに伸びていく。H明さん、違うんですよ。
これは、アメリカンエイドの練習の一環としてであって本当はこの位目をつぶってもフリーで行けるんですけどね。
(結局、全手、エイダーを使用。)
あぁ・・・俺って奴は・・・・

4P H明 Ⅳ・A1
コーナークラックを離れ、スラブの中央に走っているクラックまでトラバースし、直上。微妙。

5P N藤 Ⅳ・A1
V字ハング越え。ピンは近いが、高度感がハンパではない。
ミシンを踏みながらハングを越え、Ⅲ級の岩場を右上して大テラスまで。

6P H明 Ⅴ
今回、唯一、エイダーを使用しないで行けたピッチである。Ⅴ級のフリー。快適そのものである。

7P H明 A1
後半のハイライトPart1。「見上げると首が痛くなるくらい圧倒的かつ壮絶な垂壁」(byH明氏)。
とにかく美しい壁である。
エイドセクションであるが残置のみでは行けない。キャメロットを適宜使用。
しかも残置はサビサビボルトに腐れスリング。抜けなくなったへキセントリックや棒フレンズなど。
H明さんは途中、何度か動きが止まる。リードは相当怖いであろう。

8P N藤 Ⅳ・A1
後半のハイライトPart2。夢にまで見た「恐竜カンテ越え」である。このピッチをリードできて本当によかった。
俺はこれがやりたかったんだ。俺はここにザイルを伸ばしたかったんだ。
物凄い高度感のなか恍惚となる。「楽しい」とか「怖い」を超えた新しい感情が生まれた。
遠いボルトを繋いでザイルを伸ばしていく。途切れ途切れの青空。吹き上がる風。
これが、2007年の俺の夏だった。あきらめなくてよかった。

9P H明 Ⅳ-・A1
スラブを数ポイント人工で樹林帯まで。
実質の登攀はこれで終了。

10P N藤 Ⅱ~Ⅲ
急斜面の樹林帯をAフランケ頭の岩小屋直下まで。OK完登したぜ。H明さんサンキュー。
来てよかったです。ありがとうございました。(硬い握手)俺たち何か、カッコいいですよね。
・・・というものの、辺りは既に暗かった。(爆)またやってしまいました。すみません。

七丈の小屋まで戻ると、小屋のオヤジいや、ご主人が出てきて、「探しに行かなきゃと思ってた。」
とキツイ一言。素敵な小屋番だ。月光を浴びながら、黒戸尾根を駆け下りる。街明かりを目指して。

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