谷川岳 アルパイン各種ルート 2009/06/13

アルパイン(夏)

谷川岳 アルパイン

スキーのシーズンも終わり、今年はちょっと無雪期の登攀もやらないと。と言うわけでぶなメールに公募し梅雨入り前の谷川を企画してみた。
珍しいメンバーを含めて10人が集まったが、結果的にH間さんは金曜日の夜に出発することができず、土曜日だけとなった山行を共にすることができなかった。残念。 以下は各パーティのルート報告です。
 

参加メンバー・ルート一覧

一ノ倉沢2ルンゼ  L,K岡T志、、N島F博(記)、N村M子

烏帽子沢奥壁沢 凹状岩壁   L,S津A子、A津Ⅰ織(記)

烏帽子沢奥壁沢 南稜フランケ   L,N藤S木、A山Y秀(記)

烏帽子沢奥壁沢 南稜   L,T巳Y郎(記)、Y田S

 

一ノ倉沢2ルンゼ

L,K岡T志、N島F博、N村M子

N島は今回の山行計画として全体のとりまとめがある、という言い訳にしてパーティリーダーはK岡さんに依頼。2ルンゼもK岡さんのリクエストということで。当初はH間さんと登る予定だったN村さんがパーティに合流。事前確認によると2ルンゼは濡れていることが多く、悪いらしい。7年程前の秋にM浦夫妻と行った3ルンゼが思い出される。「M浦さんよくこんな濡れたルートをリードするよな~」と思ってついて行った。その時、下山はずいぶん暗くなっていたっけ?

6/11(土)
03:40 起床
04:50 一ノ倉出合
06:40 2ルンゼ取り付き
12:30 石門
13:00 ザッテル
15:00 C・Dルンゼ間コル
16:20 Cルンゼ上部
17:00 国境稜線
20:00 谷川ロープウェイ駅

全員平日の疲れが溜まっており、更に短時間睡眠のため眠そうだが、天気予報では午後から下り坂なので、早めに谷川ロープウェイ駅を出発(4:10)。一ノ倉出合の駐車場で準備して、無線交信の時間を決めて歩き出す(4:50)。2ルンゼ取り付きまで行ってみて、濡れていたら南稜に転進かな?と思いながら雪渓をたどる。既に10人程が我々の先を歩いている。

4人ほどが登攀準備をしている中央稜の取り付きを通り過ぎ、まずは凹状岩壁を登るS津-A津パーティと別れ、続いて南稜フランケのN藤-A山パーティを置いて行く。南稜テラスには既に3人パーティが取り付いていて、T巳-Y田パーティが2組目。すぐ背後に抜きたそうな雰囲気の2人組みがいた。2ルンゼは南稜テラスから顕著に見える。南稜テラスから藪を1段下がって、微妙なトラバースで本谷バンドを左へ渡った対岸が取り付き。雪渓を回り込んで取り付きへ。どうやらルート図の1ピッチ目は雪渓の中だったらしい(6:45)。

○1ピッチ:N島リード、30m久しぶりの本チャンで少し緊張。右から巻いたらしく、非常に簡単。フォローのN村さんは直登したのでちょっと苦労。南稜のT巳-Y田パーティがよく見える

○2ピッチ:K岡リード、30m
チョックストーンのある核心。でも残置ロープが垂れ下がっている。「はめられた」とぼやきながらK岡さんがリード。せっかくの機会なので是非、楽しんでください。ハーケンでランニング。K岡さんはいつも冷静だし、ハーケンワークが迅速なので、とても安心(7:30)。N村-N島の順にフォロー

○3ピッチ:N村リード、30m
ルート図ではⅢ級だったのに、ルンゼの中央部がガラガラと崩壊しており登れない。左は垂壁でやむを得ず右を巻くが、そっちも悪い。ちょっと上がると古い残置支点とスリングがあった。「無理無理」と言いながらも、何とか登ってしまう。登る前にK岡さんからアングルを受け取っていてよかった。難しい体勢でよく打った。アングルは抜きにくいが、何とか回収も成功。その前に打ったグレードハーケンは効かなかった様子。N島-K岡の順にフォロー(8:30)帰宅後、他のパーティの記録を確認すると、このピッチでグラウンドフォールして負傷していた。N村さん、ナイスリード!

○4ピッチ:N島リード
詳細な記憶なし。K岡-N村の順にフォロー南稜・中央稜方面では頻繁に落石があり、「ラーク!」のコールを連呼している。一体何人死んだか?と思う程の混雑具合。各種コールも交錯している様子。対岸からはよく聞こえる。南稜のT巳-Y田パーティが登攀ルートを誤っているのが見える。しかし既に手遅れ。我々は少し歩きが入る。

○5ピッチ:K岡リード
シングルロープでリードして、2人目はフィックスをフォロー。3人目は末端を結んで確保してもらう。N村-N島の順にフォロー(9:40)2ルンゼの登攀部は抜けか?思って、ロープを付けずにルンゼを少し詰める。

○6ピッチ:N島リード、10m
左の支流を登ってしまったようで、小さい稜に出た。灌木でフォローの確保。2人に上がってもらってから、ルンゼに戻るために灌木に長めのスリングをセットして、10mほど懸垂。K岡さん、N村さん、N島の順に降りて、ロープを付けたまま少し右にトラバース。沢床に戻るとルートはまだ続いていた。

○7ピッチ:K岡リード、10m
右の露出気味の岩よりも、左の凹角を少し登って笹藪に入るのが安全ではないか、と相談して左へ。ロープなしで登りだしたが、出した方がよいとの判断でシングルの末端を投げて確保。10mほど抜けると上部に石門らしいものが見えた。

○8ピッチ:N島リード
右寄りのリッジを登る。その途中で急に空が暗くなってきたと思ったら突然ザッと雨が降る。しかし幸いにもすぐに止んでくれた。予報では午後から雨だったのに、思ったよりも崩れるのが早い。N村さんがカッパを着て上がってくる。全体的に支点は少なく、あっても錆びたハーケンなので落ちられない。自分でハーケンを打ったりカムをセットして登る。

○9ピッチ:K岡リード
ここもシングルロープ。N村、N島と続く(10:30)。少しの歩き。さっきの雨がウソのように青空が出て、壁に日が差す。しかし我々のいるルンゼは日当たりが悪く、乾きはしない。

○10ピッチ:K岡リード
ここもシングルロープで。N島、N村と続く。石門の手前までN村さん先頭、フリーで詰める(12:30)。結構悪いのに、N村さんが単独で突っ込むので、フォローも恐々。目の前が行けそうだからといって、行ってしまってはいけません。動けなくなってしまいます~。

○11ピッチ:N島リード、20m
大きなチョックストーンのある石門をくぐるように抜ける。後ろで「ロープが切れている!」という声が聞こえる。ルンゼに沿って左上するとザッテルにひょっこり出た。素晴らしい景色。灌木に残置された懸垂支点でフォローの確保。N村さん、K岡さんの順で上がってくる(13:00)。

左に滝谷第3スラブ(3スラ)、上部にドームとマッターホルン状岩峰、その間にAルンゼ、右にBルンゼが見える。C・Dルンゼの中までは見えないが、見えているA・Bルンゼには雪渓が詰まっていて、とても登れそうにはない。稜線まではまだまだ遠い。さて、どうしましょう?C・Dルンゼは通過できるのだろうか。実はあまり事前調査しておらず、残雪期の記録を確認していない。K岡さん曰く、どこか踏み跡が明瞭なルンゼがあるらしい。でもどこかは記憶が定かでない。

 

少し休憩して、N島の切れかかったロープをザックに収納。先ほどの懸垂で、落石がロープに当たったか?N村さんがウルイを積んでいる。僕は山菜をよく知らない。Aルンゼには向かわないため、終了点に使った広河原への懸垂支点は使わない。K岡さんが左上気味にトラバースしてDルンゼへの下降ポイントを探しに行く。慎重にクライムダウンして沢床へ。ここからDルンゼを詰めるが、ここは「沢ヤ」の領域と言える。濡れた岩と草付のミックスは個人的にはとっても苦手。乾いた岩、あるいはミックスでも岩と氷のミックスの方がいい。

時々、残置の錆びたハーケンがあったりする。一ヶ所、微妙なワンポイントでK岡さんからロープを垂らしていただく。左に行ったN村さんが危うくズリ落ちそうになっている。落ちた時のことはあまり考えたくないが、ここで落ちると被害は小さくない。K岡さんとルンゼ状の微妙な岩場をフリーソロで登っていると「ここは黒部別山か?」と勘違いしてしまう。危険に対する感覚が次第に麻痺している気がして、お互いに注意する。

14時の無線の時間を過ぎてしまったため、携帯でN藤さんと会話(14:20)。南稜フランケパーティは南稜を懸垂下降している途中だった。A山さんが振る、タオルが見えた。その2ピッチほど下をT巳-Y田パーティが懸垂している。その辺りは4パーティほどが集まって混雑の様相。

ハングに突き当たり、ロープを出す。ハーケンで支点を作って、N島がリード。抜け口にリングボルトと古いスリングがかかっていて、即席アブミをかけて突破。周りの岩はどこも表面がドロドロでとてもフリーで越せそうにない。更にその後も苦手な濡れた岩と草付のミックス。何とか抜けると、DルンゼとCルンゼの間にある稜線のコルに尽き上げてしまった。Dルンゼのザッテルというわけか?灌木でセルフを取って、フォローの確保。N村-K岡の順で上がってくる。

こちらのザッテルの下に見えているのはCルンゼだろうか?あるいはその支流か?Aルンゼから見えれば判断できるが、ガスが漂っていて全体像が把握できない。ここから見える範囲で、稜線へのルートはいくつかの選択肢が考えられるが、どれも上部には岩壁が見える。国境稜線まではまだ少し、距離があるようだ。順調に行ったとして1時間ほどか?

乗ってしまった稜線の先にも岩峰があり、巻けるかどうかは見えない。見える範囲で可能性が高いのは、最も左側のCルンゼの本流と思われる雪渓の脇をたどったルンゼ(Cルンゼ?)だろう。しかしそれも見える範囲での判断で、更に上部がどうなっているかは行ってみないと分からない。そう思っている間にも、ガスが周囲を隠してしまう。

N村さんとK岡さんが上がって来た頃はすっかりガスの中で、視界は何とか50m程度。15時の無線交信の後、K岡さんが偵察も兼ねて、ロープを伸ばす。最初の垂壁は左に5m程トラバースして、稜を詰める。「見える範囲では行けそう」ということなので、ロープの流れが悪くなる15mでピッチを切る。そこまで行くと、晴れ間に見えた雪渓がぼんやり確認できる。そちらに向かって下りながら、左へのトラバース気味にN島がロープを伸ばすが、すぐに易しくなりロープは解除。
N村さんもフリーでトラバースに入ってもらって、Cルンゼと思われる沢筋に向かう。ここでも落ちればどこで止まるか分からないので、常に緊張が解けない。濡れた岩場を慎重にこなして、雪渓のヘリを通って沢床へ。あまり人が歩いた様子は見られない。後は信じて進むしかない(16:30)。

烏帽子岩の方はすっかり静かになって、ガスも漂っており、まるでこの山域には我々しかいないような錯覚を覚える。あとはガスの中をルンゼの岩と草付をたどって標高を上げていく。何度か判断に迷うポイントもあったが、思うに任せて急な笹藪を強引に抜けると、何やら稜線が近そうな雰囲気。17時に近づいたので無線を準備。交信中にN村さんが稜線に着いたため、N藤さんに「抜けた」と伝える。凹状岩壁のS津-A津パーティがまだ一ノ倉駐車場に到着していないとのこと。下降に時間がかかっているらしく、いつでも連絡が入るよう無線を開けておくことに。

稜線直下にはエーデルワイスで有名なウスユキソウが咲いている。これは花なのか?肉厚なガクといった感じで、不思議な形だ。登山道をたどって、オキの耳、肩ノ小屋、熊穴沢の避難小屋を経由して田尻尾根に入る。本日中に帰宅したいK岡さんは終電の時間が気になる。ロープウェイはまだ動いているみたいだが、きっと人は乗せてくれないだろう。下りは勢いがついて小走りになってしまう。何とかヘッドライトを使わず、8時前にベースプラザに到着。N村さんとK岡さんは15分ほど遅れて到着。挟間さんを迎えに行くついでに、K岡さんを送ってN藤さんに車を出していただく。

今回も「ひょっとするとビバーク?」と思ったことも何度かあったものの、無事に帰ってくることが出来た。アルパインクライミングには、少しはそういった要素が必要とも思う。基本、山ヤさんなので、ピークを踏まない、同ルート下降はちょっと寂しいような気もする。日曜日は朝から雨のため撤収し、有志でジムとなった。

 

烏帽子沢奥壁 凹状岩壁

L,S津A子、A津I織(記)

前泊地の土合立体駐車場を4時過ぎに出発、テールリッジを経て取付点に6時着。前方に3人組の1パーティーがいたが、スピードは速くて支障はなかった。S津さんのトップから登攀開始、以下つるべで登ったため、偶数番ピッチを私が担当。なお、各ピッチグレードは三ツ峠Gを基準とした私による評価。

1P(Ⅳ)お馴染みの共通ピッチ、平行トラバース ~ 草付凹角。

2P(Ⅳ+)緩斜のスラブを30mぐらいで巾広いルンゼ内中央の古いビレイ点へ、でも目一杯伸ばせば上部のビレイ点ヘ届きそうだったので、そのまま中央部の細かいフェースを直登。ちょうど沢登りの涸滝みたいで剥がれるホールドを丁寧に扱った。目前のビレイ点へは1mほど足りず、シュリンゲで伸ばしてビレイ。

3P(Ⅳ+)狭くなったルンゼ内の立ったフェースで、ホールドは脆い。この辺りから頻繁に落石に見舞われ、5ピッチまでは常に上を気にしながら登る。

4P(Ⅴ)垂直なフェースで、浮いたホールドも多い。右端のクラックに沿って上がり、窮屈になる所から中央部へ。数本の残置シュリンゲで適正なランニングがとれる。

5P(Ⅴ)ルンゼを出てから、左カンテに沿って立った草付を直登。ランナウトするが、右折する前の左壁へのフレンズが有効。右折して巾広い草付ルンゼを横断、そのまま右壁のハングをインドアムーブで豪快に乗越してビレイ点まで。ハング部分には適度に残置ピンがある。ザイルの流れに注意。

6P(Ⅴ)従来のラインはビレイ点の左前で、見事な崩壊ぶりで岩の露出が逆に美しい。私は草付とのコンタクトラインを7m右トラバースしてから、顕著なチムニー内を直登。スメアリングで競り上がってから、頭上のハング下でキャメロットを下向きに挿し、左側カンテの外側へ細やかなフリーで抜けた。このピッチの3本目にクリップでき、あとは急傾斜の草付を踏跡に沿ってビレイ点まで。ちょうどチムニー内で降雨に遭い中断したが、その間に戦略を考えられた。谷川らしい好ピッチ。

7P(Ⅳ+)急な草付を真っ直ぐにランナウトして上がってから(右回りの踏み跡もあり)、大きな露岩を乗り越える。テラスへ着いたときにまた降雨で2度目の中断。

8P(Ⅴ-)離陸してすぐのランナーからクラック入口まで、立ったフェースをランナウトで登る。それから大きなホールドの並ぶクラックを、インドアムーブで出口から左側へと抜ける。あとは易しい露岩帯を登り、12時に烏帽子尾根上の終了点へ到達。

1回の懸垂を交えて「衝立の頭」まで尾根沿いに移動してから、「北稜」の下降にかかった。各支点から投げたザイルがブッシュ帯ではどうしても絡むため、6回の懸垂の割りには時間を要する。途中に2回の歩きでの下降箇所があるが、各懸垂支点は明瞭。けれども、「略奪点」から踏み跡を追ってつい衝立前沢沿いに下りてしまい、止むをえず尾根上に登り直してヤブ漕ぎで降りたため余計にロスした。尾根は衝立前々沢の最後の大滝前で終わり、ここで沢へ降りて滝を懸垂。そしてスノーブリッジを渡って、ようやく一ノ倉本流まで戻った。18時前に出合の駐車場。例の地震によるルート崩壊のあと、もう一度登ってみたいと思っていた「凹状岩壁」だが、上部の新しいラインはより自然な構成になった気がする。今シーズン最初の本チャンとして、5年ぶりの「北稜」を思い出したことも含めて内容のある1本だった。

○S津コメント今年の岩、本ちゃん初めで谷川に行って来ました。A津さんの希望で、凹状岩壁!去年登ってボロボロだったので他のルートの方が良いかなーっと思ったが、崩壊地をA津さんがリードしてくれるとのことなので、行ってみたが、やはりボロボロ・・・落石は、頻繁に飛んでくるし、もう誘われても、このルートは行かない事にしようと心に誓う。でもこのルート良い所も有るのです!今回バラバラのルートに登ったので、2ルンゼのN島P、南稜のT巳P、南稜フランケのN藤Pが一度に見渡せて。手を振ったけど、きづいてくれたのはN藤君だけだった(*_*;北稜下降は、ちょっとしたアクシデントがあったので、思ったより時間が、かかってしまったけど次回はバッチリ!たぶん。

 

烏帽子沢奥壁 南稜フランケ

L,N藤S木、A山Y秀(記)

南稜フランケ5ピッチ目。どんどんロープを伸ばすN藤さんの背中をみていろいろな思いが絡み合う。「うう。。ランナウトして10mやんか。」悪いことしか思いつかない。「今スリップしたらどないしよう。俺のところまで落ちてくるやん。それで止まればいいけど、途中のピン大丈夫かなあ。それよりビレイステーションだいじょうぶかなあ。」しょうもないことが頭をよぎる。「やっぱテンションかかる前にはロープを巻き取ったほうがええんかなあ。でも巻き取ってた時に衝撃きたらとめられへんやん。」そのうち声がかかる。「ビレイ解除!」あーよかった。南稜フランケはこの連続だった。

南稜フランケ。ルートグレード5級下。最高ピッチグレードⅤプラス。短いのに高グレード。密かに目標にしていたルートである。それにN藤さんから行こうとお声がかかる。即決GOである。

○1ピッチ目。N藤さんリード。Ⅳプラス。鎌形ハング右端の下にビレイポイントがある。ボルト2本。しかし次のピンは?かろうじて5m先に1本確認。リードはN藤さんにお任せした。朝の1ピッチ目はいつも緊張する。自分が持参したトポでは3ピッチ目も4ピッチ目もⅤ+だったのでどっちでもいいと思った。緊張して喘息が出たのか咳が止まらない。だいたいいつもこうだ。

リードは空身で行くことにして、ザックを一個残置。これは本当にナイス判断だったことが後でわかる。「お願いします。」「はい。ガンバです。」というような会話をたぶんした。でも緊張でおぼえていない。N藤さん登り始める。見えていたピンは浅うち。N藤さんは「これじゃ駄目だ」と無視する。精神力の強い人だ。感心する。カンテを越え、見えなくなる。見えなくなると何故か他人事。「カンテのむこうにはピンがあるだろう。」安易である。

フォローする。ピンが全然ない。「あひょー。」日本語だかなんだかわからない言葉が頭をよぎる。「聞いてないよー」アタリマエである。

○2ピッチ目。A山リード。Ⅳプラス。「こいつあ、たまらん」とハンマーをいつでも出せるようにしてリードする。案の定、5mしてもピンがない。このままじゃ墜落係数2やんけ!行き詰る前にピンを打たねば。行き詰って落ちて骨折したことが忘れられない私は必死でリスを探す。カムやナッツを決められるクラックはない。フェースだからだ。でも、ちょっとしたバンドの根本には探せばリスがある。割れ目探しに必死になる。打つ。必死になっていると、その分リスも的確に見つかる。集中力が違うんだろう。結局このピッチ、2本のハーケン。1本の木。一本のリングボルト。1つのカムでしのぐ。

○3ピッチ目。N藤さんリード。Ⅴプラス。核心部である。出だしのハングを右に越える。越えてしまえばN藤さんの姿は見えない。いきなり安易になる。「大丈夫。核心部にピンがないわけない。」N藤さんのうめき声が聞こえる。「uu~」「ug~」「gg~」これも日本語ではない。宇宙語だ。緊張感はいやがおうにも高まるが、やはり安易だ。「ピンあるし落ちても大丈夫だろう」フォローする。ハングにはピンがある。それを越えたら。。。。ない。全然ない。N藤さんこんなところ登ってたのか。愕然とする。

ムーブ的には5.9くらいだが、ムリヤリたとえると小川山ストーリーより小さめ、かつゆるいホールドで20mランナウトする感覚だ。小川山ストーリーならたぶんその間に6本はボルトがあるだろう。それもペツルの。(ちなみにN藤さんは気付かなかったかも しれないが、あと2本はピンありました。それでも少ないことには変わりなし。)

ビレイ点に着く。「怒涛のランナウトじゃないですか!」「いやあ 本当に登れてよかったです。」というような会話をしたと思う。でも次は自分の責任ピッチ。ルートを探す。

○4ピッチ目。A山リード。Ⅴ。まずは左上。その先ピンは期待できないので安定しているところに一本うつ。ちょっとエクスパンディングだったので、手前で止める。カンテを乗り越す。ルートを見極める。右上のクラックにシュリンゲがぶら下がっている。でも見るからに脆い。でもそこが一番良さそう。腐ったピンがある。突っ込む。

ひいひい言いながら登る。「こいつ危ないなあ。浮いてるかも。」とつかんだホールドに体重かけた瞬間、ずぼっと抜ける。「ラクー!」「ラクー!」N藤さんが叫ぶ。コッチは叫ぶ余裕もない。「危ない」と思っていた分、足に体重が残っていたのでなんとか落ちるのは避けられた。ようやく乗っ越す。

そこにリングボルト発見。心のよりどころである。でも本当は下にほしかった。その上はもっとぼろぼろ。岩が積み重なったかんじ。直上は無理なので、左下にトラバース開始。足を置いても大丈夫なのかはわからない。置いた足の下で石がもぞもぞ動く。でもなんとかなった。その上でもう一本ハーケンをうち、ビレイポイントへ。ついた瞬間声が出る。「あ”ーー。恐かったーー」誰かに伝えたかった。心の声である。

その後雨で小休止。登ってきたN藤さんが「雨だからここから降りましょう」と言ったらどうしようと考えていた。ここが宿題になったらまた来ないといけない。でもこんなところ二度と来たくない。もし「降りる」といわれたら次のピッチをリードしよう。どうせあと1ピッチ半だから。後で聞いたらN藤さんも同じ事を考えていたらしい。

○5ピッチ目。N藤さんリード。Ⅴマイナス。

○6ピッチ目。A山リード。Ⅲ。南稜に出て、見たことのある馬の背についたとたん心から喜んだ。「N藤さん!南稜にでました!」そのときの声はたぶん晴れやかだっただろう。今回目標のルートをオールフリーで行くことができました。これはなには無くともN藤さんのお陰であり、谷川を企画していただいたN島さん、一緒に登った皆さんのおかげです。これからも安全登山を第一に精進していきますのでよろしくお願いします。

○乾いた岩の念願の目標ルート  N藤S木南稜フランケ3ピッチ目。最終支点は10m以上も下にある。あのハーケンは落ちたら多分いとも容易く抜けるのだろう。骨の2、3本ではすまされない。次の支点でヌンチャクを掴みテンションをかけて追い詰められて縮こまった心の窓を開けて風を入れてやりたい。圧倒的にクライミングに対する「意識」を試されている。そして、安易にA0することによって今までの登り込みは、何故雪と沢を捨てていたのか、の意味は0と帰してしまうのだろう。

「かつてこのルートの3P目は日本で最も難しいフリーのピッチとされ、Ⅵ級以上のピッチが続出した現在においても充分その評価は色褪せてない。それは全体を通してプロテクションが少なく、墜落は絶対許されないという厳しさによるものであろう。再登にあたってはそのことを考慮し充分な自信と経験のもとに取り付かれたい。」  白山書房 日本の岩場より

自信も無いし経験だって僅かなんだよ。そっと手を伸ばす。唸っているいる自分に気が付く。「頼むからお願いだからじっとしていてくれ」ミシンを踏む足を騙しながら持ち上げる。紛れも無く、間違いなく、これは極上だ。突然の雨を凌いで、吹き上がるガスに巻かれて、4P終了点で笑い合った。パートナーのA山さん、本当にありがとう。

 

烏帽子沢奥壁 南稜

L,T巳Y郎(記)、Y田S

6月13日午前4時前、殆ど寝てない朦朧とした頭で周りを見回すとその日の動きは確かにもう始まっていた。午前4時過ぎ、皆が集合して一ノ倉沢出合へ行くと、既にそれなりに車が止まっている。6月の朝は早い。すぐに準備をして、5時に出発した。去年の秋に続きここは二度目だが、秋と全く様子が違う。登り始めてすぐに雪渓になり、ヒョングリの滝の横を懸垂するとかはない。登り易いが意外と急で、帰り道が滑り易そうで思いやられる。テールリッジをぐいぐい進み、途中で各パーティがそれぞれの出発地へと分かれて行き、我々は南稜テラスに着いた。

今回のパートナーはY田くん。自分とほぼ同時に入会した仲間であり、気心は知れている。最近仕事が忙しいらしく、ややふくよかになったような気がするが、自分も人のことは言えない。決して経験豊富でもなく、技術レベルも高いとはいえない二人だが、今日は入門ルート南稜だ。自分は二度目だ。絶対大丈夫だ。何事も起こらない。山を岩を楽しもう。

 

ちょっと緊張して、まず自分のリードで取り付く。短く切ってツルベで行く。まあ快調に3ピッチ終え、Ⅰ級の草付帯をロープを持って確保せずに行く。しかし、これはいかんかった。本日最初のロープトラブルを生じさせてしまった。よくもまあここまで複雑に結び目ができることと感心するが、恐らく10 分以上掛かって解き、次へ。その後も本来のルートであるカンテの右へ行かず、一生懸命左を行き、脆い足場で苦労するなど、簡単なルートでも難しくして骨の髄までしゃぶりつくそうという我々の試みはほぼ成功裡に果たされていき、最後のⅤ級の垂壁も突如降り出した雨に少しやられたものの、米ちゃんも無難にクリアして、無事二人で終了点まで到着。

聞けば米ちゃんは夏場の本ちゃんデビューだという。こんなパートナーで申し訳なかったが、初心者二人が自分達だけの力でとにかく登攀成功。振り返ると何だか光っているように見えるのが特徴的なスラブが眼下に広がり、気持ちの良い景観を堪能することができた。よかったよかった。

しかし、雨も降り出したし、早速懸垂で下降する。久しぶりで最初は不安だったが、新たに手に入れたエイト環を使って降りてみると、ATCに比べ使いやすくてびっくり。道具の違いってやっぱりでかいんだな。とはいえ、腕時計が無くなったり(後で無事発見!)、ロープが絡んだり、屈曲点でロープが動かなくなったり、ロープが途中で引っかかったりと、ロープトラブルのオンパレードで、次に降りる人や登る人がいなければ、相当登り返す事になっていたであろうという反省の多い下降となった。午後にはなったが南稜テラスに帰還。雨もやんでひと心地ついた。

しかし、ここからテールリッジを降りるのがあんなにおっかないとは知らなかった。恐るべし、濡れた岩。本当の核心がこんな所にあったとは。秘密ですが、N藤さんには、一生頭が上がらなくなるようなヘルプもして頂きました。が、テールリッジさえ過ぎれば、最後の雪渓もさほど恐ろしいものでもなく、何とか出合まで帰ってきました。結局その日もホテル谷川に連泊する事になりましたが、その夜の宴会が盛り上がったことは言うまでもありません(途中で寝てしまいましたが)。

 

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