北ア 北穂・前穂アルパインクライミング

L,N島F博、T城M樹

■8/13(木)上高地~北穂(アプローチ)
■8/14(金)滝谷 4尾根主稜-ドーム中央稜
■8/15(土)滝谷 ドーム北壁左ルート
■8/16(日)前穂北尾根 Ⅳ峰正面壁北条・新村ルート

■8/13(木)雨:上高地~北穂(アプローチ)
7時半、雨がパラつき始めた上高地を出発。
徳沢でA山パーティと会い、彼らと分かれた直後に元ぶな会員のS藤が前を通りかかって声をかける。
S大山岳部時代に前穂北尾根で亡くなった仲間の弔い山行で涸沢日帰りピストンだとか。
今年3月にも白馬乗鞍で偶然再会していて、びっくり。

近況を語りながら一緒に涸沢を目指す。記者になって5年目、松本に移って1年程。
意外と休みもあって山にも行っているらしい。シーハイルに入っているがやはりスキー中心で、メンバーとの活動は冬が中心とのこと。やけに大きいザックには、涸沢の救助隊へのメロンと巨峰の差し入れが入っている。
救助隊の基地は周囲で起こっている滑落などの事故対応で忙しそうだった。

状況次第で北穂のテント場まで行くことを考えていたが、本降りになった雨のため涸沢で幕営とする。
寝不足解消のため昼寝。夜遅くまで雨はやまなかった。

■8/14(金)晴れ :滝谷 4尾根主稜-ドーム中央稜
03:00 起床
06:50 南稜テント
08:40 第四尾根主稜取り付き
14:10 ドーム中央稜取り付き
17:00 ドームの頭

3時起きの4時半出発。南稜の途中で朝日が昇る。快晴で風なし。南稜テント場に幕営後、登攀具を身に付けて滝谷を目指す(6:50)。北穂ピーク手前の松濤岩の基部を回り込んでガレたC沢左俣を下降。ここで準備中の5人パーティを抜く。
懸垂支点が数ヶ所あったが、クライムダウンで抜ける。思ったよりも下って、約1時間で二俣(8時)。
周囲はガラガラの岩壁だらけで、どこがルートなのやら。スノーコルへは踏み跡が明瞭で、二俣から取り付きまで15分ほど。T城さんリードで第四尾根主稜をスタート。浮石が多いため注意が必要だが、支点は探せばハーケンがしっかりあって、ピッチの区切りも明確。カンテが快適で迷わない。

途中のクライムダウンで10年使ったズボンのケツに穴が空き、パンツ丸見えの恥ずかしい姿になってしまう。同
ルートの後続パーティが2人、他の3人は第三尾根を下から登っている。四尾根からよく見えるが、支点工作な
どで苦労している様子で、3人なので時間がかかる。ドーム中央稜には2パーティ程が取り付いている。登るに
従って槍が見えてくる。

12時には抜けるつもりだったが、予想以上に時間がかかって13時に登攀終了。まずは1本。相談してドーム中央稜を継続することに。一度、登山道に戻って、第四尾根から偵察していた下降路をたどってT1の懸垂支点からT2へ(14:00)。
第三尾根を登攀中の3人パーティの前に出た。ドーム中央稜もT城さんリードでスタート(14:15)。
第三尾根の3人は時間切れでドーム中央稜を登らずに帰っていった。
我々は順調につるべでこなして、17時前に登攀終了。

テントに戻る途中にドーム北壁を偵察。やはり一度は登ってみたいところ。
相談して明日は左ルートを狙うことに。夕焼けを狙うカメラマンが多数、北穂ピークに居座っている。
すぐ隣のテントには相模山友会の方々がいた。明日は4時発で第四尾根主稜とのこと。夜は満天の星。天気予報もいい。

■8/15(土)晴れのち曇り:滝谷 ドーム北壁左ルート
07:20 ドーム北壁左ルート取り付き
09:30 ドームの頭
13:00 涸沢
14:10 北尾根5・6のコル
16:30 奥又白池

完璧な日の出に奥穂と前穂が赤く染まる。北穂小屋のトイレに寄るついでに、救助隊にルートの状況を確認。
今年はまだ北壁を登ったパーティを見ていないが、きっと大丈夫だろうとのこと。
ドーム北壁は2ピッチしかなく、難易度は右も左も同じで、左の方がアブミ掛け換えが多い。
不要な荷物を縦走路のわきに置いて、空身で取り付きへ10分程。

トポでは1ピッチ目がA1の40m、2ピッチ目がⅢ級。N島リードで開始。
練習もなく、久しぶりのアブミに少し緊張するものの、ハーケンはそれほど遠くはなく、ゆっくりと確実に高度を上げていく。
滝谷はどこもハエが集まってうっとうしい。15m程でしっかりした終了点があり、ギアが少なくなったのでピッチを切る。
T城さんも久々のアブミで苦労した様子。オーバルのビナをハーケンから抜くのに手こずる。

A1が続くので次もN島がリード。何本かひん曲ったハーケンにアブミを掛けるが、問題なし。
1本だけ、信用できず自分で打つ。確実にハーケンが決まって、約15mで本来の1ピッチ目終了点。
ハンマーをロープで下して、T城さんにハーケンを回収いただく。

3ピッチ目はT城さんにお願いしてドームの頭まで(9:30)。短いがドームをまっすぐに登ったという充実感がいい。
しかしながらこのルートは北穂からも縦走路からも丸見えで、登攀中は見世物みたいであまり気分が良くない。

ザックを回収してからテントに戻って、充実感に浸りながらのんびりと片付け、5・6のコルを経由して奥又の池まで行くために涸沢へと下る。涸沢の小屋のデッキでチキンラーメンを作って昼食。
勝が言うには、涸沢の小屋の主人は「登山客が札束に見える」とのこと。そんな小屋で金を使うのは癪に障るが、ガス缶が不足するのでやむを得ず1本購入。少し雲が広がって来た。
小屋で聞いても情報がなかったので、救助隊の基地で5・6のコルから奥又白への道について、状況を聞く。
コルを超えてから、崩壊で相当悪いところが1ヶ所あるから気を付けて、とのこと。
T城さんと相談しようと思ったら、既に遠くの雪渓を登っていたので後を追う。

コルへ向かう道はガレ場の中にも踏み跡があって、約1時間で到着。奥又側はガスで見えにくいが切れ間にチラっと見た奥又白池は予想以上に遠く、トポにあった1時間では着けそうにないと思う。
急なガレ場を下って、最近の踏み跡らしきものをたどりながら進む。(下山後、この足跡はA山パーティのものだったことが判明)Ⅴ峰下部で1ヶ所、切れ落ちているヤバいトラバースがあり、N島は何とか通過したが、安全のためロープを出す。
灌木でビレイしてT城さんが通過。結局、ロープを出したのはここだけ。

奥又白谷の2500m付近にザックが落ちていて、近づくと周囲には散乱した食料や装備があり、どうやら遭難者のモノであることが分かる。ザックにはどこかで見た「蝸牛」のマークあり。食料の製造日から判断するに、正月山行か?
荷物を少しあさったが個人を特定できるものはなかった。数枚の写真を撮って通過。きっと会の方が回収に来るだろう。この後もガレガレの谷を通過し、急なルンゼを登って藪のトラバースに入る。20分程で池に出た。

周囲には7張ほどのテントがある。ぐるっと回ってA山パーティを探すが、見当たらない。
無人のテントがいくつかあり、まだルートから帰っていないのかと思って、近くに我々のテントを設営。
昨年の黒部別山、冬の戸隠キャンプで会った山登魂のY田氏と話す。彼らは中又白谷を遡行して来たとのこと。
雲に隠れて前穂東壁ははっきり見えない。18時になり無線交信するが、A山パーティの応答なし。ちょっと気になるが携帯も圏外のため、連絡できない。まだ帰ってきていないパーティのメンバー構成を周囲の方に聞くと女性を含む3人とか。
どうやら下山した様子。ラジオで確認した天気予報は明日も悪くないらしい。食事にして、シュラフに入る。

10年近く使ったサーマレストのエアマットが内部で剥離して、巨大なサツマイモを真ん中に突っ込んだように膨れ上がって、乗ると更にパリパリと裂けてくる。
前日から空気も抜けるようになったため、夜は1時間ごとに目が覚めてしまう。

■8/16(日)晴れ:前穂北尾根 Ⅳ峰正面壁北条・新村ルート
05:15 奥又白池
07:30 甲南バンド末端
08:15 北条・新村取り付き
12:00 終了点
15:15 奥又白池
19:45 上高地

夜中に激しく雨が降る。3時半起きで目覚ましをセットしたが、雨のため気落ちして4時前までゴロゴロ。周囲も動きはない様子。しかし顔を出すと空は晴れている。ラーメンに雑炊と多めに朝食を取って、予定通りの北条・新村を目指して出発。雨上がりの藪漕ぎでびしょ濡れとなる。
奥又白谷のガレ場を詰めて、雪渓に乗る。六本歯のアイゼンとストックで雪渓を直登。同じ雪渓の左から、男女パーティがトラバースしてくる。彼らもⅣ峰正面壁とのこと。そのままトラバースして、右のルンゼに入るようだ。我々はC沢を奥まで詰める。2人とも岩場に乗り移ったが、間には微妙なトラバースがあってT城さんに頼んでロープを出してもらう。ハーケン2本で支点工作。確保してもらって左側にいるT城さんと合流。
そのままC沢左岸をへつって20mロープを伸ばすと、甲南バンドの末端に着いた。

男女パーティは既に甲南バンドの先をコンテで登っている。向こうが正解だったようだ。
我々は懸垂で降りてくることにして、不要な荷物をこの末端にデポ。T城さんのサブザックだけ持って行く。
ここに来て北条・新村ルートがようやく判別でき、楽しみになってくる。

急なバンドをたどって、取り付きを確認し、T城さんリードでスタート。ハング下まで3ピッチ、約100mのⅢ級をこなす。
2ピッチを終えた左側のハングに続くハーケン連打があったが、こちらは間違い。トポにある「ハングの切れ目」を確認し、両手にアブミを準備してN島リードで取り付く。
残念ながらフリーでの突破は最初から選択肢にない。ドーム北壁は垂壁以下だが、こちらはかぶっているのでアブミにぶら下がっての掛け換えが数回。
トラバースのお助けスリングもあり順調にこなす。ハングを超えるとフリーに移って、数メートルで終了点。下からT城さんが写真を撮ってくれる。ハングのアブミは慣れておらず、更にフィフィのないT城さんはちょっと苦労した。

続くトラバースは高度感があり、その後のカンテ直登もダイナミックな動きとなるが、T城さんが快調に登って行く。
フォローするがⅣ級以上あってもいいような印象。最後のⅢ級をN島がリードで、ルート終了(11:50)。
すぐ右には男女パーティがいて、聞くと甲南か成城のよく判別できないルートを登って来たとか。
Patagonia日本支社に勤務する鈴木さんで、北穂を抜けて上高地まで今日のうちに下山予定とのこと。

Ⅳ峰ピークまではまだ距離があるものの、懸垂支点を探して15mほど左上し、岩場のリッジを超す。
懸垂が無事終わるまで安心できないので、握手はお預け。岩場を見まわすが、残念ながら懸垂支点はなく、灌木にスリングを残置して35mの懸垂。同じような灌木で2本目、垂直の懸垂に入ると途中にハーケンがいくつか確認でき、ダイレクトルートに沿っていることが確認できた。
空中を含む45mでドンピシャ、ハング下に到達。これでまずは安心。残置支点を使って50mで甲南バンド、更に40mで北条・新村ルートの取り付きに着いた。ここで握手(13:30)。
ロープも無事に回収でき、クライムダウンで荷物をデポした甲南バンド末端まで。シューズを履き替え、念のためにアイゼンを着けて、最後の懸垂50mジャストで雪渓手前まで。懸垂で降りた方向は当初登って来たC沢側ではなく、男女パーティがたどったルンゼとした。

C沢の雪渓を慎重にトラバースして、ガレ場の踏み跡をたどって、こちらも男女パーティが登って来たA沢経由で下降。
リッジに上がる部分で踏み跡が不明瞭だったが、問題なくトレースに出た。途中、壁がよく見えるところに遭難碑があり昭和31年とある。50年前にここに来ていた人は本当に凄い。
ここからⅣ峰正面壁をバックに互いの写真を撮る。奥又白池には我々のテントしか残っていなかった(15:15)。

相談して、天気はいいものの上高地まで下山することして、装備を片づけ16時出発。道は急で悪く、ここを登って来た人は大変だったろう。2時間かかって新村橋まで、そこから更に上高地まではコースタイムで2時間半の平地歩き。
徳沢ではテントでくつろぐ多くの人の横を、時間が気になる私達は急いで通り過ぎる。
こんな時間に歩いている人は少なく、3人抜いて、1人すれ違ったのみ。
明神でヘッドランプを出して、最後は真っ暗になった上高地にヘロヘロで到着(19:45)。

「乗るのか、乗らないのか?」と迫るタクシーの運転手に、フラフラしながら乗る意思表示をすると「釜トンのゲートが20時に閉まると内部に閉じ込められるから」と言って猛烈な勢いで走り出した。
何とか2分前に通過し、運の良さをまた実感。運転手から連絡してもらったホテル杣乃家の小さめの素敵な露天風呂で日焼けの痛みに耐えつつ、汗と垢を流す。見上げると空の中央に夏の大三角が見えた。
お盆最終日の中央道はやはり車が多く、渋滞も多少はあり、眠気と戦いながら頻繁に運転を交代して東京へ。
既に終電を過ぎていたため、T城さんに調布の自宅まで送っていただいた。ありがとうございました~。