[山の本紹介]墜落のしかた教えます ウォレン・ハーディング(1976)

自由投稿

不満の向き合いかた教えます

はじめに。

僕自身、ヨセミテなどには行ったことがない。

エイドクライミングもやったことがない(フリーのマルチピッチで即席のアブミを作って強引にフォローをした事は何度もあるが)。

つか、登攀歴2年くらいのいわゆる

“ボンクラ”である。※1

いや、それ以下。

“アンダーグラウンダー”※2

ってとこかな。

しかし、クライミングを始めた頃先輩から

「優れたクライマーはみんな多読家なんや、だからお前も本読めよ」

と言われてなんか悔しかったのでコツコツと山の本を読んでいくうちに知識ばかりが先行していったのが僕である。

これを世間では頭でっかちと言う。

この事を念頭に置いていただきたい。

本当に登れないのに、偉そうに書評じみたものを書くのは恥ずかしいことだが、そこは恥を忍んで。

地頭を良くする為にも大胆に行動してみる…ガクブル

“野獣製造機”のレスト時間にでも読んでいただけると幸いである。

※1

凡クライマーの略

※2

地下クライマーのこと

[本書]

1950〜70年代

ヨセミテ渓谷において

「鼻」や「曙光の壁」※1

といった一時代を代表するような初登攀を大量のボルトとフィックスロープ、膨大な時間、ためらい無き広告宣伝、その他眉唾な戦略を用いて成し遂げたクライマーがいた。

彼は

[登りたいラインのためには手段を問わない]

という一貫して超個人的な自己満足の姿勢を崩さず、当時隆盛を極め始めていた[クリーンクライミング]の理念に対して宗教的で、規則にがんじがらめにされていると反発の姿勢を示し続けた。

彼の名前は

[ウォレン・”バッツォ”・ハーディング]※2

バッツォはその智略に基づく怪奇な取り組みにより、『怪傑ボルト人間』として人々から恐れられ、ライバル(笑)である[クリーンクライミング]の一派からは痛烈な批判を受けた。

また、その一方で一部のゾーン10クライマー(後述)からの狂信的な注目も浴びた。

この本はそんなバッツォの20年にわたる不真面目な登山活動と、これでもかと研ぎ澄まされた反骨精神によって書かれたブラックジョークたっぷりな自称クライミング指南書(?)である。

また、一般的にこういった書籍は奇書と呼ばれる事が多い。

※1

「鼻」=「ノーズ」

「曙光の壁」=「アーリー・モーニング・ライト」(後に「ドーン・ウォール」と呼ばれるようになるライン)

ここではバッツォと訳者に敬意を表して本文で使われている呼び名を採用する。

※2

 彼には(疑問符の多い)登山用品を発明する技術者としての一面があり、その発明品には『バット印』がつけられている。

このBATとは、

「Basically Absurd Technology」

(根本的にばからしい工業技術)

の頭文字をとったもので、彼の愛称”バッツォ”とはこの商標名をもじったものと

「こうもり野郎」「き○がい野郎」といった二つの意味合いを持つらしい。

[登場人物像は様々だ]

開幕からバッツォワールドが全開である。

登場人物は著者であるバッツォから始まり、

美しく才能ある彼のパートナー・ビースト、

なかなか自信を持てない若い新人クライマー、

しまいには冷酷な顔をしたインディアン(?)や

火星人“(???)までも登場してしまう。ホントダゾ!

本書はそんな架空のキャラも交えたユーモアたっぷりな会話形式で展開されていく。凄まじい妄想力だ。

さすがバッツォ

火星人は一本取られたよ!

[第一幕・クライミングの手引き]

第一幕はクライミングの基礎事項を皮肉と脚色を加えて説明する形となっている。

冒頭の山岳地形の専門用語とビッグウォールを登る為の道具の解説が書かれた十数ページは全章通して最も真面目に書かれている内容となっており、見応えたっぷりだ。

(読むのが大変ってことですね…)

気を取り直して

続く確保の解説では、挿絵の確保者の傍らに常に酒瓶が置かれており、

「今のはビレイしてなかったよ」

「ううー ヒック グーグーグー」

といった指南書とは思えない大草原不可避※な台詞も飛び出してくる。

当時の無秩序なアメリカ文化(ビートカルチャー?)がうかがえる。

そんなヤツにはビレイされたくない(笑)

挙げ句の果てにはショートパンツを履いた女性クライマーを真下から撮った写真が載せられていたりと早速やりたい放題である。

その他、クライミングの倫理や哲学についてもこの章では触れられているが、いずれも大炎上クラスの持論に思える。

軽はずみに引用することは控えようと思う(笑)

※ 「笑い(warai)」という意味で使われる「w」を草に見立て、それが「wwwwwww」のようにたくさん並んだ状態のこと。また、それが避けられない様。

[第二幕・バッツォの自叙伝]

本章ではバッツォがクライミングを始めた経緯から「鼻」の登攀記までが書かれている。

ただし、期待してはいけない。

バッツォにも心清き時代があるのでは?

とか考えていると痛い目にあうぞ!

彼の登攀人生は終始快楽主義に徹底した異端のROCKンロールだ。そう、ロケンロールだ。

生まれながらの『怪傑ボルト人間』なのである。

続く節では1年4ヶ月、登っては降りてのルート工作を繰り返した正味47日間に及ぶ怪心の登攀「鼻」について熱く綴られている。

「一度で全ルートを登りきろうとはまるで考えていなかった。それは高望みというもんさ!」

犯行声明さながらの開き直りにはお手上げだ。

「勉強する近道はね、とにかくやっちまえ!ということさ。何度も失敗することだ。実際、めちゃめちゃにやってみるんだ。」

という敬虔なクリスチャンを失神させるような台詞も飛び出す。

[最終幕・曙光の壁]

ここでもバッツォの代表作について綴られている。

〜有名なクライマーになって金儲けをしよう〜

という卑しさ極まりない動機のもと

“魔法使い”の異名を持つゾーン10クライマー(後述)ディーン・コールドウェルと再びボルトを握るっ!

なかでも、嵐による3日間のビバーク後の

「とうとう壁全体が、その名のごとくあかあかと照らし出された。

そうだ、ここはまさに”曙光の壁”なんだ!」

と言う台詞はバッツォらしからぬロマンチックな演出。

エモいよバッツォ。

最後の節で描かれた茶番でまさかの”火星人”の正体が…

是非これは実際に本書を手に取って確認していただきたい!

[付録・ダウンワード・バウンド式ゾーン・システム]

 最後に。本書において個人的に最もツボなのがこの付録ページである。

『ダウンワード・バウンド』とは本書の原題の事で、

『ゾーンシステム』とはバッツォが勝手に考えた独自の人格グレーディングシステムである。

“偉大なるクライマー”の理想像をゾーン1とし、以下”最低のクライマー”であるほどゾーン10を上限として数値を上げてゆく。

本書に書かれている全てのグレーディング基準をいちいち書くとかなり長くなるので、ゾーン1と10の説明を端的に抜粋すると、

[ゾーン1]

頭の中で最高のクライマーを目指している人物。登山界のみならず、一般の人々からも、おおいなる尊敬と畏れをもって迎えられている。

[ゾーン10]

異端ともいえる理由でクライミングをやっている悪い奴。さまざまな、かなりの能力を持ち、登山にも打ちこんでいるのだが、何ごとにつけても堕落した人物

 といった要領だ。

以降、[ロイヤル・ロビンス]や[イヴォン・シュイナード]をはじめとする当時のヨセミテ主要クライマー達に対して名前を伏せずに

「神・人両方の性質を備えた人物」

「神と呼ぶにはもう一息元気が足りない」

「アルピニズムの敵」

「横幅の広いうしろ姿と、しぶとく、狭い心が特徴」

といった調子で好き勝手グレーディングと悪口を書き込む姿はさすが誇り高きゾーン10の元祖と言うべきだろう。

ついでに愛を持って断言するが、私がかねてより敬愛している先輩K○ッシーもゾーン10クライマーであることは周知の事実である。

(勝手に名前出しちゃってごめんなさい!許してちょんまげ)

そして、なんの突拍子もなく狂気じみた書評もどきを山岳会のHPに書き込んでしまう私も当然ゾーン10である。

いや!

どうせならバッツォの定義づけたゾーン10の限界などぶち壊し、ゾーン11、12と新たなる境地を切り開いてやるぞ!!

はっはっは!

センバー・ファルシシムス!

[PS]

今回のようなやり方でHPを更新させる事を思いついた時はその労力と不確かさに思わずたじろいでしまった。

 出来栄えは置いておいて。一冊の本を自分なりの言葉で筋立てられたことに一安心している。

“純粋遊戯”としての文字遊びの衝動。

もちろん承認欲求を否定するわけではない。

もはや僕を突き動かすものは

『僕の頭の中で起こった出来事を文字に起こさなければならない』

という謎の使命感じみたものであると自覚し始めた。

そう、理由など所詮は後から付け足されるものにすぎないのかもしれない。ナニイッテンダ

それはさておき

ここまで本を読み込んでも苦痛にならなかったのはバッツォのユーモアが飛び抜けたものだったおかげだろう。

Thank you Mr.Warren Harding!

[追伸の追伸]

実はこの書評ごっこ

どうしても書きたいと考えていたオチがあった。

選書もそのオチのためにやったと言っても過言ではない。

しかし、本編を半分ほど書き上げた頃にその文章が幾人かの人間を傷つける要素を多分に含んでいる事に気がつき、封印した。

チーン

僕は矢吹丈の如く真っ白な灰になった。

ささやかな文筆テロリズムは失敗に終わったのである。

言ってしまえば、僕は別に万人に受け入れられる人間を目指しているわけでは無いのだ。

というか、綺麗事では済まされないような、世の中どうしても相容れないものがあるという非情な現実を今までに身を持って知ってきた。オチコムナ!

どんなに人当たりが良い人間でも5%くらいは(100人居れば5人くらい)批判的に見てくる人間はいると思うのだ。

僕が途中まで構想していたオチは(八割五分くらいの)僕を取り巻く大半の人間にとっては至極痛快なものになっていたかもしれない。

でも

ク○がーーー!!

俺が書きたいのはそんなんじゃねーんだよ!!!

オレハ ナニニ ムカッテ キレテンダ?

はっきり言ってそのオチ以外は全て前菜に過ぎないつもりで書いていたので、”それ”を書き込めなくなった以上、この”書評っぽいやつ”そのものをお蔵入りにさせてしまいたい気持ちもあった。

しかし、それもなんとなくもったいなく感じたのでタイトルや前置き、その他諸々を大幅に改変させて公開したのです。

メッセージ性を自ら解説してしまうのは僕にとってはちょっと恥ずかしい気もするが///

オチが書き込めないのなら

その悲痛な叫びを代わりに書き込んでやる!!

ということです

“オチ”を書く為の本文が、途中で”叫び”をぶつける為のものにすり替わってしまったので、本編がかなりテキトーなものになってしまった。

それについては大目に見ていただきたい。

まあ、そうまでしても自覚なきところで誰かを傷つけてしまっているかもしれないが、そこまで考えるのは馬鹿馬鹿しいのでやめよう。

最後に、あえて一言言うなら…

コンプライアンスよ。

次は絶対負けねーからな!!!

ナニト タタカッテンダ??

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