師匠 三浦大介

書評

当会所属の三浦大介さんの書籍「中部山岳スティープスキー100選」がこの度、山と渓谷社から発行されました。

書籍紹介「80年代後半から日本のおもに中部山岳エリアにおいて、スキーアルピニスト・三浦大介氏がこれまで滑降してきたスティープスキーのルートをここに一挙紹介!
北アルプスをメインに東北を含むエリアから100座を選定し、ルートを紹介する。」

https://www.yamakei.co.jp/products/2822470080.html

一つ一つのルートに三浦さんの熱い魂が凝縮された書籍であり、どれかを選んで紹介するのは難しかったので、僭越ながらここでは三浦さんを師と仰ぐ私が、三浦さんと同行した際に感じた印象的な側面をご紹介することで、本書籍の魅力を少しでも多く伝えられたらと思っております。

岩菅山奥ゼン沢源頭滑降の瞬間

① 高い目標設定力と探求心
三浦さんは若い頃から様々な登山ジャンルで活動されており、最初から山スキーに特化していた訳ではありません。色々なジャンルの登山をやられてきた上で、最終的に打ち込む活動として山スキーを選択されました。
山スキーの中でも幾つかスタイルはありますが、特にスティープラインの開拓を中心に据えられ、「中部山岳スティープスキー100選」の構想を早い段階で持ちながら活動されていた様です。
こういった価値のあるテーマをライフワークとして活動されているというのは素晴らしい成果を残されている山屋さんの多くに当てはまる特徴でもあると思います。
特に新しい滑降目標を常に探し、見極め、研究しながら取り組まれている姿に研究者としての一面も重なり、三浦さんらしさを感じます。
その貪欲な探求心は雪のついた斜面のみならず、無雪期の沢登り等を通じた山への深い造詣、雪崩のメカニズムに関する知見、山道具選びなど細部に行き渡っており脱帽するばかりです。

ちなみに山だけでなく、仕事面でもしっかりと成果を出すことにこだわられており、私が仕事で役職もない様な時などは発破を掛けられ、仕事に取り組む姿勢にも影響を受けました。

ちょっとした休憩の間にもよく雪をチェックされている

② 慎重さと根気強さ
三浦さんと一緒に山に行かれた方の多くは、慎重さを特徴に挙げられております。
実際に山に行っても、現地の直接証拠、ピットチェックの結果から総合的に判断して、かなりのハイクアップをしたにも関わらず、引き返すことも少なくありませんでした。
三浦さんの活動はパイオニアワークにほかならず、大きな労力をかけたにも関わらず思うように成果が出ないことの方が多いように見えます。ストレスが溜まって無理をするか嫌になるのではと同行者目線で感じたこともありました。しかし三浦さんはそういったことなくじっくりと腰を据えて何シーズンもかけて同じ目標に何度もトライされており、その根気強さに只々驚嘆するばかりです。

三浦さんと何度かリスク管理の話になったことがあります。
曰く、リスク管理上の妥当なラインというのを精緻に捉えることが難しく、そのラインを上回った場合は事故るかどうかは運しだいということになる。したがって特に滑降に対しては原則としてアンダーに探って見極めていくしかない、ということでした。
場合によっては一定の事故リスクを負ってでもトライしたいということがあるかもしれませんが、それは色々なものを受け入れた上で行う例外ケースという扱いとなります。

なお、山ではヒヤリハットの分析がよく行われますが、三浦さんの行動スタイルはこの分析の積み上げだけで理解することが難しく、個人的にはレジリエンス・エンジニアリングの考え方が近いのではということで山岳会の例会テーマで発表させて頂いたことがあります。
こちらは当たらずも遠からずということなのか、三浦さんからも好評でした。

③ 圧倒的な情報量とロジカル&情緒的な文章
初滑降かどうかというのは非常に判断が難しいものですが、三浦さんは可能な限り資料や情報を集めて記されており、その裏側に圧倒的な情報量を感じされられます。書籍の中でもそのラインに関する補足情報なども出てきますが、インターネットでは知りえない貴重な情報が目白押しです。

また、三浦さんの文章は分析力の高さからロジカルな面がある一方で、そのラインに捧げた情熱や達成した時の喜びなどはとても情緒的な文章で綴られています。記録集でありながら読み物としての引き込まれるものがあります。三浦ワールドと言っても過言ではないでしょう。

マチガ沢本谷の滑降を終えて

最後に
まだ急斜面滑降ということ自体があまり取り組まれていない時代からこの活動をライフラークとして掲げ、Climb&Rideなど三浦さんならではの幅広い山岳技術を駆使した活動スタイルは、その先見性や独創性において日本の山岳スキー界における一つの金字塔になりうると思います。
是非手に取って読んでみてください。

ぶなの会

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労山(日本勤労者山岳連盟)加盟 ぶなの会の公式HPです。

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