[期 日]2023/3/4(土)
[メンバー]
ビッグワン
[行動経過(天候・タイム)]
3/4(土) 曇り後雪(ホワイトアウト)
02:50 ベースプラザ
04:10 一ノ倉沢出合
05:20 取付
05:40 登攀開始
08:20 オムスビ岩
11:20 ホルンピーク
14:10 ドーム基部
14:40 Aルンゼ下降点
17:00 国境稜線
19:50 ベースプラザ

一ノ倉沢の深奥からドームへ向かって突き上げる一筋の稜。
6年前M中さんと東尾根へ向かった際、その雪稜は圧倒的な存在感を放っていた。一ノ倉から発する重圧も相当なもので、今思い出しても手の平がじんわりとする。いつか登ってみたい。今でも頭の片隅にずっと残っている。
2月末友人と滝沢リッジを計画するも冬型が迫り中止となった。年明けから気持ちが入らない日々で山の巡りも芳しくない。悶々としていた日曜の昼過ぎ。ふとchromeに残していた谷川の天気に目をやると、次の土日の気圧配置は悪くない。降雪は木曜にあるが金曜日から曇りから晴れ間が続きそうであった。
何の理由もない。ただ登りたい。そう思った。
すぐさまパッキングを済ませて、来週に予定していた引越し作業を前倒しした。
登ると決めてから眠りが浅い。本谷に向かって落ちていく自分の姿が何度も何度も過ぎった。全身が恐怖に支配されてしまっていた。怖い。
こんな経験は初めての事だが、誰かに話して解消される訳ではない。自分自身と山と向き合わなければならない。
自宅で2:30程仮眠した後ベースプラザへ。何故だか現地に着く頃には恐怖よりルートへの期待感が勝ってきた。駐車場ではクライマーたちが黙々と準備を進めている。知り合いも同じルートを登る様だ。身支度を整えて未明のベースプラザを後にする。足取りは軽かった。
先行Pは3スラ目的の様でトレースが続いている。一ノ倉に入ると時より雪崩音がこだまする。日の出前も雪崩れるのか。
先行は2ノ沢方面に向かっていき、リッジ基部までトレースを伸ばす。辺りがほのかに見える頃取付きに着く。
アンカーにスノーバーを横埋めしてロープを付けた。ここまで来たらやれる事をやるだけだ。

1P目:
スラブを首尾良くこなす。警戒していたピッチだが、スラブの雪付きは悪くない。懸垂して登り返しの頃に知り合いPも登り始める。
ここからオムスビ岩まで藪雪壁を延々と攀じる。ロープは垂らしたままにして、時より絡まない様ロープアップした。ブッシュを掴んで力で登るのであっという間に前腕が攣った。有難い事に心配していた雪質は程よく締っており丁度良い。
2P目:
オムスビ岩基部に上がり、ベルグラの張ったスラブをだましながら一段上のバンドへ。
そこからトラバース出来るかと思いきやまたもやスラブ。右上気味に登って岩の側面に一歩降りてオムスビ岩上へ。ここは基部から巻いても良かった。

ここからP1の弱点を辿りながら登ると視界が開けた。ホルンピークへ続くリッジは見た事がない程鋭利だ。ロープはザックに仕舞いアックスでテスティング。足場も一歩一歩丁寧に組み立てて進んだ。
ホルンピークは滝沢側にトラバース。残置で15m程懸垂。そこからロープを出し、トラバース気味に登り返す。プロテクションはスノーバーとブッシュで取れる。この頃からホワイトアウトして視界が効かなくなった。

再びドーム向けてスノーリッジを進むが、先ほどよりも状態が悪く表層の新雪が不安定だ。リッジの刃先にシャフトを刺すと、厚み10cm程切れて二ノ沢側へ崩れていった。
延々と思える雪稜を登り続けると薄らとドームを視界に捉えた。
5ヶ月前のドームもガスで見えなかったな。とふと思う。
ドームのトラバースも一歩一歩着実にトレースを刻んだ。後半下り気味にトラバースしてレリーフに向かって上がる。ここの雪が悪く危うく足を取られそうになった。背筋が一気に凍る。「集中力を切らすな」。息を整えながら自分に活を入れ直す。残りの数mを丁寧に足場作りしてレリーフまで。

秋には見つからなかった立派なレリーフ。60m一本でAルンゼへ降り立つ。
意外にも雪が深く股辺りのラッセルが疲弊した身体に堪える。二ノ沢右壁から来たパーティと交代しながらジリジリ進んでいく。足は攣るし息も切れる。けれど間違いなく稜線は近づいている。
左の尾根に上がり傾斜が落ち、最後にアックスを突き刺して雪壁を越えると、ホワイトアウトした強風の稜線へと抜け出た。
疲れ果てて膝を突く。僕はやり切った。やり切ったんだ。

すぐ後からやってきたパーティと互いを労った。居心地が悪いので早々に下山に取りかかる。肩の小屋で彼らと別れを告げ、1人天神尾根を降りていく。
日が沈むと3スラの時と同じく、美しい月明かりが優しく下山路を照らしてくれた。
