◆S藤H明

2ルンゼは、去年、M恵さんが墜落した、3ルンゼのお隣なので、緊張の面持ちで臨んだのでしたが、そんなに難しくなくもなく、クラシックなザッテル越えなど、変化があって、なかなか面白かったです。台風の名残りで、朝方まで雨がパラつきましたが、風があり、涼しく、むしろ快適でした。

稜線に抜けるまで、記憶が正しければ、21ピッチもありました。ほんとうに疲れました。

<2ルンゼ>9ピッチ

核心といわれるピッチは、高さも傾斜もあって、見た目、少し恐いのですが、難しくはありません。しかし、ヒロケントポでⅢ+となっているようなピッチの方が、濡れたヌルヌルの垂壁があったして、むしろ手強かったです。

途中から、頭上に大きな菱形の穴が見えてきます。ザッテルです。ザッテルはドイツ語です。フランス語だとコル、日本語だとタワ(弛、正しくは撓、山の稜線の凹んだところ)です。ここのザッテルは、かの滝沢リッジが弛むところです。

ピンの状況は全体的によろしくありません。置残ハーケンが中心で、錆びてポロポロかゆるゆるです。

<ザッテル先のルンゼ>6ピッチ

ザッテルから懸垂して、降り立ったルンゼの右肩のフェース状をひたすら直上しました。このあたりは、Ⅲ~Ⅳの登りですが、40mくらいノーピンになります。時々、傾斜もあり、細かく、難しい動きも少し出てきますので一歩一手、息を飲みます。

支点は主にハーケンで新規に作りました。所々、カムが決まります。

このフェースをマッターホルン状岩峰の基部まで登り詰めると、あっさりとBルンゼに出ました。

<Bルンゼ>2ピッチ

Bルンゼはプロテクションも支点も何もなし。当然、延々ランアウト。支点はゆるいハーケンです。ヌルヌルの滝など少し厳しいところもありましたが、概ね快適でした。

Bルンゼは、いつしか、広大で急峻な草付きに吸い込まれます。

<草付き~笹藪・灌木帯>5ピッチ

草付きは、落ちたらイチコロなので、灌木など良い支点があれば、短くても、その都度、切りました。

フィナーレは、笹と灌木の藪に突っ込み、ガスと暗闇の中、ヘッドランプの灯りを頼りに、宙吊り木登りに喘ぐと、ひょっこり、登山道に飛び出しました。この辛い登りが、いったいいつまで続くのかと、暗澹とした気分でしたが、助かりました。

肩ノ小屋は、営業していましたが、全員寝静まっていました。なんとしても、降りて、冷たいビールを飲もうと、西黒尾根、岩剛新道を下って、マチガ沢の出合いに降りたのは23時半でした。疲れました。全員、缶ビール一本で爆睡でした。

 

◆K藤U司

まだ夜の明け切らない暗い空には雨雲らしきものがすごい速さで流れ、雨は絶対に降るなと思わせたがそれも杞憂にすんだ。一ノ倉ニルンゼ、ほんとに久々の谷川でクラシックを堪能したという感じでした。ザッテルに辿りついたとき目の前に広がった光景はつかの間わたしをひょっこり桃源郷にでくわした迷い人の気分にさせてくれました。

ところでいま傍らには残置ピトンは残すべきか否かということがあつーく語られている記事の載った雑誌がある。2006年の雑誌だけどね。いつの時代もこの類の論争はある。そしてオールドクライマーは一本のさびたハーケンをさかなに一杯やる。これも古今東西いずれもおなじ。そういえば「さらば提督」もクラシックだよなあ。これは今みてるテレビのはなし。

◆S口M恵

去年すぐ隣の3ルンゼの、稜線まで数ピッチというところで墜落、開頭手術までする大怪我をした。頭を強打しながらも自力下山したが記憶障害を起こしていて、墜落直前から稜線に抜け駐車場にたどり着くまでの記憶が全く無い。そのためずっとなにか損をしているような気分になっていた。

今回2ルンゼを登り稜線に抜け同じ道を歩けば、去年のなにかをとり戻せるかな???

テールリッジはいつもどおり乾いていて気持ちが良い。2ルンゼもこんなかんじだったらいいのにと思うが、そんな訳ない。なにしろルンゼだから、まるで沢のぼりである。岩は濡れ濡れ、ピンは揺れ揺れのお約束通り。上部草つきは滑るわ滑るわ。ここはたぶん沢靴のほうがあっているでしょう。

稜線に抜けたら真っ暗だった。去年は血を流しながら、真っ暗な中同じ道を下山したのだ。本人は記憶が無いので気楽なものだが、一緒に居た英明氏の心境は、大変なものだったろう。いやはや。スミマセン。

一年ぶりの一ノ倉は変わりなかった。30年程前、始めて入った頃からも全然変わっていない。

◆I嵐F彰

天気予報は晴れなのに、一ノ倉の駐車場は時折雨がパラつく生憎の空模様。夜が明けてみると、ものすごいスピードで雲がどんどん流れて行きました。そんな台風の影響がまだ残っている中、登攀はスタート。

風があったのと、雲で日射が遮られたおかげで、満を持して荷揚げしたヴァッサー(水)3Lは肩に食い込むお荷物になってしまいましたが、駐車場に戻るころには空っぽになりました。そんだけ長い時間の行動でした。

昼ごろにはザッテルを越えるペースだったんですけど、そっからが他の記録同様に時間がかかってしまいました。ザッテルから見るA~Cルンゼは、稜線こそ明瞭では無いものの、もうちょっと登れば抜けるように見えたんですが・・・世の中甘くありません。現場に行くと、ヌメヌメ、ドロドロ、ズルズル。あー、もうたくさんって感じの沢のツメです。ルートは判然としないし、薮も漕ぐしで、なにかと時間かかりました。

ザッテル、マッターホルン状岩壁、ドーム、どの言葉をとってもスイスアルプスを意識したネイミングですが、ここはやっぱり谷川岳。正真正銘ジャパンアルパインルートに、雪は当然、乾いた岩なんてどこにもありません。ひたすら、べちゃ泥のついた草と、濡れて苔むした岩肌を丁寧に登る、どっちかというと草の匂いをかぎならのジャングル探検チックの登攀でした。まぁそれが、日本人にはなつかしかったりもするんですけどね。というわけで、ネイミングと現場のギャップが大きいルートをまる一日以上堪能しました。