メンバー:M藤L、H田

~回想~
2017年4月3日
雄滝の手前からデブリは途切れること無く稜線まで続いている。
雪崩の恐怖に震えながら沢筋を詰める。
何度も同じ会話を繰り返す。「気温は?」。「マイナス10」。
いい感じに冷えている。前方2,800m付近に見えるカンテ状地形を回り込めば狙いのルートの全容が拝める筈だ。
薄い酸素に息を切らせながらカンテを回り込み、愕然とした。

ベルグラを纏い白く輝く筈のルンゼは、黒く陰惨な表情を浮かべる。
これでは無理だ。
「チクショウ!」壁に一喝し、陽の光から逃れるように駆けくだる。
積雪期の滝谷三連敗。昨年と同じくリベンジ山行としてドームへ向かう。
 
 


9月3日
アップと冬季の下見としてドーム中央稜へ。
積雪期に来たときは懸垂点まで迷うことなくたどり着いたのだが、無雪期は間違い踏み跡が多く煩わしい。

1ピッチ(M藤)
フェースからチムニーへ。フリクション頼みになるチムニーはアイゼンで登るには難しそうだ。

2ピッチ(H田)
正規ルートはカンテ右側から左へトラバースだが、先行パーティに導かれてカンテ左の凹角へ。
間違いだが、このクラックラインは1グレードアップし面白い。

3ピッチ(M藤)
歩き。あまりにモタモタする先行Pに声掛けして先に行かせてもらう。

4ピッチ(H田)
凹角を直上しチョックストーンを越える。快適。

5ピッチ(M藤)
凹角を直上しハングを越える。快適。

(感想)
「中央稜」ではなく、「ドーム右稜線」という名前が正解と思います。

 
 
 
9月4日
ドーム西壁 スベニールドタキダニ。

Bフェース東海山岳会ルートからAフェース歯科大ルートへ継続するルート。歯科大2ピッチの目出だしをオリジナルライン(人工での直上ハング越え)から離れ、左側からハングを巻くように越えるフリーのラインが、スベニールドタキダニ。歯科大ルートは登攀記録を探せなかった。
北壁基部からルンゼを懸垂交えてBフェース取付きバンドへ下降する。バンドを奥へ進み、去年登ったニューウェーブを見上げる。壁中央を貫く素敵なラインだ。
左に月稜会ルートがある筈だが、見当たらない。去年確認したAフェースの月稜会のボルトラダーは相当腐食が進行していたので、Bフェースの残置は朽ちてしまったのか。更に左にクラックラインが3本ほどあるが、右2本はクリーニングが必要な感じだ。登られている様子が窺える左のクラックを登攀ラインとする。

1ピッチ(5.9)H田
ロープを捌くH田さんの横顔は黒紫のチアノーゼ。頭上の小ハングは、「鈍くライム色に輝くセラック」に見えるのだろう。そうだ、今年もここはマカルー西壁なのだ。聳えるドーム壁、足元には深くC沢が切れ落ちる。
カムでビレイ点を構築し、フレーク状のクラックを直上する。残置は多少あるが、頼りないものが多い。カムでランナーを取りながら、複数走るクラックを繋げるように上部ハング帯へ。
ハングの左端を乗り越えると、傾斜が落ちる。ガレたフェースを落石に注意しながらビレイ点へ。

2ピッチ(Ⅱ)M藤
歩いて終了点へ。崩れた岩陰のひしゃげたぺツルは健在だ。

3ピッチ(Ⅳ)H田
Aフェース基部からバンドを右上する。去年はアプローチにしか感じなかったのだが、ガレて悪く感じる。
ニューウェーブとの分岐を過ぎ、大ハング下のビレイ点へ。

4ピッチ(5.10a)M藤
ハングを直上するボルトラダーの先からハングを回り込むライン。
「ハング下に1番をセットし、ハンドジャムを決め、豪快にハングを乗り越した。」という感じを期待していたのだが、目の前には手掛かりの無い、つっるツルのフェース。ジャミング不可。
「こりゃ、A0だろ。。」的なルックスに緊張が走る。H田、再びチアノーゼ。
ハング下にカムセット出来る場所がなく、エイド用の下向きハーケンをありがたく使わせていただく。
フラッキング、乗せ換え、ハイステップという、実に「10a」らしい足使いを繰り返し、ハング越えのフレークを掴みレイバックの体勢に入る。「もらった」と身体を上げた瞬間に足がスリップしてフォール。。
「チクショウ!」。
このあとはA0混じりに攀じる。としておけば良いものを、強引にビレイ点までクライムダウン。「こんなんじゃダメなんだよ!」と自分に喝を入れる。
精神集中後、リスタート。下部を慎重にこなしフレークへ、膝と肘でスタックさせ窮屈な姿勢でカムを決め、何とかロープクリップ。ハング上へ抜ける。
見上げる凹角はどこまでも続き、天空を貫くようだ。心が高鳴る。
壁と対峙し攀じる。一手一足が愛しい。次第に空が広がる。後ろ髪を引かれる思いで、最後のガバを掴みテラスに抜けた。
フリーで上がってきたH田さんと握手を交わす。去年のそれとは明らかに力強い右手が頼もしく、嬉しくもある。
 
 
 
 
感想(M藤)
菊地敏之さん著書にある「左上凹角は西壁の白眉といえるフリーが味わえる」との記載に間違はない。滝谷の頂上3000メートルで至福のひととき。
ハングはチョンボでも越えれるが、それでは「五常なれども白眉にあらず」となってしまうだろう。
ルート名の「スベニール・ド・タキダニ」は、直訳すると「滝谷の思い出」となるのかも知れないが、ハング上から見上げる凹角は素晴らしく、「滝谷の贈り物」と訳するのが相応しいと思えた。

感想(H田)
今年も懲りずにドーム西壁。冬に来ても夏に来ても滝谷は滝谷。異様な威圧感。ちょー強面。
Bフェースはクラックラインを素直に登るも所々ホールどガタガタ。これも滝谷。Aフェース下部は去年より荒れててガレガレ。これも滝谷。核心のハング超えからのぶっ立ち凹角クラックの高度感。これも滝谷。滝谷満喫!滝谷最高!