谷川岳 一ノ倉沢滝沢下部ダイレクト~第三スラブ~Aルンゼ 2022/10/15-17

アルパイン(夏)

[期 日]
2022/10/15(土)~17(月)

[メンバー]
Lビッグワン(記)、K谷(会員外)

[行動経過(天候・タイム)]

10/15(土)晴れ
03:05 谷川岳インフォメーションセンター
03:40 一ノ倉沢出合
05:40 南稜テラス
06:50 滝沢下部取り付き
17:00 F1下ビバーク

10/16(日)晴れ後霧・深夜に時より小雨
06:00 ビバーク地
13:15 F6終了
14:40 第二第三スラブ間のコル
18:30 Aルンゼ下降支点
26:20 国境稜線

10/17(月)晴れ
03:05 熊穴沢避難小屋(仮眠)
07:20 小屋発
08:10 谷川岳ロープウェイ

———————————————————————

[ルート概要・特記事項]

睡眠時間を確保する為、21:00頃にインフォメーションセンター着。パッキングを済ませシュラフに潜り込むが、登り切れるか不安で中々寝付けない。

いつも通り3:00に駐車場を後にして一ノ倉沢を目指す。先月3ルンゼに登ったから暗くてもアプローチは問題なくテールリッジの途中で視界が明るくなる。

夜明け前のテールリッジ

南稜テラスから本谷に降りて滝沢下部を目指す。緩いスラブ面だが下りはやや怖い。右岸側に寄りつつ、クライムダウンしながら取り付きへ。滝沢下部を見上げるとしっかり水流が流れてハングから飛沫が拡散している。

6月に友人がトラバースルートから3スラに繋いでいる。脆くて悪いとの話だがダイレクトは果たしてどうか。滝沢を目の前にして胸がザワつく。

1P目:ビッグワン

階段状のスラブを登り逆層垂壁手前の残置でピッチを切る。大系や記録にはハーケンボルトが連打されていると記述がある。しかし、近年登った話を聞かないからか中間支点は1つも見当たらない。

2P目:K谷

逆層垂壁をエイドで乗越しクライマーライトの凹角を覗くが残置は僅か。左はリスやクラックを繋げられそうなのでそこから登る事にする。苦戦を強いられるも、ネイリングやカムをセットし慎重に進んでピナクルまで。途中幾つかカムを間引いたので、フォローは途中でユマールに切り替えた。

上部から時々落石音がこだましている。この時期でも自然落石はあるのか。

3P目:ビッグワン

斜状するハング下のスラブをカムエイドで登る。フリーで行けるらしいが濡れていてヌメヌメ。残置は途中にボルトと懸垂支点が各1箇所のみ。やはり残置はないと思って登らないといけない。見つけたリングボルトも最上段立ちして身体を伸ばしてもギリギリ手が届かず行ったり来たり。#0.75が決まる箇所を見つけクリア。

10m先で#2が欲しい所で手持ちがなく、ハーケン薄刃重ね打ちと岩角にタイオフで終了点を作成し、ハンギングビレイでK谷を迎える。

対岸のダイレクトカンテにいたNG野さんからガンバコールが聞こえて元気が湧いた。

対岸のダイレクトカンテPより。ダイレクト2P目登攀中。

4P目:K谷

残り10mをエイドで落ち口へ出る。そこからY字河原へは緩いスラブ面が続き、なるべくロープを伸ばした。
この時点で16:30。大分下部に時間を掛けてしまったが第一関門は突破した。

遙か先にはドーム壁が鎮座している。4P目のビレイ点から30m程ロープを引いていき、第三スラブF1下に座って足が伸ばせそうな岩の平地を見つけツェルトを張った。スラブから落ちない様に横にロープを張りセルフを取った。タイベックを敷いてツェルトを被ると思いのほか暖かい。

夜はプラネタリウムに匹敵する満点の星空が美しくずっと眺めていられる。贅沢な場所でビバーク出来る幸せ。束の間の安息の時間だ。パートナーは壁のビバークは初めてと事だったが楽しんでくれただろうか?

翌日。夜明けに合わせて支度を始める。一ノ倉沢出合から光がチラホラ。昨日は沢山動いたので前半は熟睡。その後も岩に寄りかかる姿勢を変えながらウトウト出来たので割と休めた。

谷川ビバークはいつも良い思い出。

5P目:ビッグワン

10m程簡単なスラブを登ってからF1右壁からリッジ状に乗越し第一バンドまで。
スラブから一瞬悪い所を跨いで岩に取り付く箇所が緊張する。ランナーはイボイボやスモールカム。終了点はアングルとエイリアン黄色。

6P・7P目:K谷

流水溝を辿り快適スラブを登っていく。ギアの消費が少ないので次のピッチも國谷君にリードして貰い第2バンドでピッチを切る。岩は硬くて快適だがリスに乏しい。

8P目:ビッグワン

F3左壁の濡れたスラブから垂壁。クライミングの強度は高くないが支点を取れる場所が限定的且つ滑りやすく慎重に進んでいく。
イボイボとハーケンで固め取りして剥がれそうなブッシュで身体を引き上げて垂壁を越える。ここだけ岩も崩れそうに脆く嫌らしい。
4F下の木でビレイ。

9P目:K谷

ハング下を右上する様に登り、途中から第二スラブ側の傾斜が若干緩んだ所でピッチを切った。F4のハング下からスラブを右上する数mホールドが細かくスリップに注意して登る。

緊張感の絶えないスラブ登攀

10P目:ビッグワン

Ⅲ級の簡単なスラブ。F5の下まで特に問題はないが、終了点作成に手間取る。結局イボイボ1本でビレイした。
F5から最後のF6まで見渡せて右側のスラブ状リッジから越える事に決める。

11P目:K谷

F5は左壁のスラブから上がり、そのままF6右のスラブ状リッジへ。
リッジは乾いた岩の細かいスタンスで、立ち込む3スラの中で1番今日的な登攀内容。

12P目:ビッグワン

第2スラブ間のコルを目指しスラブを駆け上がる。ロープが水を吸って中々に重たい。
60m弱上がって所で一旦ピッチを切る。

13P目:K谷

20m先に見えるコブ岩の付け根がコルだと思いロープを伸ばしたが失敗。一旦クライムダウンした後、3スラを更に詰める。ロープが一杯になってからはコンテで進み、ようやく第二スラブ間のコルへと出た。
やっと腰を落ち着けたので久しぶりの水を飲む。コルからドームまで目視出来たので、笹藪が濃いラインをお互い確認した。草付き帯はロープを1本にし、ビッグワントップにてランニングコンテ。

コルより上部草付帯

計画段階から悪い噂しか聞かない上部草付帯。取り付き始めてから早々に霧が立ちこめて一瞬で視界が奪われてしまった。先程ルーファイ出来たのは幸運だ。適度にスリングでランナーを取りつつ進む。ライン上には踏み跡が見受けられ、所々露岩があるが総じて草はしっかりしている。ただノーロープだと相当プレッシャーがかかるに違いない。

弾が減った所でトップをK谷君に交代する。暫く登るも中々ドームに辿り着かず、再びトップを交代した頃には日も暮れた。

更に20m上がった所で大きな露岩帯に着いた。恐らくドームだが暗闇と霧で何処だか分からない。おまけにヘッデンの光が霧で拡散されてしまい、周囲3m程度しか確認が出来なかった。残置も見当たらないので、ひとまずアングルが決まる場所を探し出してK谷を迎え入れる。

計画だとドーム横須賀ルート登攀だが全く見当がつかない現状。Aルンゼへ下降し200m登って稜線を目指す事にした。入山前の予報だと月曜日は雨の為今夜中に稜線へ出たい。

Aルンゼ下降点。下降前の下の様子は不明。

ドームの基部バンドを横にトラバースしていくと古い下降点の残置を発見。Aルンゼは霧が立ちこめて目視はやはり叶わず陰鬱な様相を呈している。

K谷君がトップで下降しすぐに姿が見えなくなる。トポには30m懸垂とあったが念のため60m2本使用したのが功を奏した。センターマーク越えても下には着かず結果50mでルンゼに降り立った。降りてみると途中から空中懸垂になっていた。

いざロープを引こうとすると2人でマイトラ噛まして引いて数cm動くかどうか。結び目はずらしてきたが、ロープの濡れと摩擦で動きが非常に鈍い。がむしゃらに綱引きを続けた。すると1m程一気動きロープが動き出した。ホッとしたのも束の間、ロープたぐり寄せると内皮が思いっきり飛び出していた。恐らくせり出した岩に擦れたのだろう。
何とか回収を完了し、K谷トップでAルンゼ登攀を始める。

Aルンゼも詳細な情報がなく、2ルンゼと同等の難易度との事であった。その通りで小難しい小滝やエイドが必要なCS滝が矢継ぎ早にやってくる。しかも全く視界が効かないので、ルート選定にかなり時間を費やした。ルンゼ内は岩の墓場で、今までと対照的に浮き石が多い。コンテとスタカットを切り替えながら登攀。途中、ビッグワンが浮き石ごと2m程落ちてしまった。長時間行動で注意力が散漫になっている。幸い左股の軽い打身で助かった。引き続きK谷にトップをお願いする。

空腹と眠気に襲われたりもしたがお互いに鼓舞し合った。特に自分がこの谷川からのプレッシャーと恐怖に打ち負けてしまわな為に声を出した。時間が掛かっても確実に高度を稼せごう。この標高差200mを登るのを必死に努める。

CS滝から一旦なだらかになるも早々に露岩に当たる。所々残置が軌跡の様に現れ、昔の岳人がそこにいた事を示してくれて希望がでる。
露岩は岩の摂理が豊富でカムで支点を取れる反面滑りやすい。湿気も飽和していて時より雨粒を肌で感じた。

4ピッチ程登った所で岩にバンドが走る様になった。バンドを右に左へ辿り暫くして草付き小尾根に出て踏み跡も確認出来る。

K谷君が藪トラバースを始めた。節電でヘッデンを切ると僅かながら地形のシルエットが見えた。天気が僅かに好天した。改めてK谷君の方を見ると薄らではあるが、双耳峰の様な地形が確認出来た。トラバースの先は切り立った崖が控えていて、それを登るのは困難が予想出来る。一旦戻って貰い、ビレイ点正面の岩場から上の藪に向かう。程なくしてコンテのコールがかかり登り始める。10m程度の岩場を越えると草付きに変わって傾斜が落ち着いて歩きやすい。空との境界線を目指して登り続けK谷の姿が視界に入る。

「出ました!」その一言で、形容し難い重圧から一気に解放された。やっと終わった。そして登り切った。

時計に目をやると深夜の2時20分。あれだけ視界が無かった筈なのに、稜線は雲が抜けて星が輝いている。月夜に照らされ白毛門や仙ノ倉の国境稜線が見えた。知っている景色。もうそれだけで充分だ。

各所へ連絡と登攀具を片付けて歩き出す。稜線を吹く風が冷たく全部着込んでも暖まらない。もうすぐ冬が来る。
ずっとクライミングシューズを履いていてから親指がジンとして痛い。ただ痛い感覚ですら愛おしく今生きている事を実感出来る。

天神尾根を下り熊穴沢避難小屋で2時間仮眠して始発のロープウェイまで時間調整。目覚めると当初の予報に反して穏やかな晴れ間が広がっていた。
全てを絞り尽くした山行だった。ただ上を目指し自身の気力を頼りに登り続けた。

下地となる登攀力をはじめ、全体のタクティクスやルートファインディング、判断力…自分の未熟さが手に取る様に分かり苦味が残る。一方で1000m以上の長大な登攀距離を誇り、多様な技術を必要とされる3スラから学んだ事も多い。
現状の実力を受け入れて次への糧へとする他無いのだ。

関連記事

特集記事

コメント

この記事へのトラックバックはありません。

アーカイブ
TOP
CLOSE