谷川岳 一ノ倉沢衝立岩 雲稜第一 2018/5/12

アルパイン(夏)
鉄の時代を象徴する歴史あるアルパインルートですが、弱点をついたライン取り・要所で緊張感のあるフリーあり素晴らしい内容でした。
初登者:南さんのラインを見極める眼力、フリー化した池田功さんの胆力、改めて二人の偉大なクライマーの凄さを感じられた、そんな山行でした。
[メンバー]
KL、I田(会員外)
[行動経過(天候・タイム)]
5/12(土) 晴れ
00:00 ベースプラザ発
01:00 一ノ倉沢出合いにて仮眠
04:00 起床 準備し出発
06:00 雲稜第一 登攀開始
14:20 雲稜第一 登攀終了 のち中央稜下降
【ルート概要】
深夜のベースプラザ、寒さは感じない。少しでも仮眠時間を多く取りたいので、一ノ倉出合いに向かう足も自然と速くなる。2カ月前まで雪に覆われていた林道は、全くその面影を残していない。
予定どおり1時に一の倉沢の出合いに着、3時間仮眠取れるので大分楽だ。
4時に起床し準備をしていると数パーティー入ってきた。スギローの知り合いがいて挨拶を交わす。彼らは烏帽子南陵を登るようで、この日は他にダイレクトカンテに1パーティー入っていた。
テールリッジを登り、中央稜基部に荷物をデポ。衝立岩を見上げると、第一ハングから洞穴ハングまで一直線に突き上げる雲一の登攀ラインがハッキリと分かる。まさに衝立岩を正面から登攀する見事なラインに胸が躍る。
アンザイレンテラスまではフィックスが確認出来たので、ノーロープで登る。トポ記載通り濡れた藪を登るので、不安ならロープを使った方が良いかもしれない。
アンザイレンテラスはボルトが乱打されており、しっかりしたペツルもある。
ここから衝立の頭まで登攀距離は約320m、見上げる衝立の堂々と、黒々とした岩容が青空に映える。
圧倒的な岩容に威圧されるのかなと想像していたが、不思議と緊張感は無くむしろワクワクしている。それはパートナーも同様のようだ。いつも通り、ロープを捌き、ジャンケンで登攀の順番を決める。
ジャンケン勝ちの郡からリード、以降つるべで登攀を開始。
1p目:(K) Ⅴー 25m 垂直の凹角
ビレイ点から直上にピカピカのリングボルトが打たれているので、まずそのラインを検討するがⅤーには見えないので却下。
あきらかな弱点の左側の凹角を登ってみるとリングボルトが続いているので、ここを直上する。プロテクションは良好。
二人用テラスにはリングボルトとペツル打ってあり、2ピッチ目の落石を考慮し、なるだけ左側で支点作ってピッチを切ったほうが良い。
2p目:(I田)A2(5.11d) 40m 第一ハング
ビレイ点より左側の凹角を直上しハング下を右トラバース、第一ハングを超えるピッチ。
トラバース手前は大きなフレーク状の岩が積木のように重なっている状態でかなり悪い。パートナーは入念に岩を叩いてチェックしながら慎重に越えていく
ここからの落石はビレイヤーを直撃するので、不用意に登るのは非常に危険。
第一ハングを越えると小ハングがあるので、それを左に回り込むように越して、ペツルが打たれたビレイ点でピッチを切る。
このピッチ、82年に「グリズリー」の核心ピッチとしてフリーで登らているが、フォローでもフリートライする気すら出なかった。
3p目:(K)A2(5.11b) 40m 第二ハング
凹角を直上後に右トラバースし、第二ハングの右側壁を超えてくピッチ。
高度感が素晴らしく結講楽しい。プロテクションは比較的まともなので軽快に進めるが、ボロく錆びたハーケンには変わりないので要所要所で墜落に備えカムでバックアップを取りつつ進む。
リングボルトが乱打されたビレイ点でピッチを切る。このピッチのライン取りは見事だと思う。初登者の南さんには予めこのラインが見えていたのだろうか?
4p目:(I田)A1(5.11a) 30m
ビレイ点左側の薄かぶりのフェースを6m程直上し、外傾バンドを左にトラバース、のちの草付き凹角を直上する。
外傾バンドのトラバースは難しくはないが思い切りがいるセクション。トラバース後の草付き凹角は濡れていてかなり悪い。
突如、隣のダイレクトカンテを登るパーティーから絶叫が聞こえてきた。察するにピン抜けで墜落したようだが、幸い大事には至っていないようだ。
5p目:(K)A1(5.11b)30m 第三ハング
スカイラインに向けて左上していくチムニー状の凹角があるので登るラインは明確。
このピッチが最もプロテクション状況が悪く(そして少ない)、触れただけで崩れ落ちるハーケン散見で残置類は全く信用できない
幸いクラックが発達しているのでマイクロカムやボールナッツを駆使し、残置は無視する意識で登ったほうが良いと思う。
ただし脆い岩もあるのでセットには入念なチェック必要。このピッチが一番精神的に削られた。
リングボルトの打たれたパッとしないボサテラスでピッチを切る。
6p目:(I田)Ⅴ 40m ルンゼ
特記事項なし。苔と泥が酷く、不快なピッチ。洞穴ハングの直下でピッチ切る。
7p目:(K)A2(5.11c)15m 洞穴ハング
ハングの左側壁を回りこむようにして越える。ここもブランクセクションあるのでカムを駆使して越える。
A2とあるが体感は簡単なA1程度。ただしカンテを回り込む要所のハーケンでかなりボロいのがあり、もしそれが抜けたらハーケン打ちにくい位置にあるので大変だと思う。
フォローのパートナーは3P目に続き、ここもフリーで突破してきて流石だった。ビレイ点はペツルと比較的新しいリングボルトあり。
8p目:(I田)Ⅲ 60m チムニーから段状のフェース
特記事項なし。トポ通りチムニーから段状のフェースをロープ一杯伸ばす。
9p目:(K)Ⅲ 30m
特記事項なし。途中不明瞭になり適当に藪こいで衝立の頭に着。途中でてくるフェース面を右に登ったほうが正規のラインで快適かもしれない。
【感想】
このルート、トポやネットの情報だとボロ壁・危険度の高いルートと言われていますが、個人的にはそれほど酷いとは思えませんでした。
確かに岩は脆く、支点の老朽化も進んでいますが、弱点をつきハーケン主体で開かれたルートなので、マイクロカムやハーケンがあれば十分に対応できると感じます。
登攀時間については最悪10時間、場合によってはビバークも想定していたので、登攀時期は日が長く、雪渓によりアプローチが楽な5月中旬で考えていました。
結果的にタクティクスが上手くはまり、終日安定した天候とピン抜け等のトラブルも無く運も味方し、ここ最近の記録の中では、かなり早い時間に登攀を終えることが出来ました。
大した経験もないですが、自分が登った無雪期のアルパインで一番充実しました。
同行してくれた頼もしいパートナーに感謝です。
【特記事項】
・小さめのボールナッツ、マイクロカム、エイリアンは多用した。キャメC3#000などの極小もあったほうが良い。
・キャメC4#0.5~#2はあっても良いが使わなくても対応できる。リンクカムがあればそれで統一した方が合理的。
・ハーケン、リベットハンガーは今回使わなかったが状況により必要と思われる
・スカイフックは不使用。使った記録もあるが、個人的には使はなくてもカム類で対応できると感じた。

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