冬、戸隠に入るのは去年2月のP1尾根に続き2度目。
奥社‐八方睨ルートはエアリアでは一般登山道になっているけど、核心部ナイフリッジ通過と、トレースがない場合の尾根下降ルーファイはP1以上に難しいのではないかと思う。
登山道は奥社裏の尾根から百間長屋の岩壁基部をトラバースし尾根を乗り換える感じで上部に繋げるが、地形図を見ると西窟尾根の方が長く本尾根のように思える。
という事で、八方睨へは西窟尾根から繋げるプランとし、記録の乏しいこの尾根に向けて、雪の無い11月に尾根末端までのヤブ漕ぎ、雪のある12月末に積雪状況確認の為の参道ラッセルと二度のアプローチ偵察を行なった。

●1/7 晴れ時々曇り
7:30 奥社P出発
17:30 最終ピッチ終了
19:15 テン場
22:30 就寝

戸隠スキー場のHPでは年末より積雪量が50cm増だったが、付近は思いのほか雪は少なかった。
心配された奥社Pから隋神門まではトレースがあり、参道ラッセル敗退は免れた。
以前、1月に八方睨を計画したパーティは、ラッセルが深く奥社までも到達できなかったと聞いていたので猛ラッセルを覚悟していたが、幸先良いスタートとなった。
隋神門でワカンを履き、遊歩道を5分ほど進んだところから道をはずれ、地形図で最短距離を狙いながら西窟尾根1410ピークめがけ急斜面をラッセル。
尾根に乗るとしばらくは水平移動だが、すぐに斜面となる。尾根が細くなる頃から風が吹き始め、小さいながら雪庇が出始める。地形図では1480mに岩壁マークがあるが、特に何もなく通過。
ノーマークだった1560m付近で雪壁となり、ワカンをアイゼンに履き替え最初のロープを出した。
その後、ヤブと小岩峰を幾つかかわしながら進むと、岩壁にぶちあたる。
直登はまず無理で、右の斜面はブッ立っていて巻けない。一旦左側の谷に向かって懸垂。
降りるほどに傾斜が立ってくるので15mで切り、そこからロープを伸ばして尾根上復帰を図る事にする。
ここからのピッチが初日の核心となった。

岩壁下のヤブ混じりで支持力の弱い雪壁をトラバース後、枝に押し返されながら直上。
壁が覆いかぶさってきたのでホールドの無いルンゼを緊張しながらトラバースして逃げる。
しばらく緩い斜面を進むが、たいして続かないうちに谷へ切れ落ちる為、ルートを潅木混じりのボロ壁直上へ向ける。
最後は足元が枝なのかバンドなのか判らないキノコが発達しきれていないボロ雪の上を慎重に斜上し、なんとか尾根上に復帰してピッチを切る。
ヤブ雪壁、ヤブボロ壁、ボロ雪のトラバースに苦戦しリードが登りきったのが15時。結構時間を食ってしまった。

目の前には次のピーク。一旦コルに下がり雪壁へと続く。
時間が気になるが、次のピッチはここから見る限り短く、潅木もあり雪もしっかり繋がっているので問題なさそう。
地形図で見ると核心はそれで終わりの様子。
ダメなら右側の広い沢まで懸垂で逃げられそうなので、前進を決意。
そのままメンバーを迎えいれて16:15。
ヘッデンを準備して、次のピッチを全員が登りきったのが17:30頃。辺りがすっかり暗くなる。
ここで斜面掘って幕でも良かったけど、明日を考えるともう少し進めときたい。
もうロープは不要な感じだし、月明かりがかなり明るいのでヘッデン点けて続行。

次の1624ピークはヤブヤブで尾根通しの通行が困難。
斜面をトラバースして横からピークへ向けてヤブ漕ぎラッセル。
ピークを越えると岩壁で切れていたので懸垂15m。懸垂支点を探すのに少し苦労した。
そこから少し進んだピーク上が整地不要なほどの極上テン場だったので、これにて行動終了。
残業になったけど、とりあえず最低限の位置までは進むことが出来た。
テントの中で、翌日ピークを狙うことを前提にタイムスケジュールを確認し、サッと水を作ってメシと酒をカッと入れて22:30就寝。

●1/8 曇り時々晴れ
2:30 起床
4:30 出発
5:30 西窟(登山道合流)
9:00 蟻の塔渡り
11:00 八方睨頂上
13:30 西窟
15:30 奥社
16:30 奥社P

11時を引き返しのタイムリミットと決め、そうすると西窟は6時には通過したい。という事で逆算すると2:30起き、4:30出発、睡眠は4時間。
K池さんもN村さんもテキパキと朝の支度を済まし、やる気充分。
連日の寝不足長時間行動になるけど、メンバーに体調聞くと大丈夫との事。
月明かりが明るく、稜線が白く光る中、ヘッデン点けて黙々とラッセルで前進。昨日までと違い、藪は薄く取り立てて苦労することもなく5:30に西窟着。
不要な荷物をデポする。
ここからは一般登山道となり、藪が無くなるかわりに雪が深くなり、急斜面が始まる。

最初の雪壁を越える辺りで夜が明ける。昨日に比べるとスッキリとした雪壁のぼりだけど場所によって首ラッセル。
ザラメでスタンスが締まらない斜面や、岩のそばでは雪の下が空洞になっている箇所が多く、予想通り簡単には高度が稼げない。
雪壁の上部で岩が出ている急斜面で初めてロープを出す。岩に浅く雪がのっているだけで、ピッケルはカツカツ底を突き、スノーバーも使えず支点が取れない。見えないスタンスにアイゼンのツァッケを引っ掛けジリジリとランナウト。
無雪期に登ると判るが、ここの岩の凹凸は丸っとしているうえ剥がれやすく、アイゼンの掛かりがあまい。
運よく雪の中から鎖を掘り出し、やっとランナーがとれてホッとする。
あとから知ったがここは胸突き岩という名があり斜度約70度の難所らしい。
それを登りきると八方睨ピークがババーンッと迫り、ゴールはもう目の前となるが、最大の核心、蟻の塔渡りが行く手をふさぐ。そこは距離50m、最狭幅30cm、両側がスッパリ切れ落ちた岩のナイフリッジが続き、アップダウンがあるうえ雪も乗っているのでリードはとっても怖い。

ガスったり、風がある時は渡るのを躊躇しそうだが、この日は風も穏やかで視界もバッチリ。その分、足元の切れ具合や谷底もよく見えて恐怖は倍増。
雪の下が岩か空中かピッケルを刺して確認しながら少しずつ渡る。
無雪期に偵察したとはいえ、鎖やリングボルトは雪の下でどこにあるかわからない。欲しいところにランナーがとれず、心もとないがスノーバーで誤魔化す。
終了点の5m手前、最狭部30cm幅の剣の刃渡りを通過しホッとしたのも束の間。ロープいっぱい伸ばした所には適当な支点が無く、周囲の雪を掘りまくり、やっと見つけた2つのピナクルで支点を構築。2m離れた位置で掘り出したチビ潅木にバックアップをとってFIX。帰りの為にロープは固定したまま後続2人はプルジックで通過。

緊張の後、最後のラッセルをこなし、チムニーを抜けて頂上へでたのが11時。
リミットギリギリでピークを踏んだ。本院岳方面は雲が掛かっているが、こちらは風も無く晴れていて穏やか。
3人で無事登頂出来た事を喜び握手。少しだけ休憩し行動食をとって、すぐに下山に掛かる。
再び恐怖のナイフリッジを通過し、懸垂2回を交え西窟帰着。西窟尾根下降はヤブヤブだし、夏道も雪崩れる雪ではないので、そのまま登山道ルートを下降。
15:30奥社に下山。タフなメンバーで良かった。
雪に囲われた奥社を参拝し、杉並木の参道をのんびり歩いて戻った。
昨日の朝、細かった参道のトレースは、多くの参拝者があったのか立派な高速道と化していた。

今回、西窟尾根と八方睨を繋げてみたが、それぞれは全く別の性格だった。
前半の西窟尾根は細い尾根に幾つもの小ピークが続き、ヤブヤブボロボロで部分的にはP1尾根より難しいというか悪い印象。後半の八方睨の登山道は雪壁が続き、猛ラッセルと鎖場や蟻の塔渡りのナイフリッジ通過、ピーク直下のチムニーと難しいけどスッキリした印象で、前者と後者はとても対照的だった。
今回は当初計画から、直前にメンバー1名減、日程1日減という条件だったけど、天候に恵まれ、それ以上にメンバーの頑張りと意思統一のおかげで完登することが出来ました。2日連続の約12時間行動。お疲れ様でした。

【N村 コメント】
長野市に住んでいた頃には、近くて遠い存在だった戸隠はちょっとした憧れの山でした。
それを今回、初戸隠を冬季に西窟尾根から登るというなんとも贅沢な経験をさせてもらいました。
初日はヤブの中のラッセルも順調でした。適度な斜度、積雪量だったので、よいラッセルトレーニングができました。
後半にロープを出したあたりから結構難儀して、気がつけはヘッデン残業モード。
ロープを出した懸垂~トラバース後の壁の悪いことこの上なし。
A久さんすごいです。とても自分じゃ突っ込めません。
翌日は登頂への思いを胸に、2時半起床。一般登山道合流地(西窟)付近に荷物をデポして行ったけど、やっぱりワカンは持って行ったほうがよかったですね。結構なつぼ足ラッセルとなりました。
激深の雪に、これならラッセル敗退もありえるか?とよぎる。
また壁際を歩くと、その足元に隙間がのぞいたりすることがあってちょっぴりいやらしい。(帰路に見事にはまってしまい脱出に苦労しました)
クサリ場が何箇所か出てきましたが、これが一般登山道として良いのだろうか?というほどの悪さ加減。
核心の蟻の塔渡り、剣の刃渡りは見るからに悪く、フォローで行っても怖かった。
核心部はロープをフィックスしてありましたが、復路のほうが緊張しました。
何とか撤退リミットの11時に登頂することができたのは非常に幸運でした。
2日間天候にも恵まれ、なんだかんだと2日間連続12時間行動とかなりハードでしたがよきメンバーとともに充実した山行となりました。ありがとうございました。

【K池コメント】
苦や楽がぎゅっと凝縮した山行だった。なんといっても初めてのふかふかもこもこ雪にテンションが上がった。
痩せ尾根のルーファイが面白い。西窟尾根には地図に現れない小ピークが複数ある。難所をひとつ越えた時点で日没。
でもその先も期待に反して楽にならない。。。
 リーダーはこういうとき苦しいだろうなと思う。たまたま良い幕営地を得られたが就寝は深夜に。
 翌日は4時頃起きて行けるとこまでいけばいいという私に対して、「それじゃあ山頂には行けないよ、行くなら行く気で行動しないと。」とA久さん。最近負け癖がついていた私はA久さんの意気込みに引っ張ってもらったかんじだ。
翌日は2:30起床。なんと山頂に立った。やっぱりゴールできると嬉しい。
今回は偵察の効果も検証できた。偵察のおかげでルートの概要が把握できており安心感があった。
でももっと詳細(鎖の位置、小ピークの配置など)を確認しておけばさらに良かった。
もう1点特記すべきは蟻の塔渡りで滑落したこと。ロープに助けられ大きな墜落にならず自力復帰できた。
いつものアセンダーではなくプルージック※を使う重要性を実感した。色々な意味で充実した山行だった。この時期の雪稜をもっと楽しみたい。

★ヒヤリハット報告
当事者:K池
状況 :雪庇踏み抜き3m墜落
日時 :2日目 10:00頃
場所 :八方睨み核心部、「蟻の塔渡」と呼ばれる距離50mのナイフリッジ。
その中の最狭部、幅約30cmの「剣の刃渡」にさしかかる所にて。
内容 :以下のとおり
ほぼ無風、視界バッチリ、気温もそこそこで核心ピッチを抜けるにむしろは好条件だった。
A久がリードで通過後、ロープ両末端をFIXし、後続はプルジック※で通過。
(アッセンダーは方向性があるので)2番手のK池が最狭部に差し掛かった際に雪庇を踏んで3m墜落。終了点まであと7m程度だった。
以下本人のコメント。

<経緯>
最細部に差し掛かったとき、ピッケルでつついてどこまで地面があるかを確認した後、地面の上に足を置いた。
地面の幅は25cmくらいで、少し下りぎみ。まず片足を進行方向に対して横向きに置き、もう片方も乗せ尾根に鉛直に立とうとして体重移動した。
その時おそらく上半身がいくらか周囲の雪に加重していたのだと思う。雪が崩れ、共に落下した。
手前に打ったスノーバーと終了点の支点に支えられ、大きな墜落とはならず、自力でルート復帰。

<再発防止策>
バランスがとりづらいと思われる場所の通過は、最初から雪を崩して馬乗りになってしまうなどして、努めて安定した姿勢をとるようにする。

※プルージックの検証(A久)
今回、蟻の塔渡の通過はアッセンダーではなく、プルージックと計画書の段階で指示していたが、本当にこれが最良だったのか検証してみた。
 状況はアップダウンのあるナイフリッジの通過。ほぼ水平に張ったFIXロープにアッセンダーをセット。
 落ちる時は水平に前進する時の雪庇踏み抜き、もしくは下り気味の時の滑落、踏み外しが多いか?
各種アッセンダーの特徴とリスクを以下に並べてみた。

① ユマール、ロープマン、ダック等
方向性あり。前進は出来るが後退は出来ない。落ちると進行方向のロープが下がるのでアッセンダーが滑り墜落距離が伸びると予想。
復帰ルートが後方の場合は戻れない。
② タイブロック
上記①に同じだが、バネがないので更に滑ると思う。
③ シャント
上にも下にも進める。しかし、横移動ではどうなるか不明。1本のロープで使用する時の適合径はΦ10~11。今回のFIXロープには合わない。
④ プルジック等のフリクションノット
前にも後ろにも進める。今回のメインロープがΦ8.1、プルジックのロープシュリンゲがΦ5程度。墜落時に滑りが発生すると溶断の危険大。
⑤ FIXロープに環付きカラビナ掛け
ロックはしないが、前後に動けて溶断の危険が無いのは、環付きカラビナをメインロープに掛けて通過すること。
これは本によく出ているトラバース時の方法。ただし、ロープが岩角で切断した場合はすっぽ抜けてサヨナラ。

これらを踏まえ、行き着くところはフリクションノット+環付きカラビナ掛けなのか? もっと良い方法をご存知の方は教えてください。