メンバー:A久L、S津、Y田

●1日目(曇り)
6:30 品沢高原出発 – 7:30 P6尾根取付(1,200m)- 10:00 第一岩壁 – 13:00第2岩壁上プラトー – 16:10 ジャンダルム基部 C1

●2日目(晴れのち曇り)
3:30 起床 – 5:30 C1出発 – 8:00ジャンダルムのコル – 10:10稜線 – 11:00 下降開始- 16:20 第1岩壁上 C2

●3日目(快晴)
4:00 起床 – 6:00 C2出発 – 8:25 P6尾根


3度目の挑戦でしたが、今回やっと登れました。
これまで登った戸隠のルートの中では、最も変化に富んでおもしろく、そして一番むつかしいルートでした。

<2017年2月>
稜線直下の岩壁を回りこむとクライマーは完全にブラインドとなり姿が見えなくなった。
それまでジリジリ伸びていたロープもピタリと止まり、しばらくすると無線からY田の声が届く。
「雪庇がデカくて切り崩しに時間が掛かりそう。」 陽は傾き、寒風に震えながら無言の時間が過ぎていく。
時計の針は17時をまわった。時間切れだ。 スノーバーを残置し、Y田が懸垂でジャンダルムのコルまで戻ってきた。
束ねた笹にフリクションノットし、頼りないシュリンゲに身を預けて暗闇の中、ガリーを懸垂下降。
翌日の再TRYに僅かな希望をつなげるも、無情にも予報は天候悪化を告げる。
稜線まであと10mと迫り、完登に王手をかけていただけに敗退の決断は受け入れがたかったが、そんな未練を断ち切るようにロープを抜いた。この瞬間に前進の可能性は絶たれた。

<2018年2月>
Y田が事情で参加できず、2人パーティでの計画となる。
万全を尽くし3連休+1日の休みを確保したが、出発当日にS津さんが指を切ってしまい中止。
翌週仕切りなおし。初日にC1を第2岩壁上まで上げたかったが、FIXロープを張るにとどまる。
終日終夜に降り続いた想定外の降雪で積雪は約40cm。初日のスピードと雪崩リスクを考慮すると前進は厳しい。
敗退を決め、朝一にFIXロープ回収の為、第2岩壁を登り返す。皮肉にも天候は回復し日が昇るにつれ快晴の青空が広がる。
本当はこのまま登れたんじゃないか?という想いに後ろ髪を引かれ、何度もルートを振り返りながら下降した。

 

●1日目 曇り

3月に入ると気温は急激に上昇し、春の嵐に先を越されてしまった。
戸隠西岳を見上げると随分と黒い部分が増えたように見える。
林道をP6尾根が横切るいつもの場所から入山。下部の急斜面は雪が薄くなり、ヤブが顔を出していてうるさい。
高度を200m程上げるとヤブも埋まり雪山らしくなってくる。急峻な斜面も適度に雪が締まり、ほとんど沈まずに行程がはかどる。


ジャンクションピークを越え、不安定なリッジを立ち木を利用して乗っ越していくと最初の難所、第1岩壁にぶつかる。
出だしの垂壁はホールドが細かくいやらしい。前回までと違い雪が沈んでいる分、離陸が遠くなっているのだ。
雪が薄いので気休めのスノーバーも打てず、ランナウトを強いられる。ここは3回目だけど今回が一番難しく感じた。
第2岩壁を越えると、ルート上唯一安心して休める広いプラトーとなる。

本来ならここは360度の展望が広がり、上部の岩壁帯も望めて気分が盛り上がるのだけど、今回は生憎ガスの中。
ガスが流れ、第3岩壁が一瞬だけ不気味に黒い姿を見せた。そこへ続くナイフリッジも状態が悪そうなので早目にロープを結んだ。

ブッ立った岩壁の直登は避け、左の側壁にルートを求める。直前の雨で雪を剥がされた斜面は泥壁と化し、アックスがなかなか決まらない。
ルンゼと潅木のコンタクトラインを抜けてスノーリッジに戻り、小ピーク上でピッチをきる。

ここからいよいよルート核心部分に突入していく。足元から崩れそうな細く頼りない雪稜にロープをのばし、続くナイフリッジは雪庇におびえながらジャンダルムの基部まで慎重に渡る。
両側はスッパリと切れ落ちているが、今はガスに包まれ、白い底なしの空間が広がるのみ。

3人が揃う頃には上部のガスは晴れてきた。見上げると、P6の頭とジャンダルムを引き裂くように駆け上がるガリーが、我々を威圧している。
一方、眼下には雲海が広がり、夕日の沈む空に後立山のシルエットが浮かびあがる。
ナイフリッジ上、アイゼンを脱ぐのも躊躇うようなギリギリのスペースを整地し、宙に浮くようなイカしたテン場にもぐりこんだ。


●2日目 晴れのち曇り

夜明けと共に行動開始。テントを潰し、不要な装備をここにデポしてガリーの入口まで懸垂下降で近づく。
ガリーの登攀は中間部に核心がある。去年は右側からバイルでクラックを拾いハングを超えたけど、今回は雪が下がり難易度が上がっている。左の草付は傾斜が強いが行けそうだ。

取り付いてみると側壁に体が押さえられ、バランスの悪いクライミングを余儀なくされる。
打ち込むバイルも乾いた草付には決まらず、だましながら体を引き上げる。苦労して突破すると、後は雪壁を直上してジャンダルムのコルに達する。
いよいよここまで戻ってきた。見上げるピーク直下の岩峰が懐かしい。

残置したシュリンゲとも1年ぶりの再会だ。去年はここから1ピッチで突っ込んだが、ブラインドになるので今回は2ピッチに切る作戦にし、リベンジをY田に託す。
日当たりの良い雪壁は相変わらず雪が締まらず悪い。2本のスノーバーを打ち込み、岩壁を回りこんだところでピッチを切る。
ここが去年の最高到達点だ。右に目をやると稜線はコルとなって下がり、すでに目の高さで手が届きそうだが、垂直に削ぎ落ちた岩壁がさえぎって近づけない。

頭上には雪庇が発達し、それを避けるのであれば、恐ろしいほどの高度感に耐えて外傾した草付の壁にルートを取るしかない。
去年Y田が夕闇迫る中、孤独に闘っていた場所を初めて目の当たりにし、あらためてその凄まじさを知った。

そのまま次のピッチもY田に譲る。去年跳ね返された雪庇には亀裂が入り、我々を稜線へと導いている。
これを使わない手はない。スノーバーでセルフをとって狭い入口をスコップで切り開く。


凍った岩と割れた雪庇の隙間をチムニー登りで突破し、俺たちはついにP6の頭に立った。
これまでのルートの荒々しさとは対照的に、稜線は穏やかな傾斜となり我々を迎えてくれた。
これまで登った戸隠の各ルートが並んで見える。どれも魅力的で厳しいが、P6は格別だった。

ランナウトを強いられる岩壁登攀や高度感溢れる雪稜。凍ったルンゼやキノコ雪の突破。全てが一級品だった。
この日は第1岩壁上までテン場を下げ、3日目早い時間に林道へ下りた。